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グローバル化の陰に潜む海外赴任者のリスク

昨今、多くの日本企業が海外展開を加速させており、日本人従業員の海外赴任の機会も増加している。

データ上でも外務省の統計によれば、海外の長期滞在者78万2,650人(平成23年)に達し、10年前より約24万人も増加しているとのことだ。徐々に人口減少し、縮小していく国内マーケットを考えれば、海外赴任は成長市場に身を置くことであり、ポジティブなことなのだが、その一方で、現地で様々な問題が発生し、海外赴任に失敗し帰国を余儀なくされる日本人従業員も少なからず存在しているのが実情だ。

海外赴任者のリスクと言うと、中国の対日抗議デモやアルジェリアの人質事件などといった「クライシス(危機)」には一斉にスポットライトが当たるのだが、リスクはなにも非日常の事件やテロだけではない。それを物語る海外赴任経験者に関する興味深い海外のデータがある。まず、Global Relocation Trends Survey Report2011(米国)によると、海外赴任失敗比率は7%もあり、海外赴任失敗による企業コストは年収の3-4倍($250,000)と言われている。原因は様々だが、その原因の1位が「家族および個人のプライベートな事情」、そして2位が「セレクションのミス」となっている。さらに、海外赴任による生産性の低下は37.5%にも上っている。企業が国内の仕事ぶりを見込んで相応の期待をして社員を海外に送り込んでも、約5人に2人の生産性低下が発生するということだから、これは放置できない。実際、現地適応に要する平均時間は6~12カ月と比較的長い期間を要するため、赴任中の様々なサポートは国内以上にきめ細かく企業側が配慮する必要があるのだ。これは世界共通の課題と言えるだろう。

また、国内のデータとしては赴任前、赴任中、赴任後、3つのフェーズで把握することができる。産業能率大学の2011年の報告書によれば、赴任前に海外赴任を希望せずに赴任した人が約4割もいる。希望しなかった理由は「語学力の不安」(13.6%)、「子供や家族にかかわる理由」(11.6%)、「仕事や生活への不安」(8.9%)が上位になっている。

そして、海外赴任中には6割超の人が赴任中に何らかのストレスを感じている。言葉の壁やコミュニケーションの取りにくさ、文化・価値観の考え方の違い、生活環境の変化・生活習慣の違い、などがストレスの上位を占める。そのような中、85%以上の人が「赴任中に不足を感じた能力や知識があった」と感じている。興味深いのは、不足を感じた知識や能力として挙げられているのが「英語力」(37.1%)は想定内だが、「異文化適応力」(36.2%)と「ストレスマネジメント力」(28.9%)が次いで多い不足要素として感じられていることだ。日本企業では 語学支援に比重が偏り過ぎるために、この点が見逃されている場合が多い。実際、ピースマインド・イープ・国際EAP研究センターのグローバル人事への調査によると、派遣前の海外赴任者への教育で行っていることの中で「ストレスマネジメント教育」の実施率は「語学教育」の3分の1の実施率に過ぎない。つまり、メンタル面のサポートが後手になっているのだ。

更に赴任後には、6割超の人が帰任後の自分について不安を持っている。特に「海外の経験が生かせない」(42.6%)、「日本のやり方になじめなくなる」(36.4%)、「日本本社の変化についていけなくなる」(35.4%)などの不安である。実際に帰国者の60%は「再適応ショック」を経験している。それに反し、帰任時に会社からの支援を受けた人は約1割のみで、「帰任時の教育支援について十分でなかった」と考える人が50.8%いる。その結果、帰国後の離職率は12%にのぼっており、これは企業としては大変な損失である。

海外赴任がうまくいかない理由は、業務上の問題だけではなく、家族やプライベートな事情が原因であるといったデータからも明らかであり、仕事もプライベートも含めた生活全体のサポートが不可欠であることがわかる。実際、当社に寄せられる海外赴任者からの相談も、約9割がプライベートの問題である。また、何か問題が発生した際に、現地での相談先がなく、友人・知人や同僚・上司なども含めた社会資源が十分に活用できない状況のもとで孤立し、悩みがより深刻化してから問題が顕在化するケースも多く見られるのだ。

海外赴任成功のポイントとしては、赴任前・赴任中・帰任後の3フェーズにおいて一貫した支援を行うことが重要だ。特に「自己解決能力の育成」と「プライベート含めた十分なサポート」が企業の海外赴任成功のカギになるだろう。

 

荻原 国啓(おぎわら くにひろ)プロフィール
過去コラム一覧


ピースマインド・イープ株式会社代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部卒。在学中より人事コンサルティング会社新規事業開発や、新卒人材紹介事業等、人事マネジメント分野に従事後、(株)ピースマインド代表取締役社長(1998年創業~2011年3月)を経て現職。

日本国内最大規模のEAP(従業員支援プログラム)提供企業としてEAPやメンタルヘルス支援など、心理学・行動科学の専門性を活かした人と組織に関わる支援とコンサルティングを550以上の組織に展開。精神保健福祉士・産業カウンセラー・心理相談員。日本の起業家を世界に輩出する唯一の世界的起業家表彰制度EOYjapan2008セミファイナリスト。日本の次世代若手ベンチャー起業家を称える表彰制度DREAM GATE AWARD2008受賞。『クリックからはじめる自殺予防支援』代表世話人。

専門分野は人事・組織マネジメント、人材開発、EAP(従業員支援プログラム)、ストレスマネジメント、メンタルヘルス、震災ケア、レジリエンス、クライシスケア、ソーシャルビジネス等。

掲載日:2013年8月28日

 
    

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