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単なる輸送・移動の手段から 鉄道会社は新価値創出の時代へ

九州旅客鉄道(JR九州)が総工費30億円を投じた日本初のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は、その豪華さが話題になった。例えば客室にしつらえた有田焼の洗面鉢は、つい先だって、この世を去られた人間国宝14代酒井田柿右衛門さんの遺作である。日本の匠の技と贅を尽くしたつくりは、あたかも走る美術館のようで、クールジャパンを感じさせる。早速、香港の旅行会社が、編成ごとチャーター契約を結んだ。

アジアの民が世界を旅する時代「アジア大交流時代」を見据えた同社の戦略に、称賛の声は高い。中国人の海外旅行者数は、2020年には2億人に達するといわれているが、訪日外客の目的地や旅の形態、その過ごし方が速いスピードで今後、多様化するはずだ。以前、タイのホアヒン駅でアジア版オリエント急行の客車に魅せられた筆者は、日本での観光列車がなぜ、実現しないのかと気を揉んだことがあった。そこに先鞭をつけたJR九州の今後を、温かく見守りたい。

被災地でも今年、観光列車は花盛りだ。お座敷列車でNHK朝の連続ドラマ小説「あまちゃん」の舞台になった三陸鉄道は、第三セクターの赤字路線という汚名を拭い去り、復興のシンボルとして描かれた。現実に、震災直後から応援を惜しまなかったのは、ストーブ列車などで知られる津軽鉄道で、こちらは民鉄、すなわち民営鉄道である。伊勢神宮の式年遷宮にあわせて誕生した近畿日本鉄道の観光列車「つどい」をはじめ、民鉄も、リアルな話題づくりに負けていない。

2013年の秋冬、東日本旅客鉄道(JR東日本)も続々、観光列車を被災地に投入する。一つは八戸線、八戸・久慈間のレストラン列車「Tohoku Emotion(東北エモーション)」である。全席レストラン仕様の改造食堂車において、東北の幸を堪能するというもので、すでに10月、お目見えした。もう一つは、SLの復活だ。蒸気機関車C58型239号機を復元した「SL銀河鉄道」が、今冬、釜石線を疾駆する。それも盛岡市の岩手県営運動公園に長らく展示されていた老兵のSLで、復興支援のために蘇らせたものだ。

SL復活に先立ち、去る9月、釜石観光物産協会と釜石市、釜石商工会議所等が主催共催する産業まつり「釜石まるごと味覚フェスティバル」において、このSL車内で販売される弁当類の市民参加型コンテスト「おいしい釜石コンテスト」が開催され、審査員として登壇した。復旧復興した魚市場を会場に、アマチュアの皆さんが料理の腕をふるい、それぞれに想いを語っての最終選考会で、甲乙つけがたい。

おいしい釜石コンテストお弁当部門で釜石市・野田武則市長から金賞を授与された小澤敬子さんと出品者の皆さん

津波で家を流されたものや農家に嫁いで40余年の主婦、闘病生活を送る父に背中を押された漁協女性部員とその仲間たちなど、味も見栄えも、出品に至った背景までもが力作揃いであった。そして確かに鉄道は、単なる輸送・移動の手段から、新たな価値創出の場へと移行しているのを実感した。
くだんのJR九州はアジアもマーケットに、2016年までに輸送外事業の売上高6割超を目指している。国鉄民営化から20余年。人口減や自然災害、人為的災害などで本業の鉄道事業が減収するなか、JRグループ各社では、不動産賃貸やエキナカ、流通事業など非鉄道業事業の分野を伸ばす方策がとられて久しい。その成否が、鉄道会社の今後を占うといっても過言ではないからだ。

鉄道事業ではあるが単なる輸送とは違う、夢を乗せて走る観光列車には、成熟感が漂う。こうした鉄道会社ならではの勝負が、さらなる企業イメージの向上につながるのではなかろうか。鉄道大国・日本の誉れを、観光列車で大きく開花させてほしい。

千葉 千枝子(ちば ちえこ)プロフィール
過去コラム一覧

観光ジャーナリスト 横浜商科大学講師

中央大学卒業後、富士銀行に入行。シティバンクを経て、JTBに入社。96年有限会社千葉千枝子事務所を設立。運輸・観光全般に関する執筆、講演活動を行いラジオ、テレビにも多数出演。神奈川県観光審議会・沖縄県感動体験戦略検討委員会・釜石食ブランド開発検討協議会などの委員。日本観光研究学会、日本観光ホスピタリティ教育学会、日本旅行業女性の会、日本旅行作家協会会員。ファイナンシャルプランナー、総合旅行業務取扱管理者を有する。著書に「JTB 旅をみがく現場力」(東洋経済新報社)、「観光ビジネスの新潮流」(学芸出版社)など多数。

ブログ(毎日更新)「旅のエクセレンス」
公式ホームページ「Long Stay Style」


掲載日:2013年10月16日

 
    

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