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目的と手段

この夏、箱根に旅行に出かけた。

旅行の目的地は箱根だが、移動手段であるロマンスカーの中も意外に楽しく、ロマンスカーに乗ること自体も旅行の目的の一つかもしれない。しかし、同じ乗り物なのに出張の時はちょっと事情が違う。このところ出張が多くなっているのは、NISA(少額投資非課税制度)に関しての講演依頼が増えていることが一因だが、そうした時の飛行機や新幹線といった乗り物はまさしく移動手段で、そこで原稿を書いたり、ぐっすり眠ったりとかその時間を如何に有効に活用するか苦心する。
もちろん、原稿を書くためにわざわざ飛行機に乗ったり、睡眠不足を補うためにわざわざ新幹線に乗ったりすることはないだろう。これでは移動手段なのか目的なのか、わからなくなってしまう。

ところで、NISAの投資家向けセミナーでも「NISAを目的にしないで手段にしてほしい」と呼びかけている。NISAも単なる非課税の手段に過ぎないのだから。
セミナーの後、よく「NISAにはどんな金融商品がいいのでしょうか」と聞かれることがあるが、これにどう答えたらいいのか意外にわからなくなることが多い。誤解を覚悟で言えば「人それぞれです」と答えるしかないように思える。たとえば、分配型投資信託はNISAには不向きだといわれる。確かに、NISAでは資産を売却してしまうと、その枠は再利用できなくなる。資産形成をしようとする人にとってそれは勿体ない使い方だろう。

しかし、資産を引き出して使っていこうとする退職世代にとっては、違う考え方ができるかもしれない。もともと使うために作り上げてきた資産なので、使うことが第一義的目的だが、残った資産はうまく運用を続けて少しでも減るペースを抑えたいものだ。そうした人が、分配型投信をうまく活用して、資産を引き出しながらも残りの資産は運用を続けると考えよう。その時に非課税で資産を引き出せるのであれば、それに越したことはない。そのためにNISAを利用するのであれば、これはNISAのうまい使い方ではないだろうか。

NISAは単なる非課税のツール。大切なのは投資家本人の資産運用ニーズであり、運用スタイルだと考えると、一律にNISAに適する商品というものがあるはずはないだろう。そう、NISAを目的にするというのは、例えば「NISAなら5年経ったら必ず売却する」といった「NISAならこうでなければならない」というように誰にでもどんな時にもこうすべきといった形で考えることだろう。

NISAを手段として活用する、それは運用の目的や運用期間にあわせてNISAを使いこなすことだ。現役世代の方には現役世代の資産運用があり、高齢者には高齢者の資産運用がある。また現役世代でも退職に向けての資産運用には時間が十分にある、しかし子供の入学資金を作るための運用にはそれなりに時間の制約がある。こうした条件を十分に考慮に入れた運用目的と運用期間などをもとにNISAをそれに合った形で使いたい。

ところで、英国の株式ISAだが、最新のデータ(2011年4月5日に終わる年度)によると、資金拠出者の年齢別分布は、44歳以下が29%、45-54歳以下が24%、55-64歳以下が24%、65歳以上が23%ときれいに4つに分かれている。広い年代層でISAが使われていることがわかるだけに、それを参考に導入した日本のNISAをうまく使いこなしたいものだ。

目的と手段。まだまだ投資家の声を聴くと、定まっていないように思える。NISAも大切だが、まずはその前に資産運用の目的は何かをはっきりさせることを忘れないで欲しい。


野尻 哲史(のじり さとし)プロフィール
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フィデリティ投信 フィデリティ退職・投資教育研究所所長

一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て、2006年からフィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長。大規模なアンケート調査をもとに投資家への提言をするなど、投資教育に従事。

退職金は何もしないと消えていく」(2008年) 、「老後難民 50代夫婦の生き残り策」(2010年)、「40代のサイフ」(宝島社、2012年)、「50歳から始めるお金の話」(2013年2月、小学館文庫)など著書も多数。

現在、日本アナリスト協会検定会員、日本FP学会、日本証券経済学会、行動経済学会などの会員。

 

掲載日:2013年8月30日

 
    

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