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金融商品販売時の対面チャネルは投資教育チャネルになるか

■金融商品販売時の対面チャネルは投資教育チャネルになるか

金融商品を購入するにあたって、購入する個人に商品性の理解があるかどうかが問われます。もし理解をしていないと知りつつ販売をすれば、これは金融商品取引法等の問題となりますので、金融機関は販売時説明を行います。「投資信託とはこういうものです」「投資対象となる外国債券とはこういうものです」「為替リスクがあります」といった説明を行い、理解をしてもらった上で販売が行われます。

もうひとつ、金融商品販売時においては、顧客の知識や投資経験、資産状況などを勘案し、販売に適した顧客であるかどうか踏まえた商品提示が求められます(適合性の原則という)。たとえば投資未経験である高齢者に対して、高リスクの金融商品を販売するような例などでは適合性の原則に反するとされ、著しく不適切な販売に際しては損害の賠償を求められる可能性もあります。

こうした販売時説明の場あるいは販売前のセミナーや商品提案といったチャネルが、投資教育に一役担えるかは時折議論の対象となります。しかし私の考えはきわめて懐疑的です。しょせん販売時説明は販売時の「説明」であり、投資「教育」ではないからです。


■顧客との利益相反を乗り越えて教育するのは困難

金融機関は金融商品の販売によって、顧客より利益を得る立場にあります。投資信託を10万円買う顧客より100万円買ってくれた顧客のほうが手数料収入は10倍儲かります。どちらも1人の投資初心者に販売時説明をするとしたら、労力のコストパフォーマンスも10倍違うことになります。信託報酬が低い投資信託と高い投資信託が2本あって、どちらを販売するのが適切かは、運用の結果に優位な差が示せない限り低いものが顧客にとってのベストソリューションと考えられます。しかし、信託報酬の低い(あるいは販売手数料の低い)投資信託のセールスでは手数料収入も下がってしまいます。

外債の毎月分配型ファンドを購入したい顧客や、すでに外債ファンドを保有している顧客に対し、「日本株で運用をする投資信託もあわせて保有すればリスクは抑制される」という提案も本来あってしかるべきです。しかしこれもなかなか困難です。100万円の外債ファンド購入希望者にわざわざ50万円の外債ファンド購入にとどめ、日本株での投資を進めることは客観的に好ましくとも、顧客が希望しない限り、変更提案は不可能でしょう。

さらに顕著なのは、税制上の優遇も加味した場合です。窓販での投信販売やNISA口座開設は提案するが、個人型確定拠出年金は提案しないような事例があります。顧客にとって確定拠出年金の税制優遇はNISAより強力であり、老後資産形成の観点では優先して提案されるはずです。しかし、NISAのにが積極的に営業されるなど、本当に最適な提案となっているか疑問が残ります。

こうした現状において、個人サイドも彼らを教育してくれる相手方と考えるほうが間違っています。行政の考え方もまちがっていて、むしろ金融機関に投資教育を担わせようとするのが筋違いなのです。顧客との利益相反が生じる立場にある金融機関に、顧客の立場にたった投資教育ができないと考えるのが本来自然な発想です。


■なぜか厚生労働省の指針のほうが投資教育として優れているという皮肉

投資教育の指針としては、自己責任型の企業年金制度である確定拠出年金について「投資教育ガイドライン」というものがあります。制度を導入した企業が自己責任で資産運用を行える程度の教育を社員に行うため、必要な知識をリストアップしているものですが、これがなかなか投資教育として有効な項目揃いです。

特に投資教育の観点で優れていると思うのは、
(1)「買う買わないに限らず、すべてのアセットクラスや商品類型をひととおり学習」
(2)「分散投資や長期投資(つまり複利効果も)等の投資理論の基礎の学習」
(3)「本人のリスク許容度を検討させる材料としての老後生活設計の考え方の学習」
の3点が含まれていることです。

これらはいずれも、従来の販売時説明では教育が難しい項目です。一方で、本来個人サイドが理解したうえで、商品選択に臨み、ポートフォリオを構築すべき基礎知識といえます。

ところが、確定拠出年金の投資教育においては個別商品の推奨(非推奨)が禁じられているため、セールストークと教育が切り離される仕組みとなり、優れた投資教育が全国で行われています。
なぜ、優れたガイドラインとなったのかといえば、厚生労働省が労働者保護の見地から指針を書いたからです。金融庁がこうしたガイドラインを起こすことができないうちに、他省庁から有意義なガイドラインが示されたというのは皮肉といえます。


■個人サイドは金融機関に足を運ぶ前に自ら学習するべき

社会的な問題として、国民の投資知識が不足しているのは確かです。しかし、それを販売時説明に押し付けても問題はあまり改善しないように思います。
個人サイドもまた、金融機関に教えてもらえばいい、という考え方を捨てるべきだと思います。そもそも、投資の基礎知識は、商品を購入する最後の段階で初めて学ぶべきものではありません。先に学習をしたうえで、購入の判断を行うべきものです。

セールスの場面ではないところで一度投資を学んでからでも、リスク資産運用にチャレンジするのは遅くありません。社会的な投資教育機会の拡充は徐々に、しかし確実に広がっています。ぜひ、投資について学ぶ場を探してみてください。

山崎 俊輔(やまさき しゅんすけ)プロフィール
過去コラム一覧


1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、消費生活アドバイザー、1級DCプランナー。

企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。
論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。近著に『お金の知恵は45歳までに身につけなさい』(青春出版社)。日経新聞電子版「20代から始める バラ色老後のデザイン術」など連載多数。
投資教育家として、twitterでも4年以上にわたり毎日「FPお金の知恵」を配信するなど、若い世代のためのマネープランに関する啓発にも取り組んでいる(@yam_syun)。

ホームページ: http://financialwisdom.jp

掲載日:2013年11月13日

 
    

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