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金融ビジネス、二種類のイノベーション

世間では、経済あるいは企業の発展のために「イノベーション」が大事だという。イノベーションとは「新結合」などとも訳され、新しい画期的な製品やビジネス方法の創出のことだ。

イノベーションを作る一般的な手順のようなものがあればいいのだが、残念ながら、世の中はそこまで便利には出来ていない。多くは、個人の努力と気合い、そして大いに幸運が作用して、イノベーションは生まれる。そして、それが何時なのかは予想できない。金融ビジネスにおけるイノベーションには、二つの潮流がある。以下、資産運用に関連するビジネスを中心に見てみよう。


一つ目は、「シンプル化と低コスト化」のイノベーションの系譜だ。

たとえば、インデックス・ファンドはこのタイプのイノベーションの典型だろう。運用によって市場に勝とうとするのではなく、市場のリターンをほぼ正確にトレースして投資家に提供する。投資家が得ることのできるリターンの大半が市場のリターンであり、市場並みのリターンがあれば投資家にとって達成可能な選択肢の中では必要十分だ。そして、アクティブ運用では、コストが掛かり、手数料が高いなら、アナリストが不要でファンドマネジャーのコストも低く抑えられるインデックス・ファンドは運用パフォーマンスでも優位に立てる。狙いは当たり、顧客は大いに恩恵を受け、勝ち残ったインデックス・ファンド業者は潤った。

もう一つ例を挙げるなら、ネット証券だろう。株取引とネットをまさに新結合させる一方で、人によるアドバイス(を装ったセールス活動)を除外し、圧倒的な低コストで、株式の委託売買のサービスを提供した。


二つ目は、「複雑化・高度化とハイ・マージン化」のイノベーションだ。

ヘッジファンドが好例だろう。伝統的な年金運用では、運用機関側が提供できる商品にちがいを出しにくくなるなかで、年金基金側の交渉力が強く、フィーの水準が抑えられる傾向があった。これでは、運用側は儲からない。そこで、アクティブ・リスクだけに大きなレバレッジを掛けて提供し、成功報酬を設定することで、実質的な手数料を分からなくする一方で、金融的にはコールオプションであるところの成功報酬の価値を運用リスクを拡大することで運用者が自ら上げることが出来る、何とも美味しい仕組みの商品化に成功した。

複雑さとハイ・マージンといえば、仕組み債・仕組み預金のような、「金融工学」を使った「仕組み商品」も、その系統だ。金融工学的には、どのようなオプションを合成しようが、「ヘッジ+リスクフリー資産」との裁定によって、儲かりも損もしない価格が形成できるだけのことだ。金融工学自体は、儲けられるテクノロジーではない。しかし、金融商品の組成と商品販売の現場では、顧客から見て実質的な手数料を分からなくするツールとして利用(顧客から見ると「悪用」か)されている。

金融ビジネスの商品とサービスの歴史を見ると、これら二つのイノベーションが時々主役を交代しながら繰り返し現れる。顧客の側から見ると、歓迎すべきは第一のタイプのイノベーションだが、金融ビジネスは総体として儲けに貪欲で顧客を食うことも辞さない「肉食系」の生き物なので、第二のタイプのイノベーションも盛んに登場する。


山崎 元(やまさき はじめ)プロフィール
過去コラム一覧


楽天証券経済研究所客員研究員

獨協大学 経済学部特任教授
株式会社マイベンチマーク代表取締役

1981年東京大学卒業後、三菱商事、野村投信を筆頭に、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、
パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。

ファンドマネジャー、コンサルタント等の経験を踏まえ、資産運用分野が専門。
雑誌やウェブサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。

掲載日:2013年9月18日

 
    

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