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アベノミクスの功罪「現役半数割れに備える」

アベノミクスは何をもたらすだろうか。

少し前になるが、年金の議論が大きく取りざたされていた時、その中心は「消えた年金」といった手続きの問題と年金財源の問題だった。前者はメディアのなかでいつの間にか忘れ去られ、後者は赤字財政一般論に飲み込まれ、アベノミクスで対応できるかにみえる。しかし、その頃から抜け落ちていた肝心な課題、「その受給額で生活できるのか」という基本課題は全く議論されず、また改善されているようにも思えない。

4月にサラリーマン1万人を対象にした「老後の準備と投資」に関するアンケート調査を実施した。そのアンケートの設問の一つとして、公的年金に対する安心度とその背景を聞いた。「あなたにとって公的年金は安心できる制度か?」の設問に対して、「とても安心できる」「まあまあ安心できる」の「安心派」合計は7.9%にとどまった。「あまり安心できない」「不安だ」の「不安派」合計は85.5%、残りが「わからない」。3年前には「不安派」の合計は89.0%だったので、依然高い水準とはいえ不安が若干低下したというところだろうか。

そう考える背景として、3年前に比べ最も比率が上がった「安心派」の安心ポイントは、「景気が回復すれば運用で資産が増加すると思っているから」。3年前の29.2%から今年は33.0%へと4ポイント弱増えている。逆に「不安派」の不安ポイントとして最も大きく比率を下げたのは「景気の低迷が今後も続き運用面でも不安が多いと思っているから」で、3年間の22.3%から今年は13.3%と10ポイントも低下している。

これはアベノミクスの負の側面なのかもしれない。株価が上がったことで、またこれから景気が良くなるかもしれないとの見方が広がったことで、年金の運用は最悪期を脱し、「年金に少し安心感が出る」かもしれないとの期待が出ているのだろう。

しかし、公的年金の課題は運用益の議論よりは超高齢社会という人口構造の変化そのものにある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2050年には現役世代である20-64歳の人口が4,643万人にまで減少し、65歳以上人口は3,768万人となる。現役世代には学生や専業主婦も含まれることから、勤労者を想定すれば、すでに1人が1人を支える時代、まさしく「世代間での肩車」の時代になる。さらに1,297万人と予想される19歳以下の未成年者を支えられる側に加えると、支えられる側の人口は52.2%と初めて総人口の過半数に達する。

こうした構造的な課題を抱えて、世代間扶養の考え方が維持できるだろうか。年金制度は続くかもしれないが、そこから得られる受給額で老後の生活を維持できる制度でなければ意味はない。さらにインフレになれば、生活費が嵩むことも懸念しなければならない。

株高や円安に伴う運用の改善期待で公的年金の懸念が後退し、それが退職後の生活の準備をする「自助努力」への決意を鈍らせるとすれば、これは忌々しき事態と言わざるを得ない。景気回復への期待が生まれ、総悲観の時代ではなくなった今こそ、「公的年金は国民の退職後の生活を支えるにはあまりにも脆弱である」ということを政府は正式に認める時期ではないか。本格的な「自助努力」はそこからスタートする。

野尻 哲史(のじり さとし)プロフィール
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野尻 哲史

フィデリティ投信 フィデリティ退職・投資教育研究所所長

一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て、2006年からフィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長。大規模なアンケート調査をもとに投資家への提言をするなど、投資教育に従事。

「退職金は何もしないと消えていく」(2008年) 、「老後難民 50代夫婦の生き残り策」(2010年)、「40代のサイフ」(宝島社、2012年)、「50歳から始めるお金の話し」(2013年2月、小学館文庫)など著書も多数。

現在、日本アナリスト協会検定会員、日本FP学会、日本証券経済学会、行動経済学会などの会員。

 

掲載日:2013年8月1日

 
    

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