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『出る杭』を作る教育システムを

マスコミの第一線で活躍する知人が、某大学の客員教授としてメディア論のゼミを担当することになった。その友人が嘆く。「どうしてこのゼミをとったの?」と学生に聞いたら、「朝1時間目なのでゼミの抽選に受かりやすいかと思って」、「友人に誘われたのでなんとなく」といった消極的な答えが返ってきて、「メディアの最前線を伝えたいと意気込んでいたのに出鼻をくじかれた」と。

最近の若者は内向きで、すぐに物事を諦めてしまうなどと批判されることも多い。全員がそうではないが、総じて目立つことを嫌い、安定志向が強く、問題意識が希薄である。彼らは失われた20年とも言われる閉塞感に包まれた時代に成長し、「頑張れば報われる」ということを経験していない。また、携帯電話やパソコンなど便利なツールが身近にあり、自分の足で稼がなくとも情報が取れ、フェイスブックやSNSで人とも容易につながれる。ネットで表面的な情報はとれるので、新聞や文献を通じて深く探究する習慣がない。

私の授業を受ける学生に聞いても、「海外で働きたい」という人は稀で、多くが「地元で働きたい」と言う。勤労者の平均所得が下がり続ける中で、親元を離れての暮らしは大変になると彼らが理解しているからで、こうした若者の意識・行動様式は社会の写し鏡なのだろう。

しかし、今後、日本の人口や労働人口の急減を考えれば、日本の成長をけん引するような人材が求められるし、世界に出ていける若者をどう育てていけるかも鍵になる。日本の経済成長をけん引してきた自動車を中心とした輸出産業は海外に多くの拠点を移しており、今後、国内に大幅な雇用の増加が期待できない。輸出産業に替わる医療、バイオ、食料、ファッション、文化といった内需産業を日本で育て、海外に日本の成功モデルを輸出するにも海外経験はおおいに役立つ。米国のベンチャー企業では中国やインドの留学生達が大きな役割を果たしている如く、世界と渡り合える人材を育てなければ日本は後退していく。

英語をはじめとする語学力があり、国際的なコミュニケーション力にすぐれ多文化理解ができる人材を育成するには海外体験、つまり他流試合が必要になる。
だが文部科学省の統計では日本人の海外留学生数はで58,060人(2010年)で2004年の82,945人から減少に歯止めがかかっていない。これは、人口10万人当たりの留学生218人を誇る隣の韓国の5分の一レベルである。その原因として、親の年収が下がる中で、国内の学費に加え留学までまかなうことは難しくなってきているし、返済を伴わない「給付」奨学金は少ない。それに加え、日本と海外の大学の学期制が異なるために、1年の留学が帰国後の就職準備に不利であったり、海外留学後、就職までに半年間のブランクが生じることにもなる。さらに留学経験が就職においてどんな有利性を持つのかも曖昧である。

それでは日本から海外に出ていく「出る杭」を増やすにはどうすればいいのか。まず、日本の大学では秋入学はまだまだ一部であるため、日本の大学を欧米などと同様に9月の秋入学に変え、企業の新卒採用も4月入社のみならず通年採用に切り替えるよう経済界とタッグを組む必要がある。もちろん大学職員の中にも外国人比率をあげ、各国に事情に精通し学生に対してきめ細やかな情報提供ができるスタッフを強化すべきだ。

次に経済的支援である。たとえば滞在費も含めて年間数百万円もかかる米国の大学に自己資金で留学できる人は少数であろう。政府は学生支援機構を通じて国内の学費向けに無利子の奨学金を拡充する予定であるが、これを海外留学にも適用し、長期返済、無利子で貸し付ける。もちろん大学生からと言わず高校生から海外の留学をめざす若者にも適用すべきである。

また、4月より祖父母が孫に教育資金を一括で贈与する際、1,500万円まで非課税となる制度がスタートしたが、こうした一部の若者にしか恩恵をもたらさない制度より、教育目的の寄付税制で基金を作り、その運用で海外留学を志す若者が「借金返済」のリスクを冒すことなく安心して海外に羽ばたける給付奨学金を設立してほしいものだ。


白石 真澄(しらいし ますみ)プロフィール
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関西大学教授

1987年 関西大学大学院修士課程 工学研究科 建築計画学専攻 修了
(株)西武百貨店、(株)ニッセイ基礎研究所 主任研究員を経て、2002年4月より東洋大学経済学部 社会経済システム学科教授

専門テーマは「バリアフリー」、「少子・高齢化と地域システム」

 

掲載日:2013年10月9日

 
    

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