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「影の銀行」問題が刺激する中国の金需要

前回は「西から東への金地金の大移動」と題して、2013年の国際金市場の構図としての欧米"投資家"の積極的な売りに対し、アジアを中心とした"消費者"の積極買いについて取り上げた。それはまさに、"投資家"と"消費者"の対峙として色分けできるものでもあった。なぜなら例えば、インドの農村部で盛んに金を購入している人々にとって、米国の金融政策の行方など関心外のことであるからだ。一方、ファンドは量的緩和策の縮小を理由に大量売りを続けた。

その際にも触れたが、「東」の買いの中心に座ったのが中国だった。これまで世界最大の金需要国といえばインドだった。ところが2013年は、貿易収支の悪化による経常収支の赤字拡大を抑えるためにインドでは3度にわたり輸入関税を引き上げ10%にした上で、輸入制限まで設けたことから下半期に輸入が激減することになった。一方、中国からの金の買い引き合いは強く、香港の通関統計から2013年の中国の金輸入はネットで1,158トンと一気に1,000トンを突破したことが判明している。2月中旬に10-12月期の需要統計が発表されるが、中国がインドを抜いて世界最大の需要国になったのは間違いなかろう。

中国といえば、足元の話題は状況によっては国際金融をも揺るがしかねないとされる「影の銀行(シャドーバンキング)」問題がある。懸念事項として浮上したのが昨年春のこと。金融当局の厳しい規制下にある銀行を通さない資金融通ゆえに、その実態は闇の中とされる。実際に中国政府がその本格的な規制に乗り出す方針が伝えられたのは、今年に入ってからのことだった。銀行を介さない資金調達の手段として信託会社などが発行する10%以上など高利回りをうたった「理財商品」が次々と作られ販売されてきた。企業が融資を受けた資金を又貸しする迂回融資なども含めた規模は、銀行・保険・証券監督当局が把握するものだけで9兆元(約150兆円、2013年6月時点)とされる。これに地方政府が監督するものや規制対象になっていなかったネット金融やその他販売会社の分を入れた全体の規模については公式のデータは存在しない。米国の格付け会社ムーディーズによる推計では4兆8,000億ドル(約494兆円)とされる。2013年の中国のGDP(国内総生産)の52%にもなる規模である。

ここに来て懸念が高まっているのは、報道はされないものの発行された「理財商品」のデフォルト(債務不履行)が増えているとされること。しかも、投資家に販売した仲介者に中国工商銀行など有力銀行や有力保険会社などが名を連ねていること。投資家としては有力銀行から購入して高利回りを信じていた商品が焦げ付くという事態に、トラブルが急増中とされる。本来は責めを負わない仲介業者(販売者)としての銀行などが、体面上もありトラブルの表面化を恐れ水面下で債務を肩代わりする例も出ているようだ。おそらく法規制のない中小の金融業者の販売によるものでデフォルトになったものは、それ以上に多いと見られる。不良債権化したものの表面化は、むしろこれからという指摘もある。

じつはこうした環境も中国国内の金の購入を刺激していると思われる。需要拡大の背景に大手行を中心に銀行での金の窓販が全国規模で定着したことがある。中央政府が率先して販売を奨励したからだ。そして直近では9行に絞っていた金輸入の窓口を広げる方針を掲げ、英HSBCと豪ANZの外銀2行にも輸入業務を許可している。取扱い銀行の窓口では、小さいものでは3グラムの金貨から業務用の400オンス(12.5キロ)の大型地金まで預金口座を使い決済することで非常に手軽に購入が出来るようになっている。筆者も仕事柄現地取材で中国工商銀行上海分行の窓口にて10グラムの金貨を買い求めたことがある。その際に同行で取り扱っている金および銀の地金とコインのカタログを入手したが、種類も多く販売インフラの充実ぶりに驚いた経験がある。そこに理財商品に関連した不良債権問題が影を投げかけている。この場合、国内金融への懸念の高まりが、安全資産としての金の購入を刺激する要素となっていると見られる。民間部門では、以前のインフレ対応から今では投資家の安全志向が金に資金を向かわせていると見られる。金価格を見る上で中国の動向からは今年も目が離せない。

亀井 幸一郎(かめい こういちろう)プロフィール
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生活設計塾クルー取締役

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト

中央大学法学部卒業。
山一証券に8年間勤務後、日本初のFP会社で投資顧問会社マネー・マネジメント・インスティチュート(MMI)入社。
1992年世界的な金の広報・調査機関ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン)入社。
企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。
2002年マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役。

「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。
日経CNBCテレビ「デリバティブ・ワールド」、ラジオNIKKEI「マーケット・トレンド」など数々のメディアでの市場分析のほか、住友金属鉱山サイトでは金市場を軸にした金融経済分析と市況解説を、投資情報誌ネット・マネーにて「亀井幸一郎の金市場の風」、日本証券新聞コラムなど定期寄稿中。

ブログ 『亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」』

 
掲載日:2014年1月30日

 
    

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