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『やっぱり「おひとりさま」?』

BE-PALというアウトドア雑誌で角幡唯介氏の「単独行大国ニッポンの不思議」と題したコラムをよみました。

角幡氏は早大探検部OB、ノンフィクションの主要文学賞をのきなみ受賞している30代の作家。コラムでは、彼の友人が欧米の冒険家から「日本人はどうして単独行ばかり好むのか」と訊ねられたそうです。確かに、単独というと、ヨットの堀江謙一、登山家の植村直己など素人の私でさえすぐに名がでます。世界各地を歩くバックパッカーにも個人で動く人が多いのは確かです。
山頂征服や冒険行では目標が明確で、チームであたれば成功する確率が上がりリスクを低くできるのに、なぜ単独にこだわる日本人が多いのか。角幡氏の見立ては、単独行でなければ得ることのできない「深い経験」があるからであり、その深い経験を理解しにくい欧米人には、単独行が不可解に映る、そして角幡氏の結論は、単独行は行のようなものだということです。

コラムを読んで、やはり日本人は「おひとりさま」が好きなんだ。
命をかけるかもしれない登山や冒険の単独行を「おひとりさま」だと考えるとお叱りをいただくかもしれませんが、日本人の個人指向というのは国民性の国際比較研究においても、その傾向は指摘されているようです。よく似た傾向を示すのは、北欧各国や中国、韓国だったと思います。
おひとりさまには、相互に関連しあっている2つの側面があると思います。ひとつは、人間関係のわずらわしさなどからの自由です。もうひとつは、あることをきわめる、○○道にはひとりが適している、ひとりでないと達成できない領域があると考える人が多いということではないでしょうか。

歴史をすこしさかのぼってみましょう。

前回にも取り上げました神沢杜口。京都奉行与力の神沢家に婿養子として入り、40歳過ぎに同じく娘婿に家督を譲ります。先に妻が亡くなってしまったこともあり、娘や婿との生活よりも男やもめの独居を選びます。その理由を

「世の人多くは己が生れたる家に老て、子孫眷属に六(むつ)かしがられ、うとんぜられ、その身もこころもままならねば、子孫をいぢり、貪嗔痴(とんじんち)を離れやらず、是仮の世を忘るるに似たり。我も子孫なきにしもあらねど、其紲(きずな)を断て、折々毎に逢見れば、遠いが花の香にて、互にうれしき心地ぞする。」

と述べています。

貪嗔痴とは仏教でいう貪欲、嗔恚(いかり)、愚痴の3つの根源的な煩悩だそうです。杜口にも子ひとり、孫ひとりいるわけですが、離れて時々会うのが、お互いにうれしいものだということでしょう。

ほとんどの日本人はこのように思うのではないでしょうか。年金や住居など江戸時代とは比べものにならないほど状況は良くなっている現在、おひとりさまは個人の選択にまかされています。杜口が生きた江戸時代には、たいへんな判断だったと思います。しかし、杜口は、独居と転居を選んだことのより、自由人として暮らすことができた。そして、貴重な記録である翁草200巻を残せたわけです。

翁草では、おひとりさまの暮らしぶりを次のように描く。

「くわいもらふ、芋もらふ、翁草書く、娘や孫が来る、目にはさやかに見えねども、八十二になる、銀(かね)もらふ、碁をうつ、早梅もらふ、書出しが来る、鱈もらふ、福寿草くれる、発句案じる、眼鏡は入らず、遠目はきかず、耳が聾(し)ふ、嘘がきらいに、藁がくる、餅が来る、冬がいぬる、島原が賑ふ、田舎が焼る、つい消る、景があたらしうなる、水が流れる、山が動かぬ、あなたのし楽書堂」。

書出しとは芝居の番付だそうだ。

ほのぼのとした暮らしぶりが目に浮かびます。三百二十数年という時は流れてもかわらないものがあるのを実感します。
日本人にはおひとりさまがやはり似合っているのかもしれません。

井戸 美枝(いど みえ)プロフィール
過去コラム一覧


CFP®、社会保険労務士。
社会保障審議会 企業年金部会委員

生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とし、経済エッセイストとして活動。人生の神髄はシンプルライフにあると信じる。

著書
世界一やさしい年金の本』(東洋経済新報社)『お金が貯まる人と、なぜか貯まらない人の習慣』(明日香出版社)など多数。

近著『人気セミナー講師・いどみえ先生の 社会保険がやさしくわかる本』(日本実業出版社)

井戸 美枝ホームページ

 

掲載日:2013年11月19日

 
    

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