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「働き盛りの介護離職を防げ」

1.10万人にものぼる介護離職
育児は数年先が読めるが、介護は「先の見えない孤独な闘い」である。毎年10万人もの人が介護のために離職をし、介護期間は平均で5年、全体の1割が10年以上とされる。日夜続く介護による身体的負担、周囲に迷惑をかけたくないという精神的負担を抱え「燃え尽き退職」する人も多い。知人の50代の男性は両親が要介護状態になったために退職し、自宅で10年近く両親の介護を行った。生活費は両親の年金と働いていたときの蓄えで凌ぎ、両親を看取った後に仕事を探したが、年齢や仕事のブランクもあって好条件での仕事には就けそうもないと嘆く。介護離職は収入減、心身の疲弊、再就職の困難さという複数のリスクを伴い、企業側にとっても育てた人材の離散につながる。

介護の社会化をめざした「公的介護保険」がスタートしたのは2000年、「施設から住み慣れた在宅で」の掛け声のもと、ホームヘルプなどの在宅介護サービスは登場している。だが、介護のすべてが外部化されるはずもなく、大部分を家族が担う。現在、家族が介護状態になれば、家族一人につき、通算して九十三日まで介護休業を取得でき、また、要介護状態の家族が一人の場合、年に五日、二人以上なら年十日まで介護休暇が取れる(育児・介護休業法)制度も整った。

しかし、介護休業を取得した場合に、多くの企業は無給で、雇用保険から支払われる介護休業給付金は原則、休業開始時賃金の日額の40%に過ぎない。収入面を考えると、制度はあっても休むことはためらわれる。

2.誰もが介護に関わる時代が来る
現在、65歳以上の高齢者は人口の4人に1人、現役世代3人で1人の高齢者を支える「騎馬戦型」の人口構造であるが、さらなる高齢者の増加と少子化により現役1人で1人の高齢者を支える「肩車型」になる。高齢者の中で施設や病院にいるのは1割未満で、今後は男女関係なく働き盛りの世代にも在宅での介護負担がのしかかる。

年金・医療・福祉などいわゆる社会保障費用は約110兆円(2012年)であり、2025年には149兆円にまで膨張すると予想される。数年後に消費税を10%に引き上げても社会保障の伸びを埋めることは難しく、現在のサービス水準を維持すれば公費負担と国民負担は増えていく。たとえば公的介護保険の保険料(全国平均)は制度がスタートした時には2,911円であったが、2012年には4,972円、2025年には8,500円にもなり、保険料の伸びを抑えるにはサービス給付のカットが前提で、その分家族への負担が今よりも大きくなることは自明である。

3.短時間労働と地域でのサポート体制の強化
それでは介護離職を防ぐにはどのような手立てが必要なのだろうか。ひとつは介護を抱えながら、短時間労働で就労継続できる仕組みづくりである。オランダでは2000年7月に施行された「労働時間調整法("De deeltijdwet")」により、労働者が一定条件を満たせば自分の勤務時間を短縮・延長する権利が認められることとなり、これに合わせ年金制度もパートタイムで働いた期間が、その受給に不利にならないように設計されている。この法律で人々は子育てや介護などの人生のステージに合わせて、フルタイムとパートタイムの転換が可能になった。オランダ女性の75%が、週34時間以下で働くパートタイム社員で、週5日働くフルタイムの女性は少数である。

日本のように「パートタイム=非正規雇用で低賃金」という図式ではなくなり、オランダは「同一労働、同一賃金」であり、パートタイム労働者全員が「正社員」で、待遇や時間当たりの賃金は、正社員と同等である。高賃金の仕事の一部にもパートタイム就労が広がっている。オランダでは職業訓練給付を行い、ワークシェアの労働生産性をあげることも同時に行っているが、こうした制度が我が国にもあれば介護離職の減少に少しは役立つだろう。

白石 真澄(しらいし ますみ)プロフィール
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関西大学教授

1987年 関西大学大学院修士課程 工学研究科 建築計画学専攻 修了
(株)西武百貨店、(株)ニッセイ基礎研究所 主任研究員を経て、2002年4月より東洋大学経済学部 社会経済システム学科教授

専門テーマは「バリアフリー」、「少子・高齢化と地域システム」

 

掲載日:2013年11月8日

 
    

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