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スタートしたNISAのがっかりする現実

鳴り物入り、というほどではないが、金融業界の大きな期待を受けつつ今年の年初からNISA(少額投資非課税制度)が始まった。それぞれの金融機関は、NISA口座向けに商品を揃え、住民票取得等の手続きを代行したり、おおむね2千円程度の現金や商品券などを顧客に与えたりしてNISA口座の勧誘を行った。

これが多いのか少ないのかの判断は難しいところだが、日本証券業協会によると、NISA口座は500万件に達した模様だ。証券会社で3百数十万件、銀行で1百数十万件といった口座獲得状況のようだ。ついでにお伝えすると、語呂合わせのよい2月13日を「ニーサの日」とするようだ。

それでは、投資家は、NISAでどのような投資をしているのだろうか。

1月27日の『読売新聞』(朝刊)の「売れ筋ランキング」と題した記事に、ある大手証券(名前は伏せる)で、NISA口座で顧客が購入した投資信託のランキングが上位5本発表されていた。

第一位は米国のREIT(不動産投資信託)に投資するファンドであり、分配金を毎月出すタイプで、購入時手数料は3.15%(税込)だった。

第二位はカナダの高配当株式に投資するファンドで、こちらも毎月分配型で、販売手数料は3.15%。

第三位も毎月分配型で、米国株に投資しつつ為替リスクをブラジル・レアルにスイッチしたもので、販売手数料はやはり3.15%。

第四位は日経平均に連動するインデックス・ファンドでこちらはノーロード(販売手数料がゼロ)だ。記事によると、この証券会社がNISA向けに取り扱いを始めた購入手数料が無料の16投信のうちの1本だという。

第五位は、日本株に投資するファンドだが、この販売手数料も3.15%だ。

第四位の日経平均インデックス・ファンドに投資した投資家を除くと、売れ筋ファンドを購入した投資家は、投資可能な100万円をフルに使ったとするなら、さっそく3万円(税抜)の手数料を証券会社に献上した。しかも、インデックス・ファンド以外の投信は信託報酬の水準も安くはないので、これから、概ね毎年1万数千円ずつ手数料を払うことになる。10年満期の国債の利回りが0.6%台のご時世に、手数料だけでこれだけ払うのだから、これで運用商品の体をなすのか心配だ。

しかも、上位3本は、元本の成長を阻害する点で仕組み上NISAには明らかに不向きな毎月分配型の投資信託だ。金融マンとして、正しく顧客にアドバイスするなら、「NISAは投資元本100万円までの投資の収益を5年間非課税にする制度です。同じ収益率なら、分配金を頻繁に払い出すよりも、分配金をなるべく出さずに元本を成長させるタイプの商品の方が得になります」と説明して、顧客に別の商品に投資するように勧めるのが正しい態度だ。

ついでに言うなら、米国のREIT、カナダの株式、ブラジル・レアルなどは、とても顧客の側から商品を指名して買いに来たようには思えない。セールスマンが顧客に勧めたものだろう。

金融リテラシーの低い顧客に、分配金の大きさを強調して、あたかも良い運用をしている商品であるかのように見せかけて、手数料の高い投信を売りつけるという、通常の投信販売の手口がNISA口座でも繰り返されているようだ。

売り手が変わっていないのだし、NISA口座とはいえ、商売なのだから手数料を稼ぎたい気持ちは分からなくもない。しかし、明らかにNISAに不向きな商品があからさまに「売れ筋ランキング」の上位に並ぶ様子を見ると、しょせん日本の大手金融機関の志はこの程度のものなのか、と現実を認識するのと同時に暗澹たる気分になる。

これでは、余程の幸運がなければ、多くの顧客が「NISAはいいものだ」さらには「投資はいいものだ」と思うようにはなるまい。よく分かったのは、顧客が金融機関のいいなりに従うと余計な手数料をむしり取られるという厳しい現実だ。NISAは残念なスタートになった。

山崎 元(やまさき はじめ)プロフィール
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楽天証券経済研究所客員研究員

獨協大学 経済学部特任教授
株式会社マイベンチマーク代表取締役

1981年東京大学卒業後、三菱商事、野村投信を筆頭に、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など、計12回の転職を経て現職に至る。

ファンドマネジャー、コンサルタント等の経験を踏まえ、資産運用分野が専門。
雑誌やウェブサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。

掲載日:2014年1月29日

 
    

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