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世界が見る消費税率引き上げ

来年4月実施予定の消費税率引き上げについて、様々な意見が巻き起こっている。経済政策的な観点からは以下の二つに集約されよう。

一つは、日本の財政健全化は喫緊の課題であり、事実上の国際公約ともなっており、景気面から見ても増税が回避されるタイミングではない、という積極派。もう一つは、今はデフレ脱却のために政策を総動員するべきで、デフレ圧力の増大に繋がる緊縮財政政策はデフレ脱却後に先送りするか、できるだけ小さくするべきだという慎重派である。日本の財政改善は必要という点は両者に共通した認識であるが、課題としての優先順位が異なる。その背景には、日本の財政破綻リスクに対する認識の違いが挙げられよう。

我が国の財政状況は、やや特殊である。すなわち、政府債務残高はGDPの200%を超える世界最悪水準となっている一方で、国債の大半を国内投資家が保有しているため、厳しい財政状況のわりには金利が低い。もし、外国人の国債保有割合が欧米諸国のように30%とか50%になっていたら、日本の国債利回りはもっと高いはずだ。金利水準が高ければ、新規に国債を発行する際の金利が高くなるため、利払い費が嵩み、財政悪化に拍車をかけてしまう。
このように考えれば、"大半の国債を国内で保有できる今のような状況がどの程度続くか"ということに対する考え方が、そのまま"財政破綻リスクをどの程度逼迫した状態と考えているか"というスタンスの違いに現れていると言えよう。

さて、こうした観点から見た我が国の財政破綻リスクについては、随分と前から経済学者や民間エコノミスト、政府や財務省など、さまざまな立場から様々な見解が披露され、足元の消費税率引き上げに対する見解同様、意見が収斂する気配もない。ただし、消費税率引き上げを安易に撤回すれば、マイナスのインパクトが意外に大きいと考えられる。
特に気になるのは、海外から見た日本の財政評価だ。先の参院選で与党が勝利し、年率3%前後の"高"成長を達成しながら、財政改善へ向けて一歩を踏み出せないとなれば、「日本は未来永劫自主的に財政改善策に踏み切れない」との烙印を押されよう。財政改善の期待が完全に喪失するということは、将来的な財政破綻が避けられなくなったということを意味する。いつかは判らないが確実に破綻するのであれば、そのリスクプレミアムはいつ債券価格に内包されてもおかしくない。したがって、たとえば空売りなどに対する日本国債の耐性は弱くなろう。

現実的な問題としては、アベノミクスに対する期待の失墜が挙げられる。日本はこれまで数多くの国際会合の場で、財政健全化をアピールしており、国際的にはアベノミクスは財政問題も含めた構造改革という形で捉えられているのが実状だ。たとえば、アベノミクスの第一の矢である"大胆な金融緩和政策"によってもたらされた円安は、緊縮財政政策によって生じるデフレ圧力の増大を緩和するポリシーミックスの結果、という位置づけで容認されている側面もある。言い換えれば、財政改善の後退を意味する消費税引き上げの撤回は、実質的な円安政策に対する批判を一気に高める恐れもある。

政府は、9月9日に発表される4~6月期の実質GDP成長率の改定値(二次QE)の発表を待ってから、消費税率引き上げの判断を行うとしている。仮に、成長率の改定値が年率3%前後を維持しているにも関わらず、増税撤回の判断を行えば、外投資家にとっては財政リスクの増大(=日本資産保有リスクの増大)、構造改革失敗リスクの増大(=中長期的な日本資産価値の減少リスクの増大)と判断される可能性が大きい。増税撤回は当座の経済成長にはプラス要因であり、デフレ圧力の増大を避けることは間違いないが、市場の反応まで加味した場合は圧倒的にマイナスの影響が大きいと言えよう。したがって、政府は財政改善とデフレ脱却を同時に追い求めなければならず、そのためには早期に所得を押し上げるような対策を講じる必要がある。


嶌峰 義清(しまみね よしきよ)プロフィール
過去コラム一覧


株式会社第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

1990年青山学院大学経済学部卒。同年岡三証券入社。岡三経済研究所、日本総合研究所を経て、1998年第一生命経済研究所入社。2011年より現職。日本経済、米国経済など各国経済担当を経て、現在は金融市場全般を担当。

掲載日:2013年8月27日

 
    

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