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「強固なタフネス」より「しなやかなレジリエンス」の時代へ

多くの人は精神的に「強く」ありたいと思っている。

仕事のプレッシャーや職場の人間関係のストレスで凹む、家族・夫婦関係のトラブルで落ち込む、想定外の事態が起きてひどく動揺するなど、「もっと自分が精神的に強ければ」と思うことは少なくない。また、「失敗したくない」「挫折を味わいたくない」と思うのが人間の性質のひとつだ。しかし、これからの時代、本当に「強さ」だけが精神的に健康で重要なことだろうか?「失敗しない」ことが本当に大切なことだろうか?最新の心理学や職場の人材育成の世界では、従来の強さ=「タフネス」よりも、しなやかな回復力=「レジリエンス」という概念が注目されている。

つまり「レジリエンス」とは、「鋼のような強さ」ではなく、「ヤナギのようにしなやかで決して折れない強さ」であり、「失敗や挫折をしても、その経験を糧に回復して成長する回復力」のことを指している。元々は心理学用語であるが、その考え方については、ハワイにおいて1950年代に生まれた698名の子供たちを対象に、出生前から30年以上の時間をかけて追跡調査を行った興味深い研究がある。研究対象の子供たちはみな、親の精神疾患や、貧困、暴力などの不安定な家庭環境に育つリスク要因をもってうまれた子供だ。このような逆境に育った子供たちを追跡調査した結果、三分の二の子供たちが、精神疾患やアルコール・ドラッグ問題、犯罪などの社会的に問題を抱える大人になったのに対し、三分の一の子供たちは、社会に適応した健全な大人に成長したことが明らかになった。さらに、三分の一の適応した子供たちにはある共通項が発見された。それは、「成長のプロセスで少なくとも一人は信頼できる大人との絆があったこと」、「問題解決力に長けていたこと」、そして「自分の運命を自分で切り開くという信念を持っていたこと」などであった。つまり、同じように劣悪な環境に育っても、このような「レジリエンス力」を持つ子供たちは成功して幸せな人生を送ることができると証明されたのだ。

この「レジリエンス力」の発見は、その後の心理学に大きな影響を及ぼした。それまでは、幼少期の親や環境によるトラウマでこころの病気にかかった場合は、その体験を振り返る精神分析が主流だった。しかし、現在では、それだけでなく、つらい体験を乗りこえ、回復するためのレジリエンス力を身につけることが重視されるようになったのである。今、これがビジネスシーンで注目され、応用されている。

このレジリエンスという考え方は、実は非常に「日本人的な強さ」でもある。日本女子サッカーチームの「なでしこJAPAN」が、2011年の女子ワールドカップで世界一になったことは記憶に新しいだろう。屈強なアメリカチームを相手に、先制点をとられてから驚異的な粘り強さを見せ、見事に逆転勝利をした。その翌日、海外メディアはなでしこJAPANを「レジリエントなチーム」、「なでしこはレジリエンスを発揮した」と称賛した。また、東日本大震災で静かに忍耐強く立ち上がる日本人の姿に、世界中の人々は「なんてレジリエントな国民なのだ」と尊敬の念を持った。5年前には体調不良で無念のうちに総理を辞職した安倍晋三氏も、再び総理大臣として返り咲き、年初からアベノミクスを力強く主導している。それぞれが困難な状況からの回復、適応、そしてその経験を糧にした成長を遂げ「レジリエントな強さ」で対応したと言える。

今、世界の社会経済は加速度的に複雑になり、予測困難な事態が頻発している。大震災、欧州債務危機、政局、など枚挙に暇がない。むしろ、「こうあるべき」と一つの考え方に執着し過ぎたり、誰の力も借りずに自分一人で強くあろうとすることこそリスクが高い社会になった。そのような中で、「レジリエンス力」の高い人のほうがより精神的にも健やかに過ごせ、予想不可能な困難な事態に遭遇しても、それをプラスにとらえてポジティブな成長ができる。

チャールズ・ダーウィンの言葉、「最も強いものが生き延びるのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できるものである」は、まさにレジリエンスの本質をついた至言ではないだろうか。

 

荻原 国啓(おぎわら くにひろ)プロフィール
過去コラム一覧

荻原 国啓

ピースマインド・イープ株式会社代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部卒。在学中より人事コンサルティング会社新規事業開発や、新卒人材紹介事業等、人事マネジメント分野に従事後、(株)ピースマインド代表取締役社長(1998年創業~2011年3月)を経て現職。

日本国内最大規模のEAP(従業員支援プログラム)提供企業としてEAPやメンタルヘルス支援など、心理学・行動科学の専門性を活かした人と組織に関わる支援とコンサルティングを550以上の組織に展開。精神保健福祉士・産業カウンセラー・心理相談員。日本の起業家を世界に輩出する唯一の世界的起業家表彰制度EOYjapan2008セミファイナリスト。日本の次世代若手ベンチャー起業家を称える表彰制度DREAM GATE AWARD2008受賞。『クリックからはじめる自殺予防支援』代表世話人。

専門分野は人事・組織マネジメント、人材開発、EAP(従業員支援プログラム)、ストレスマネジメント、メンタルヘルス、震災ケア、レジリエンス、クライシスケア、ソーシャルビジネス等。

掲載日:2013年7月24日

 
    

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