株式・投資信託・ETF・退職・年金 投資に役立つ「ケイゾンマネー」

正しい投資教育のための二つのブレークスルー

筆者は、大学での授業なども含めて、いわゆる投資教育的な仕事や活動に関わって来たが、いくつか不満に感じてきた点がある。一つは、金融ビジネスの利害からニュートラルな立場からの投資教育の機会が圧倒的に少ないことであり、もう一つは、受講者の基礎学力の低さだ。

世の中に、投資教育と称する試みは、決して少なくはない。しかし、その多くが、証券会社、銀行、生命保険会社、運用会社など、金融機関をスポンサーとするもので、自らの運用商品を売り込む上で都合のいい知識を受講者に与えようとするものだ。筆者は、この種の投資教育を「カモの養殖」と呼んでいる。たとえば、実際には投資リターンの改善に役立たないチャート分析を教えるのは、チャートが、投資家に知識や調査の時間がなくても、気軽に売買を行うきっかけとなるからであり、証券会社にとって、売買手数料の増加に役立つからだ。 学生などを相手に、株式の模擬売買ゲームを体験させるような機会も、同様の意図を持ったものだ。株式投資の基礎知識を持たずに、ゲーム感覚で売買の要領だけを覚えても、資産形成としての投資の役には立つ知識は得られない。この種の早く結果が出るお遊びを「実践的な投資教育」だと勘違いする向きが多いのは、困ったことだ。

投資教育を受ける側にも問題がある。投資の損得に関わる計算があまりに出来ない場合が多いのだ。これは、受講生ばかりでなく、投資教育の先生の立場に立つFP(ファイナンシャル・プランナー)にもよくあることだ。率直にいって、FPが10人居ても、そのうちの9人は運用アドバイスのために十分な知識を持っていない。最大の問題は、複利の計算や、リスクの計算が正確に出来ていないことだ。

さて、こうした我が国の投資教育の閉塞状況を打破するために有効と思われる方策が二つある。

一つ目は、金融機関そのものでもなく、金融機関がスポンサーになることもないNHK(日本放送協会)が投資教育の番組を継続的に流すことだ。NHKのEテレ(旧教育テレビ)がいいのだろうと思うが、売り手側ではなく、投資家側の立場からの投資教育を提供することが望ましい。NHKは、ビジネスの利害の影響を受けない「正しくて中立な情報」を提供するために存在すると思うのだが、いかがなものだろうか。

もう一つの方策は、中学校、高校の数学の授業に金融関係の計算を盛り込むことだ。複利計算、割引現在価値、等比級数の和、標準偏差、相関係数など、金融的な計算に必要な内容の殆どが、高校生までの数学に登場している。しかし、多くの大学生や大人がこの内容を使いこなすことが出来ていない。たとえば、中学校や高校の数学の教科書に金融計算に関連する内容が盛り込まれて、高校入試、大学入試に関連する問題が出題されるようになると、金融計算に真剣に取り組んで、損得に敏感な投資家が増えるのではないだろうか。たとえば、毎月分配型の投資信託は、運用内容が同じで利回りがプラスなら、課税が早まる分だけ、年一度分配の投資信託よりも不利であるというような計算が常識として浸透することが期待できる。

NHKのEテレと中学・高校の数学での正しい金融教育が普及すると、金融機関が提供する投資教育も、現在よりもましなものになるだろう。どちらも小さな工夫だが、意外に大きく現実を改善することが出来るのではないだろうか。

山崎 元(やまさき はじめ)プロフィール
過去コラム一覧

山崎元

楽天証券経済研究所客員研究員
獨協大学 経済学部特任教授
株式会社マイベンチマーク代表取締役

1981年東京大学卒業後、三菱商事、野村投信を筆頭に、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、
パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。

ファンドマネジャー、コンサルタント等の経験を踏まえ、資産運用分野が専門。
雑誌やウェブサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。

掲載日:2013年7月25日

 
    

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