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パーキンソン第2法則とアベノミクス

 今から53年前、つまり1960年に出版された1冊の経済本だけは未だに忘れることができない。そのタイトルがズバリ『金は入っただけ出る』だったからだ。著者は英国の歴史・政治学者シリル・ノースコート・パーキンソン。世にパーキンソンの法則で知られている人物である。

 本の内容はいわゆる第2法則で「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」というもの。我々人間は貧しいうちは食べるだけで精いっぱいだが、所得が増えてくるに従ってそのお金をどう使おうかと考えだす。やがて支出は所得に応じて増えるばかりでなく、所得を超える傾向があるというのだ。どうりでいつまで経っても貯蓄が増えないわけだ。

 それでも個人の借金には限界がある。銀行はもちろん誰も貸してくれなくなるからだ。ところが国家となると話は別である。借金に歯止めが利かなってしまうのだ。ヨーロッパ金融危機を引き起こしたギリシャ、スペイン、ポルトガルなどを見ればよくわかるだろう。

 日本もけっして褒められたものではない。国家予算は本来税収の範囲内で賄うべきものである。しかし戦後、歳入が不足してしまった時にその穴を埋めるため1年に限って"例外的"に赤字国債を発行できる特例公債法というのを制定してしまった。この味を一度覚えてしまうともう止められない。発行した国債、つまり借用証、は金融機関などを通じて国民が何の疑いもなく負担し続けてくれるからだ。特例のはずがいつの間にか毎年になり、借金は積もり積もって1000兆円に達する勢いである。政府債務残高がGDPと比べて230%を超える先進国は世界を見渡しても日本しかない。借金王ギリシャでさえ160%程度なのだ。幸い日本はまだ650兆円の資産があるから持ち堪えているが、それも少子高齢化で減少の一途。つまり金は入ってくる以上に出ているのである。それでもほんの一握りの人しか危機感を持っていないところがこの国の摩訶不思議だ。

 パーキンソンによれば、政治家がまずなすべきことは国家が支出できる金額を知ることだそうだ。過去の浪費がその味を教えてくれた金額(借金+税収)ではなく、まともに手にすることが出来る金額(税収)であると。さらに政府の浪費熱は国民に対しても悪影響を与えるとも書いている。政府が使い過ぎの常習犯なら、個人も所得の範囲で済まそうとはしなくなるからだそうだ。その結果、国民も浪費が癖になりクレジット地獄に堕ちていく。米国がいい例だ。

 それならば増税をすればいいと思うのは大間違い。税金の徴収には一定の限界があり、それを無視すれば民衆が反発してろくな事にはならない。結論は、歳出に合わせて歳入を測ると失敗するということだろう。

 日銀に金を刷らせて改革を進めて行く安倍政権のアベノミクス手法はかつての小泉構造改革と一見よく似ている。しかし小泉改革では金融緩和政策を積極的に行う一方で財政出動を極力抑えて財政再建とデフレ解消を目指した。安倍政権は借金が膨らむ大規模な公共事業の実施を掲げている。景気が良くなれば税収も増えるという理屈だが、そんな程度で莫大な借金が減るとは思えない。景気が回復して金利が上がれば利払いも増える。政治家にはまず茶色に変色した古本『金は入っただけ出る』を読み直すことから始めてもらいたい。

蟹瀬誠一(かにせ せいいち)プロフィール
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蟹瀬誠一

ジャーナリスト・キャスター、明治大学国際日本学教授

(株)アバージェンス取締役、(株)ケイ・アソシエイツ取締役副社長

掲載日:2013年7月16日

 
    

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