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アナリスト・レポートは「旅のガイドブック」程度の役割だ

筆者が、かつて、運用会社に勤めていた時、一般投資家向けに投資銘柄の推奨を書いている株式評論家から、証券会社が機関投資家に送ってくるレポートを横流ししてくれないかとの依頼を受けて、驚いたことがある(丁重にお断りしたが)。ファンドマネジャー時代の筆者は、証券会社のアナリストが書いたレポートを殆ど読まずに捨てていたからだ。

率直にいって、アナリストのレポートは投資パフォーマンスの改善の役に立たない。別に、アナリストに喧嘩を売りたいわけではないのだが、アナリストの株価レーティングに従って投資戦略を組み立てた場合に、どのような運用パフォーマンスが得られるかという調査は、洋の東西を問わず何度も行われているが、アナリストの判断が投資パフォーマンスの改善に役立つという結果が出たものは、まだ見たことがない。筆者自身も、数千件の株価レーティングのイベント・スタディーをやったことがあるが、「役に立たない」が結論だった。それはそうだろう。アナリストが、投資銘柄の将来の投資収益率を的確に予想出来るなら、証券会社はアナリストの情報を外部に提供しないで、自分たちで使うだろう。或いは、アナリスト自身が自分で投資するはずだ。そもそも、マーケットの世界では、投資収益改善の役に立つ情報を他人に教えること自体が不自然なのだと知らねばならない。

では、証券会社のアナリストは雇っている側から見て何の役に立っているのか。

一つには「表の機能」だが、主に機関投資家顧客の相手をすることによって、機関投資家から売買注文を引っ張ってくる上で役に立っている。前述のように、運用の改善に役に立っているかどうかは疑わしいのだが、機関投資家は、証券会社のアナリストのレポートがあれば、年金基金などの顧客に対しては、投資銘柄について調査したと言い張ることができるので便利なのだ。それでは、アナリストの「裏の機能」は何かというと、分析対象企業の経営者とのコミュニケーション・チャネルだ。アナリストのあり方として、本来はまずいことなのだが、企業から見て、証券会社のアナリストは、株価に影響を与えるかも知れない人だし、都合のいい情報を世間に伝えてくれるかも知れない情報の発信元だ。経営者とアナリストの間には、持ちつ持たれつの関係が生じやすい。証券会社としては、新株の引き受けや、M&Aの仲介など、一時に大きな手数料収入が発生する案件にアナリストが関わる可能性が大きいので、アナリストを雇っておく価値がある。

一般投資家は、証券会社のアナリスト・レポートについてどう考えるといいだろうか。筆者は、「旅のガイドブック」くらいに考えるといいと思う。全く行ったことのない土地を訪ねる場合に、旅のガイドブックを読んでおくと、短時間で知識を得ることが出来る場合がある。知らない業界、知らない会社に興味が湧いた時に、要点が俯瞰的に把握できる手軽なガイドとして読んでみるといい。

しかし、旅のガイドブックに載っているお勧めの飲食店にしばしば外れがあるように、アナリスト・レポートの推奨や判断は当てにしない方がいい。旅慣れた旅行者にガイドブックが不要であるように、投資家はアナリスト・レポートなど読まなくていい。個人投資家の中には、有名アナリストのレポートを読むことが出来る機関投資家を羨ましがる方がいるが、その必要はない。

山崎 元(やまさき はじめ)プロフィール
過去コラム一覧


楽天証券経済研究所客員研究員
獨協大学 経済学部特任教授
株式会社マイベンチマーク代表取締役

1981年東京大学卒業後、三菱商事、野村投信を筆頭に、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、
パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。

ファンドマネジャー、コンサルタント等の経験を踏まえ、資産運用分野が専門。
雑誌やウェブサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。

掲載日:2013年8月21日

 
    

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