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『時代の先行指標としてのアーティスト』

昨年から日本でイギリスの国民画家といわれる「ターナー展」が開かれています。現在、会場を神戸に移し4月まで見ることができ、もう幾度か訪れてみました。150点以上を一度に見ることができるのは、生涯、そうあるとは思えません。

今回は、絵画についての議論ではなく、人生、お金とそれを取り巻く環境について考えてみました。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーは1775年ロンドンに生まれ、1851年没。大英帝国が坂の上の雲をめざす上り坂の時代、イギリス版サクセスストーリーのひとりです。 1859年にサミュエル・スマイルズによる「自助論(Self Help)」に取り上げられています。この本は当時のベストセラーであり、明治のはじめに日本でも翻訳されています。明治の時代、立身出世を目指すバイブルのような本です。その自助論にターナーは登場します。

理髪店の息子に生まれたターナーは、画才を早くから認められ、社会的な成功を収めるのも26歳でロイヤル・アカデミーの正会員になっています。社会的な成功としてはサーの称号を得ることはできなかったが、ロイヤル・アカデミーの副会長、会長代理になっています。一方、経済的な成功は、76歳で亡くなり遺産価値として当時の金額として14万ポンド、当時としては巨額の財産だと思われます。 

社会的経済的成功を収めたターナーは、あわせて2万点を越す作品をひとまとめにし、国へ遺贈することを望んでいました。実際、今回、日本という異国で数多くの作品をまとめて見ることができるのは、ターナーの遺言のおかげです。

私が感心するのは、時代の先端を嗅ぎ分け、うまく取り込むところです。具体的には、旅行、そして写真です。 

まず、旅行ですが、英国国内もそうですが、イタリア、フランス、ドイツなど、数多くの旅行をしています。西欧に機関車が走り始めることにより、グランドツアーといわれる貴族・資本家の旅行が、一層、庶民化します。グランドツアーにつきものなのが、旅行先の風景絵画です。グランドツアーの記念品であり、豪奢な館に飾るにふさわしいものが求められました。代表的な作家としては、コンスタンブルがあげられます。

そして、絵画への需要はイギリスの経済成長とともにぐんぐんと伸びます。 ターナーはこの流れにうまくつかんでいます。つまり、絵が売れるということです。ターナーは実際、実によく旅行にでています。一方で、英国人のアウトドア好きなところもあったのかもしれません。 

ところで、ターナーはお金にはこまかいと言われています。同時代、東アジアの葛飾北斎とは真逆です。日本で芸術家が、お金に細かいのは、永井荷風が有名ですが、100年ほどの違いがあるのかもしれません。

もうひとつ、写真への関心です。

70歳を越えている1847年から49年にかけて画家であることを隠し、銀板写真士と親交を結んでいることです。光を描く画家といわれ、写真への関心があるのは当然でしょうが、動きそのものが早くポイントをついたものだと思います。大家と言われ70歳を越えても、この好奇心。驚くべきものだと思います。

ターナーの印象派への影響については、1870年代、モネとピサロがロンドンにてターナーの作品を丹念に研究し、賞賛しています。 ターナーは、当時の評論家たちなどから種々言われていたようです。しかし、評論家は歴史に残ることはなく、理解者であり擁護し続けていたラスキンが名を残すのみではないでしょうか。といっても、現在では、ラスキンでさえだれ?という感じでしょうが。

外観(小柄身長1m60cm、鉤鼻など)に自信がなかったのか、他人に描いてもらうのが嫌いなターナーですが、自画像をいくつか残しています。ロイヤル・アカデミーの準会員になったとき、つまり24歳の時の自画像があります。若さと意思と情熱が感じられます。なんでも自分でやってしまう、このあたりに時代を乗り越えるなにかがあるように思えます。

ダイナミックな時代を振り返させてくれる展覧会、ありがたいものです。

井戸 美枝(いど みえ)プロフィール
過去コラム一覧


CFP®、社会保険労務士。
社会保障審議会 企業年金部会委員

生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とし、経済エッセイストとして活動。人生の神髄はシンプルライフにあると信じる。

著書
世界一やさしい年金の本』(東洋経済新報社)『お金が貯まる人と、なぜか貯まらない人の習慣』(明日香出版社)など多数。

近著『人気セミナー講師・いどみえ先生の 社会保険がやさしくわかる本』(日本実業出版社)

井戸 美枝ホームページ

掲載日:2014年2月5

 
    

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