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三中全会で中国が変わるのか

習近平政権が誕生してから10カ月になるが、その執政方針を明らかにしてこなかった。それゆえ、11月中旬に開かれた経済改革の基本方針を定める共産党中央第18回三中全会は内外で広く注目を集めた。何よりも、胡錦濤政権では、ほぼすべての改革が先送りされた結果、人々の改革に寄せる期待はかつてないほど高まっていた。

習近平政権はその誕生の当初から国民に対して改革を約束した。李克強首相は「中国経済成長をけん引する人口ボーナスこそ近いうちにマイナスになるだろうが、改革は新たなボーナスとなる」と豪語した。中国国民の大多数は指導部が大胆に改革に取り組むならそれを支持し協力するはずである。習近平政権にとり改革に取り組む好機といえる。

4日間に亘って完全にクローズドななかで三中全会が開かれ、閉会後、記者会見もなかった。その代わりに、三中全会決議の公報と詳細な「決定」が公表された。中国国内の官製メディアは一概に今回の三中全会を重要な会議と位置づけるが、その公報と「決定」を繰り返して読んで失望感が漂ってくる。

まず、なぜ改革を深化させるかについてその必要性に関する記述はほとんどない。35年前、最高実力者だった鄧小平は「改革・開放」を進めるために、それまでの毛沢東時代の政策をほぼ全面的に否定し国民に対して改革と開放の必要性を唱えた。それに対して、今回の三中全会の決定の導入部においてこれまでの35年間の改革は輝かしい成果を成し遂げたと自画自賛した。しかし、これまでの改革が成果を成し遂げ、順調に進んでいるとすれば、これからその延長線上で改革を続ければいいはずである。中国の現状をみれば、改革は明らかに行き詰っている。

習近平政権は中国経済と中国社会の現状に直面できなければ、思い切って改革に取り組むことができない。無論、習近平国家主席が難しい立場に立っていることは容易に想像できる。習近平国家主席は国民によって選ばれたものではなく、古参の指導者らに指名され国家主席に就任したものである。そのために、習近平国家主席が行う改革において古参指導者らの利益と衝突しそうな場合、その対立を避けるのは人情といえる。

しかし、金融改革や国有企業改革などほぼすべての改革を深めようとすると、必ず古参指導者の既得権益と衝突する。国民に選ばれていない指導者は国民の利益よりも自らを指名してくれた古参指導者の利益を代弁するだろう。さもなければ、指導部内で裏切り者と目されてしまう。

そして、今回の三中全会で採決された決議のもう一つの欠陥は、所得格差の縮小や幹部腐敗撲滅など立派な目標がいっぱい掲げられているが、それを実現するための具体策はほとんど示されていない。たとえば、所得格差を縮小しなければならないが、累進性のある所得課税を現在の賃金所得とその他の所得の分離課税から総合課税に切り替えなければならないが、それについてまったく言及されていない。そして、富が特権階級に集約されているが、贈与税や相続税はいまだに導入されていない。では、どのようにして所得格差を縮小するというのだろうか。さらに、幹部の腐敗を撲滅といっているが、幹部の個人財産の公開についてまったく言及がない。しかも、民主主義の政治改革について議論さえされていない。このままでは、幹部の腐敗はますます横行するに違いない。振り返れば、温家宝前首相は国民に改革を約束しながら、まったく改革に取り組まなかった。仮に、習近平政権も同じように改革を宣言するカモフラージュで改革を先送りしようと思うならば、中国では、革命の足音が聞こえてくるだろう。

柯 隆(か りゅう)プロフィール
過去コラム一覧

富士通総研経済研究所 主席研究員 

中国南京市生まれ
1988年1月来日
同年 愛知大学法経学部入学
1992年3月愛知大学法経学部卒業
1992年4月名古屋大学大学院経済学研究科入学
1994年3月名古屋大学大学院経済学研究科修士取得
同年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年10月 富士通総研経済研究所主任研究員
2006年7月より現職

著書
中国が普通の大国になる日」(日本実業出版社、2012年) 
チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社、2010年)
中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社、2007年)
「日中『歴史の変わり目』を展望する」(勁草書房、2013年、共著)
"Global Linkages and Economic Rebalancing in East Asia", World Scientific Publishing Company, 2012 (共著)
「中国の統治能力」(慶応義塾大学出版会、2006年、共著 ) など

掲載日:2013年11月28日

 
    

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