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公的年金を「金融版公共事業利権」とするな

公的年金の積立金の運用方法の見直しが進められている。

例によって、官僚が事務局を握って、委員である有識者を使って報告書をまとめる形式だ。公的年金の運用方法を見直すこと自体は必要なことだ。現在GPIF(年金積立金運用管理独立行政法人)によって運用されている公的年金の運用計画は、「国内債券」の期待利回りが3%もあるような、凡そ現実の運用計画として使い物にならない代物だ。これは、厚労省、内閣府の年金財政の検証及び将来の経済前提に辻褄を合わせようとして、無理な論理を積み重ねた結果と推測されるが、このようなものを計画として認めて来た有識者の運用委員会の能力あるいは良心には深刻な疑問があると言わざるをえない。

さて、断片的に聞こえてくる報道によると、内外の株式、外国債券など、リスク資産への投資を積み増すことの他に、プライベート・エクイティ、インフラ・ファンド、新興国株式、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資などが検討されているようだ。

公的年金の運用に関しては、民主党政権時代にも、長妻昭厚労相(当時)の下で開催されたGPIFの運用のあり方検討委員会で、「とりあえず10兆円くらいヘッジファンド等で積極運用しよう」という声があった。こうした案を進めようとしていたのは「10兆円規模の日本版国家ファンドを作ろう」と言ったり、「ゆうちょ銀行の資産を積極運用しよう(こちらも10兆円)」と言ったりしていた、金融業界の利益を代表していると思われる人々だった。

はっきり言って、ヘッジファンドもプライベート・エクイティも、手数料が高い。しかも、大規模な資金の運用を新たに立ち上げて成功する見込みは乏しい(大規模で有利なチャンスがあれば民間でとっくにやっているはずだ!)。

端的に言って「とりあえず10兆円」と言っている人たちは、金融版の公共事業利権を獲得しようとしている、広義の商売人ないしその手先なのだ。

公的年金積立金による株式投資を増やそうという話もあまり筋が良くない。政府としては、公的年金の株式投資や外貨投資で株高・円安を後押ししたいという思惑があるかもしれないが、公的年金のような巨大資金の運用方針変更は市場の参加者に先回りされて利用される可能性が大きい。公的年金の運用には、十分な説明責任を果たすと、運用が不利になるという大きなジレンマがある。また、国内株式をこれ以上買い増すと、公的年金が一部上場企業の大株主として軒並み顔を出す事になりかねない。この場合、投資先企業のガバナンスに真面目に取り組むと、政府が民間企業の経営に介入することになるし、議決権行使を民間運用会社に丸投げすると、公的年金の保有分だけコーポレートガバナンスの空洞化が生じる。

そもそも論としては、公的年金積立金にリスク資産での運用を取り込んだことが筋悪だった。現実にリスク資産に投資しているポートフォリオを巻き戻すことは容易ではないし、純粋に運用を考えるなら内外の株式投資の拡大は悪くないかもしれない。しかし、せめて、手数料の高い運用に公的年金の資産を振り向ける「金融版の公共事業利権」の発生は抑えたいものだ。

かつて、小泉政権時代に「民間でできることは民間で!」というキャッチフレーズがあった。資産運用は、民間でできるだけでなく、民間にこそ向いた仕事であることを痛感する。

山崎 元(やまさき はじめ)プロフィール
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楽天証券経済研究所客員研究員

獨協大学 経済学部特任教授
株式会社マイベンチマーク代表取締役

1981年東京大学卒業後、三菱商事、野村投信を筆頭に、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、
パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。

ファンドマネジャー、コンサルタント等の経験を踏まえ、資産運用分野が専門。
雑誌やウェブサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。

掲載日:2013年11月21日

 
    

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