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中国の対外経済開放の新たな管轄形態−自由貿易試験区【中国問題グローバル研究所】 12月09日16時13分

【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、またロシアにおける現代中国研究の第一人者ウラジミール・ポルチャコフ教授らが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているウラジミール・ポルチャコフ氏の考察を紹介する。

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中国は2013年に対外経済開放の第二段階に入った。第一段階は、1970年後半に全体的な改革政策の一環として始まり、主として海外からの設備・技術、知識、資本の誘致に重点を置いた。 新たな段階では、中国の資本、財、サービス、技術の海外への大規模な輸出が、それらの誘致と少なくとも同程度に重要な課題となった。

現段階の対外経済開放はその大部分が、中国が取り組む地経学プロジェクトである新たな陸海の「シルクロード」に関連しており、その実施にはすでに100以上の国が何らかの形で関与している。

この段階におけるもう一つの重要な要素は、貿易や投資、国際銀行業務に関する最先端の国際規則や規制を中国が習得するのに役立てるため計画された「自由貿易試験区」(EFTZ)の創設だった。しかしこれまでのところ、本来なら集めてしかるべき国際社会の注目を浴びるには至っていない。これには二つの大きな理由がありそうだ。第一は自由貿易試験区が「一帯一路構想」の影に隠れていたことだ。「一帯一路」の方が大規模で、宣伝やプロパガンダにより適していたのだ。

第二に、その新たな経済事象の名称そのものが、中国が積極的に創設していた国・地域間の自由貿易圏の略称「自貿区」と似ていたのが、ややマイナスに働いた。状況を打開しようと、「試験」や「パイロット」という言葉を追加して「自貿試験区」としたり、二つの圏域に異なる英語名「zone」と「area」をそれぞれ使ったりしたが、実際にはあまり効果はなかった。

しかし、中国の自由貿易試験区はすでに6年以上も続いている。さまざまな運用試験が蓄積され、一部は国政で実践に移されている。 これらの試験区は近い将来、国際的に広く知られるようになり、中国の対外開放の第一段階で経済特区がもたらした現象に近い状況をもたらすだろう。

中国における自由貿易試験区の設立の歩みには興味深い背景がある。

自由貿易試験区は2013年秋に初めて上海市に設けられたが、これは当時の中国が直面していた課題と直結するものだった。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)という名の世界の貿易と投資の最先進国クラブへの加盟である。TPP創設に向けた交渉は合意間近とみられており、中国が世界貿易の先進的な規範を重視する意思を示すことが重要だったのだ。 中国が独自の政策として、EFTZ設置の最初の場所として面積28.78平方キロメートルの外高橋保税区を決めたのは示唆的だった。国際貿易に関して、全面的ではないにしても少なくともいくつかの優れた慣行が中国にあることを示したのだ。

同様に、自由貿易試験区の第二段階として2014年末に天津市、福建省、広東省への設置が続いた。これらの地域に試験区を設けるという選択によって、世界経済の中でも最も進んだ国際経済セグメントの規範やルールに適応するという中国の全般的な方針が強化された。一帯一路構想が進展するにつれ、中国は役割の拡大を主張し始めた。いわば、世界市場が機能するための規範とルールの策定において、自らの発言権を主張するようになったのだ。こうした考え方は、2016年8月に設置された自由貿易試験区の次のグループ(遼寧省、湖北省、重慶市、浙江省、四川省、河南省、陝西省)に関する課題策定においてさらに際立ってきた。

2018年春、海南省への自由貿易試験区設置が宣言された。おそらくその主目的は、自由港の考え方を発展させることにある。自由港は上海との関連で積極的に提案されていたことだが、海南省の洋浦港の方が明らかにリスクは低い。
一方、2019年は、いわゆる米中貿易戦争が少なからず影響を与え、国際的な経済活動が世界全体を通して低調気味な年となった。「部分的な脱グローバリゼーション」の動きに直面している中国が現在一義的に取り組んでいるのは、足元の困難を克服し、これまで築いてきた対外貿易や対外投資を維持することである。 対外経済活動を活発化させる一連の措置の一環として、8月に新たに6カ所の自由貿易試験区が設置された。このうち3カ所(広西チワン族自治区、黒竜江省、雲南省)は、国境地域に位置し、越境貿易が盛んな地域だ。他の3つの試験区は山東省、江蘇省、河北省に設置された。

もちろん、自由貿易試験区の高遠な長期目標に変化はないが、より実際的な当面目標が補完的に加えられたといえる。

自由貿易試験区の活動は、試験区ごとに特別に定められた「条例」によって規制されている。ほとんどの試験区は3つのエリアで構成され、総面積は約120平方キロメートルである。試験区自体とそれらが属する区域の両方に、統一されてはいないが、特別な管理機関がある。試験区の経済目標は、「総体方案」で定められている。主要課題は基本的に共通である。すなわち、「1つの窓口」の原則による貿易取引の登録手続きの簡素化、外資系企業向けの経済・社会サービス領域の拡大(外資が参入できない業界を定めた「ネガティブリスト」に従うもので、リストに記載の業界は年々減少している)、金融サービスにおける外国の金融・ビジネス業界との相互連携の進展である。また、ほとんどの試験区は、陸海の「シルクロード」建設を支援する機能を有している。

同時に、各試験区とその構成区域は、その地理的特徴に結び付いたより具体的な目標を設定している。例えば、東北部の発展と北東アジアの統合(遼寧自由貿易試験区)、「大湾区」における協力発展の促進(広東自由貿易試験区および広東・マカオ・香港の協力)、「一帯一路」諸国との農業分野や文化における協力(陝西自由貿易試験区)などである。さらに、試験区内の別々の地域が、非常に意欲的な各々の地経学的課題に取り組んでいることも多い。こうしたことからみると、大連は北東アジア最大の航空貨物ハブの一つになっていくはずである。舟山群島(浙江省)はアジア太平洋地域におけるアジア沿岸区域最大の船舶給油拠点に成長するだろう。

現在、自由貿易試験区は中国の対外貿易額の約12%を占めている。試験区活動の顕著な経済効果が表れ始めるのは、本格的な運営開始から3~5年後と見込まれる。

黒竜江省における自由貿易試験区の設置は、中国とロシアの貿易と経済協力にとって画期的な出来事である。というのも、試験区内にある特定の地域(省都ハルビン、国境都市である黒河や綏芬河)が、常に両国の地域間協力の最前線になっているからである。

※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/



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