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【第1回】証券アナリストの競争のルールを学ぶ

 

 個人投資家の皆さんは、「証券アナリスト」について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。ここでいう証券アナリストとは、大手証券会社に所属するセルサイドアナリストのことを指しています。株式投資にご興味をお持ちの方は、セルサイドアナリストが、「買い/中立/売り」といった投資判断を記したアナリストレポートを執筆していることはご存知かもしれません。

私はセルサイドアナリスト経験者として、是非セルサイドアナリストについて理解を深めていただきたいと考えています。なぜなら、セルサイドアナリストは株式市場において株価の形成に大きな影響力を持っており、彼らの競争のルールを理解することで、個人投資家として不必要に高いリスクを取ることを回避できると考えるからです。

今回は、セルサイドアナリストの行動パターンのご紹介を通じて、セルサイドアナリストの競争のルールを解説致します。

さて、セルサイドアナリストの仕事について、少し具体的なイメージを持っていただきましょう。私が外資系証券会社でテクノロジー業界の担当アナリストをしていた頃の行動パターンを簡単に記したいと思います。

セルサイドアナリストの朝は早く、午前4時台に起床し、自分の担当企業に関するニュースを新聞、インターネット、海外の同僚からのメールなどでチェックします。株価に影響を及ぼしそうなニュースがあれば、直ぐにタクシーに飛び乗って出社し、7時頃には速報レポートを書き上げ、7時過ぎから行われる朝会に参加します。朝会というのは、世界各地の日本株営業スタッフに対して、セルサイドアナリストの意見を伝達する場です。日本株営業チームは、アナリストレポートと朝会で聞いたアナリストの説明をもとに、世界中の機関投資家(ヘッジファンド、投資信託、信託銀行、保険会社など、資産運用を行う会社)に売り込みを行うのです。

朝会を終え、8時頃に自席に戻ると、サンドイッチなどの軽食を取りながら、営業スタッフや顧客である機関投資家から寄せられるメールや電話によるリクエストに対応します。大きなニュースがあった日などは、延々と電話が鳴り続けるため、食事を食べることはできず、移動中にタクシーの中から海外に電話をすることも珍しくありません。

日中は、様々な企業の取材や、機関投資家訪問(顧客である機関投資家に、自らの投資判断を説明)といった対外活動を行います。そして、日が暮れてから、アナリストレポートの執筆に取り掛かります。夜は夜で、欧州や米国の日本株営業スタッフから電話やメールでの問い合わせが来るため、平日は一日4時間も睡眠をとれれば幸せな部類でしょうか。

「セルサイドアナリストは激務だ」と思われた方が多いことでしょう。実際、激務だと思います。しかし、ここで最もお伝えしたいことは、セルサイドアナリストの顧客は機関投資家であり、機関投資家の満足度を上げるために相当な時間を費やしているという点です。

機関投資家は、一定期間に証券会社から受けたサービスを定量的に評価し、その評価を基に、どの証券会社にどれだけの株式売買発注手数料を支払うかを決定します。一般的に、セルサイドアナリストのサービスは、証券会社が機関投資家に提供するサービスラインナップの一つであり、そのサービス如何で証券会社の収益、そしてセルサイドアナリスト自身の処遇に影響が出る構造になっています。そのため、セルサイドアナリストは、取材やレポート執筆以上の時間を、顧客である機関投資家や、顧客のニーズを取り次いだ営業担当スタッフへの対応に充てているのが実態なのです。

では、機関投資家からの評価を上げるにはどうすればよいのでしょうか。セルサイドアナリストも十人十色、様々なタイプがいます。産業界出身で人的ネットワークを活かした情報収集に長けた人、会計面に強く他の人に先んじてリスクを発見できる人、接待で強みを発揮する人、癒し系アナリストとして人に好かれる人など、本当に様々です。しかし、機関投資家は、資産運用により高いリターンを上げることを目標としていますから、セルサイドアナリストの競争の本質は、まだ市場が見出していない株価の上値/下値を人に先んじて見出すことにあります。つまり、株式市場で株価を形成している「コンセンサス」を出し抜くことに最大の価値が認められているのです。

コンセンサスというのは、例えば、A社を担当するアナリストが15人いた場合、15人の業績予想の平均値を意味します。株価はコンセンサス業績予想に連動して上下動する傾向があるため、セルサイドアナリストは、まだコンセンサスになっていない成長シナリオ、財務リスク、イベントをいち早く見出し、アナリストレポートを通じて機関投資家にアピールすることに執念を燃やすのです。大手と言われる証券会社だけでも15社程度あり、各社がセルサイドアナリストを擁しているため、日々「コンセンサスを出し抜く」熾烈な戦いが繰り広げられています。

執筆:株式会社ナビゲータープラットフォーム代表取締役 原田 慎司

原田 慎司(はらだ しんじ)氏
個人投資家向け投資アイデアサイト「Longine(ロンジン、http://www.longine.jp/)」の運営会社である、株式会社ナビゲータープラットフォーム代表取締役

経歴
一橋大学経済学部卒。
大和総研、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ドイツ証券及びシティグループ証券で証券アナリスト、M&Aバンカーとして勤務。
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォームを設立し、Longine(ロンジン)の運営を開始。

掲載日:2013年11月21日
   
    

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