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減速続く中国経済―急がれる景気刺激策の実施

中国経済の減速は続いている。

国家統計局の発表によれば、経済成長率は第1四半期(1-3月)の7.7%から第2四半期(4-6月)の7.5%へと減速が続いている。李克強首相は景気減速を食い止める金融緩和策や財政出動を採らないとしている。このまま行くと、第3四半期の経済成長率はさらに7%に近づく可能性が高く、景気減速は社会不安をもたらす恐れがある。世界経済のけん引役と期待されている中国経済はなぜ突如として減速するようになったのだろうか。結論を先取りすれば、それは景気循環によるものではなく、経済成長モデルの転換が遅れているからである。中国経済の成長は投資と輸出に依存しているが、政府主導の投資は一巡し、輸出も欧米諸国の景気減速により難しくなっている。ここで消費に対する期待が高まっているが、家計の消費は思うように盛り上がらない。

なぜ家計の消費が盛り上がらないのだろうか。

巷の通説では、社会保障制度は整備されていないから、家計の財布の紐がきついといわれている。仮に、この通説が正しければ、中国経済が回復する可能性はかぎりなく小さいはずである。正しい見方は、社会保障制度は消費の拡大にプラスの影響を与えるが、家計の消費性向を高める一番の要因は社会保障制度ではなく、所得の伸びに対する期待である。要するに、家計の消費性向が高まらない一番の原因は中低所得層を中心にその所得が近年ほとんど伸びていないことにある。もう一度投資をみると、長い間、政府主導の投資は経済成長をけん引してきたが、民間投資は伸び悩んでいる。中国では、国民貯蓄のGDP比は50%を超えており、家計の貯蓄率は30%に達している。

こうした過剰貯蓄が続いているにもかかわらず、経済をけん引している民営企業では、流動性不足が起きている。その原因は非効率な金融制度にある。そもそも金融システムの役割は貯蓄主体の家計部門から投資主体の企業部門への金融仲介である。中国では、国有銀行は国有企業にしか融資しない。なぜならば、国有企業の借り入れについて政府がバックアップするからである。それに対して、民営企業は国有銀行を中心とする商業銀行に融資を申し込んでも、担保がなければほとんど門前払いされてしまう。このような論点整理から分かるように、中国経済の構造問題は一目瞭然である。消費需要がもっとも高い中低所得層の家計は所得が伸びないため、消費したくてもできない状況が続いている。それに対して、一握りの富裕層はほしいものはすべて手に入っているため、潜在需要が限られている。

投資についても消費と同じような二極化現象が観察される。国有企業は資金面において恵まれているが、その投資需要は限られている。仮に、投資しても製鉄所などの重複投資が多い。それに対して、民営企業は設備更新のための投資需要が多いが、資金調達に困っている。

胡錦濤前国家主席は構造転換を図るために、「科学的発展観」を提起した。残念ながら10年経過しても、中国経済の成長モデルは依然として科学的になっていない。李克強首相は景気浮揚を急ぐ代わりに、流動性の流れを変えようとしている。「金融市場では、流動性が不足しているのではなく、実体経済に資金が行き渡らないだけである」と李克強首相が指摘している。正しい見方だが、問題はどのようにして資金循環を変えるかだ。改革の必要性は一目瞭然だが、実は、あらゆる改革は短期的にはマイナスサムゲームである。すなわち、いかなる改革でも必ず既得権益集団によって抵抗される。それゆえ、経済改革を推し進める前提は一定の経済成長を維持することである。

経済成長が鈍化するなかで改革を推し進めようとすると、抵抗がいっそう強くなる。したがって、李克強首相は改革を進めるためには、まず景気をある程度浮揚させる必要がある。そのうえ、改革のアジェンダとロードマップを提示する必要がある。金融制度改革に限っていえば、緊急性の高い改革として(1)国有銀行の完全民営化、(2)金利の自由化と預金保険機構の設備があげられる。仮に、経済成長率が7%を切るようになれば、改革はいっそう難しくなると思われる。

柯 隆(か りゅう)プロフィール
過去コラム一覧

柯 隆

富士通総研経済研究所 主席研究員

中国南京市生まれ
1988年1月来日
同年 愛知大学法経学部入学
1992年3月愛知大学法経学部卒業
1992年4月名古屋大学大学院経済学研究科入学
1994年3月名古屋大学大学院経済学研究科修士取得
同年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年10月 富士通総研経済研究所主任研究員
2006年7月より現職

著書
中国が普通の大国になる日」(日本実業出版社、2012年) 
チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社、2010年)
中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社、2007年)
「日中『歴史の変わり目』を展望する」(勁草書房、2013年、共著)
"Global Linkages and Economic Rebalancing in East Asia", World Scientific Publishing Company, 2012 (共著)
「中国の統治能力」(慶応義塾大学出版会、2006年、共著 ) など

掲載日:2013年8月6日

 
    

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