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土地か投資か

日本の個人金融資産は1,500兆円で、その過半数が現金・預金だとして、欧米のデータと比べてその高さが際立っていることが指摘されます。実際、国民経済計算のデータをみると、2011年の家計(個人企業も含む)の保有する金融資産は1,511兆円でそのうち55.5%が現金・預金となっています。

これを時系列に追ってみると、現金・預金の比率は1980年には58%くらいあり、バブルのピーク近かった1989年には43%に低下しますが、2011年にはまた50%台後半に高まります。現金・預金比率は一貫して50%を挟んでプラスマイナス5ポイントくらいの振れ幅にあり、日本人は「現金・預金が大好き」を示しています。

しかし、少し視点を変えてみると違った姿が見えてきます。個人の資産運用では、資産のなかに土地や不動産も選択肢として考えるのが普通です。そこで、個人金融資産に個人所有の土地を含めた資産を「個人資産」として、国民経済計算のデータから計算してみました。2011年末ではこの個人資産は、2,205兆円となります。時系列でみると、金額が最も大きかったのがバブルのピークの1990年で2,476兆円強です。2011年はそこから1割ほど減少しているわけですが、20年以上のバブル崩壊という言葉からくる印象と比べるとそれほど大きいとは言えません。どちらかというと個人資産は過去20年以上にわたって横ばいだったという印象です。

ただ、その構成比には大きな変化があります。1990年には土地が60%を占めていましたが、2011年には31%に半減しています。一方、1990年に19%だった現金・預金の比率は2011年には38%へと倍増しています。土地神話という言葉がありましたが、それが崩壊した後、現金神話が生まれたといっても過言ではないでしょう。

日本の個人資産の推移(単位10億円)

(注)1993年以前は平成年基準による平成15年度確報ベース。
   1994年以降は平成17年度基準で2011年度確報ベース
(出所) 国民経済計算、家計(個人企業を含む)の期末貸借対照表勘定データよりフィデリティ退職投資教育研究所作成

 

金融資産の中だけでみていると個人は現金・預金に常に半数前後の資産を振り向けていたように見えますが、これを個人資産という枠でみると、資産が土地から現金・預金に大きくシフトしてきたことがわかります。デフレの時代にあってこの資産構成の変化は"後追い"ではありますが、理に適ったものだったという指摘も肯けるところです。

問題は今後です。現金・預金が個人資産の最大項目となったのが2008年頃。ついにCash is KINGとなったのです。これが「現金さえあれば安心」という現金神話に基づくものであれば、バブルを予感させ、その崩壊が懸念されます。現金バブルの崩壊のきっかけはインフレに他なりません。おりしも2%のインフレを目指す政策が取られ始めた現状は、現金バブル崩壊にこれまで以上に注意を払う時期に来ているのではないでしょうか。

その折に気になるのが現金からどこに個人の資金が向かうのかということです。「貯蓄から投資へ」の流れを生み出すのではなく、再び「貯蓄から土地へ」と個人の資産が逆流していくとしたら、また新しいバブルを生み、その崩壊を恐れることになります。それは避けたいところです。土地、現金・預金、有価証券、保険・年金で4分の1ずつの資産配分になれば落ち着くだろうと思うのですが。

野尻 哲史(のじり さとし)プロフィール
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フィデリティ投信 フィデリティ退職・投資教育研究所所長

一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て、2006年からフィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長。大規模なアンケート調査をもとに投資家への提言をするなど、投資教育に従事。

退職金は何もしないと消えていく」(2008年) 、「老後難民 50代夫婦の生き残り策」(2010年)、「40代のサイフ」(宝島社、2012年)、「50歳から始めるお金の話」(2013年2月、小学館文庫)など著書も多数。

現在、日本アナリスト協会検定会員、日本FP学会、日本証券経済学会、行動経済学会などの会員。

 

掲載日:2013年12月11日

 
    

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