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「職親」で社会復帰への再チャレンジ

お好み焼き「千房」(大阪市)の社長である中井政嗣さんの採用方針は、「学歴・身元不問。ネコの手以上なら誰でも採用。元暴走族や元非行少年でも、『働きたい』というやる気があれば十分」であるという。

中井さん自身も中学卒業後、丁稚奉公から身を起こし、40歳で通信制の大阪府立桃谷高校を卒業、いまや国内外に63店舗を抱え、年間300万人以上が来店する企業にまで成長させた、並々ならぬ信念の人である。「受刑者は出所後に雇用の受け皿がなく、再犯者率が高い」と聞いたことが契機となり、中井さんは刑務所内で求人の募集をかけ、これまで9名を千房で採用してきた。最初は社内にも不安があった。が、彼らのまじめな仕事ぶりに中井さんは「過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」と確信し、出所者に職場を提供できる喜びと誇りを感じてきたという。

「犯罪白書」(平成24年度版)によれば、一般刑法犯により検挙された者のなかで、刑務所から出所した者の再犯率は43.8%(平成23年度)と、9年から一貫して上昇し続けている。つまり5人に2人が再度、罪を犯していることになり、この背景には仕事や住居の確保の困難、さらに相談相手の不在があるとされている。無職の人の再犯率は、仕事がある人に比べて5倍にもなることからいかに就労支援が重要であるかがわかる。出所者の採用経験のある中井さんが中心メンバーとなり、今年2月に日本財団と関西の企業で出所者への「職親プロジェクト」をスタートさせた。親のように親身になって就労体験から継続就労へとつなげる試みで、今後5年間で150名の採用することを目指している。対象者は殺人や強盗、性犯罪など重大事犯以外の者で初犯であることが条件だ。

「職親プロジェクト」には千房のほか、美容室経営のプログレッシブ(大阪市)、カンサイ建装工業(岸和田市)など10社が参加している。具体的な流れはまず、刑務所に募集要項を示し、企業側が応募者の面接を行って、その後、受け入れが決まれば社員寮を居住場所として提供する。これに対し、出所者の自立支援のために日本財団を通じて、1人8万円(1カ月)が支払われる仕組みだ。一般的に罪を犯し、服役した人に対する社会の偏見は根強く、就職は困難をともなう。年間3万人とも言われる出所者がいるなかで、法務省も全国の中小企業等に雇用を呼びかけてはいるが、景気回復が本格的にならなければ企業は雇用そのものを伸ばせない。とりわけ若い人にとっては仕事の確保如何で「人生のやり直し」ができるかどうかが決まる。

また、刑務所内では受刑者に対して、職業に関する免許や資格の取得、職業に必要な知識・技能の習得も推し進めている。園芸・造園、溶接、自動車整備、木工といった従来型のものから、最近では民間会社が運営に加わるPFI方式の刑務所を中心に受刑者への職業訓練は、介護やCADなどの等のコンピューター関連技術、エステといった多様化が進んでいる。雇用状況や求人情報等、社会の要請にこたえなければ出所後の就労が円滑に進まないからだ。いくら多様な職業訓練を実施し、受刑者のモチベーションを高め出所後の準備を行っても、肝心の受刑者の実習先確保が難しければ、社会復帰にはつながらない。今回の取り組みは、仕事とともに住宅をあわせて提供できることで出所者にとっては二重の安心につながる。

「職親プロジェクト」は6月には東京の企業10社を入れて取り組みをさらに拡大し、さらに全国に広げる構想もあることで、出所者の社会復帰に大きな期待がかかる。是非、参加企業名をもっとアピールしてほしい。「職親プロジェクト」に参加する企業の商品を買ったり、サービスを利用したりと、私たちも間接的に彼らの社会復帰を応援することができるのではないだろうか。


白石真澄(しらいし ますみ)プロフィール
過去コラム一覧


関西大学教授

1987年 関西大学大学院修士課程 工学研究科 建築計画学専攻 修了
(株)西武百貨店、(株)ニッセイ基礎研究所 主任研究員を経て、2002年4月より東洋大学経済学部 社会経済システム学科教授
専門テーマは「バリアフリー」、「少子・高齢化と地域システム」

掲載日:2013年8月14日

 
    

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