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輸入金額が原油に次ぐ2位の金、インド政府の苦闘が続く

リーマン・ショックから5年を経過し、米国はFRB(連邦準備制度理事会)がここまで取ってきた「量的緩和策」の幕引きを模索している状況にある。

これまで無制限に供給されてきた資金の流れに変化が起きるとの予見が、新興国に投じられていた資金の逆流をもたらしている。新興国の中でもとりわけ資本流出(通貨の急落)に悩まされているのがインドで、インドルピーの対ドルレートは年始からここまで過去最安値の更新を売り返しながら17%の値下がりとなっている。すでにGDP比で6.7%にもなる過去最大(2012年10-12月期)の経常収支の赤字拡大を抑えたいインド政府は、様々な規制を設けてきたが、そのターゲットのひとつが金に向けられている。

インドは世界最大の金の需要国として知られている。2012年の総需要は864トンと一国で世界需要の27%を占めている。ちなみに日本の総需要は8トン弱に過ぎない。インドでの最大宗教ヒンズー教では、光り輝くものは繁栄のシンボルであり、所有し身に着けることで益々富栄えるとされる。輝きの失せない金はその最大の象徴とされる。さらに金は、貯蓄の手段として浸透しており、宗教上の目的と金融経済上の目的の双方を満たせる対象というわけだ。保有の形態は、これまで宝飾品が多かった。宝飾品といっても日本目線では理解できないだろう。最低でも22Kや24K(純金)という高カラットのもので、目方(重さ)で買って、目方(重さ)で売却する。買取りのインフラは以前から整備されており、換金も容易にできる。形状からデータ上は宝飾品としてカウントされるのだが、地金や金貨に近いといえる。これは中東などでも同じ。近年では、そこに地金や金貨での保有も広がって来たし、金の上場投信(ETF)も登場している。

最大の需要期は婚礼期で婚礼需要といって嫁ぐ花嫁に両親や縁者が金の宝飾品を贈る慣習がある。また嫁ぎ先にも現金や宝飾などを贈る習慣があり(ダウリー制度)、農村部を中心に根付いている。例年、ヒンズーの祭礼シーズンに結婚式が増えるが、年間では春の4、5月そして秋の10、11月が多い。金の売れ行きもこの頃に伸びる傾向がある。いずれにしても宗教的、歴史的、文化的側面を背景としており日本的感覚からも、さらには欧米視点でも計り知れない生活感覚に根付いたものといえる。

これほど金が一般に深く浸透しているインドで、昨年来、政府による様々な金を巡る規制が強化されている。目的はひとえに金の輸入をさせないことにある。というのも慢性的な貿易赤字のインドにあって輸入額のトップを占めているのは原油で約30%を占めている。次に多いのが10%前後を占める金となっている。金鉱山のないインドゆえに需要のすべてが輸入ということになる。貿易赤字の拡大ひいては経常収支の赤字拡大に悩む政府にとって、不要不急の品に映る金輸入を抑えることは手っ取り早い赤字縮小策というわけだ。そこで2012年1月に金の輸入に2%の関税を掛けることを決定した。ところが効果が薄く4月に2倍の4%に引き上げた。

それでも昨年の金輸入は目立って減ることはなかったことから、2013年1月に輸入関税を6%に引き上げることになる。これで効果が出ると思いきや、4月に国際金価格がわずか2営業日で200ドル以上も下げるという環境の中で、インドでは一般の買いが沸き起こり現物が不足するような事態まで起きることになった。このときは、安くなったので同じ量を少ない金額で買えるということでなく、安いので手元資金で買えるだけ買うという購買行動が見られたとされる。結局、2013年4-6月期の金需要は310トンにも上り、四半期ベースの過去最高を記録することになった。4月の輸入急増をみた政府は、輸入関税を即座に6%から8%に引き上げ、さらに6月には輸入に当たり現金決済を義務付けることになった。さすがにこの規制強化は効果を表し、輸入は減り始める。政府はそれでも手を緩めなかった。8月に入りこれから秋の婚礼シーズンを迎えるにあたりさらに規制強化に踏みだし、関税を10%にするとともに、輸入した金の20%は輸出に回すことを前提に輸入が許可されることになったのである。

どこまで力づくで抑えることができるのか。記録的なルピー安でインド国内の金価格は上がっており、同時に輸入物価の上昇からインフレ傾向も高まる一方で株式市場は低迷している。結局、一般の金志向は続く可能性が高そうだ。 ここに来て伝えられているのは、密輸の増加となっている。インドの動向は、金の国際需給にも影響を与える要素となる。

亀井 幸一郎(かめい こういちろう)プロフィール
過去コラム一覧


生活設計塾クルー取締役

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト

中央大学法学部卒業。
山一証券に8年間勤務後、日本初のFP会社で投資顧問会社マネー・マネジメント・インスティチュート(MMI)入社。
1992年世界的な金の広報・調査機関ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン)入社。
企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。
2002年マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役。

「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。日経CNBCテレビ「デリバティブ・ワールド」、ラジオNIKKEI「マーケット・トレンド」など数々のメディアでの市場分析のほか、住友金属鉱山サイトでは金市場を軸にした金融経済分析と市況解説を、投資情報誌ネット・マネーにて「亀井幸一郎の金市場の風」、日本証券新聞コラムなど定期寄稿中。

ブログ 『亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」』


掲載日:2013年9月5日

 
    

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