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標準世帯の喪失

最近、「標準世帯という言葉が意味をなさなくなっている」と改めて思うことがあります。

フィデリティ退職・投資教育研究所を立ち上げた当初の2007年頃、疑問に思ったのは厚生労働省が年金の支給額を公表する際に前提としている「標準世帯」というサンプル例でした。40年間サラリーマンとして働き、妻はその間ずっと専業主婦である世帯が「標準世帯」ですが、とても現実にはありえそうにない世帯です。

最近では、夫婦という世帯形成の単位さえ「標準」ではなくなっています。2012年に発表された「生涯未婚率」は男性で20.14%とついに20%を超えました。1990年には5.57%でしたからわずか20年の間に4倍近くの水準に急上昇したわけです。
「生涯未婚率」とは、40代後半の未婚率と50代前半の未婚率の平均を取って、50歳における未婚率とし、これを「生涯未婚率」と呼んでいます。50歳で未婚なら生涯未婚という、この呼び名は"いらぬお世話"と言いたくなるものですが、少なくとも50歳で男性の5人に1人が結婚していないという事実は、もう世帯がどんどん多様化して、夫婦であることがその「標準」でもなくなっているということを意味しています。

2010の配偶関係別人口データでみると、50代の男性809.7万人のうち189.3万人、23.4%が、また50代女性では821.1万人のうち169.9万人、20.7%が配偶者のいない人です。男女合わせるとその年代の22.0%が配偶者無しの世帯となっている時代です。さらに、その配偶者無しの世帯もそれまでに一度も結婚していないという人ばかりではありません。男性の場合、未婚は68.0%で死別・離婚は32.0%、一方女性の場合、未婚は35.9%にとどまり、逆に死別・離婚が64.1%に達します。

 

今年8月に「50代シングルズ、7割が老後資産不足」と題するレポートを発表しました。4月に実施したサラリーマン1万人アンケートに回答を寄せていただいた11,507人のなかで、50代は3,112人含まれていましたが、驚いたのはそのうち25.5%が配偶者無しだったことです。前述のデータを見れば当然だといえば当然なのですが、改めて一律に退職準備や投資傾向などを論じてはいけないと思い至りました。配偶者無しでもいろいろな背景があるので、敢えて複数系で「シングルズ」と呼んで、そのセグメントの退職準備状況や投資傾向の特徴をまとめてみたわけです。
特に50代女性のシングルズはその退職準備の不足でかなり大きな課題を抱えていることがわかりました。早急にこうした層の投資教育が求められています。

※レポートは「フィデリティリタイアメント情報ポータルサイト」より参照いただけます。

「標準」という言葉が意味をなさなくなってきていることは、消費財の世界ではとっくにマーケティング活動に取り込まれています。しかし、同じ消費者に届けるべき金融商品の世界ではまだまだその段階にはないように思われます。少なくとも私が従事している投資教育とか、投資啓蒙活動などといった領域では、消費者をセグメント化して、そのセグメントごとに投資啓蒙のメッセージを工夫するといったことはまだまだ不十分な状況です。「標準」が喪失し、セグメント別の情報発信を続けていくことを改めて考える時代に来ているように思います。

 

野尻 哲史(のじり さとし)プロフィール
過去コラム一覧


フィデリティ投信 フィデリティ退職・投資教育研究所所長

一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て、2006年からフィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長。大規模なアンケート調査をもとに投資家への提言をするなど、投資教育に従事。

退職金は何もしないと消えていく」(2008年) 、「老後難民 50代夫婦の生き残り策」(2010年)、「40代のサイフ」(宝島社、2012年)、「50歳から始めるお金の話」(2013年2月、小学館文庫)など著書も多数。

現在、日本アナリスト協会検定会員、日本FP学会、日本証券経済学会、行動経済学会などの会員。

 掲載日:2013年10月15日

 
    

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