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確定拠出年金導入の新たなトレンド

■確定拠出年金導入の新たなトレンド

1月23日の日本経済新聞1面によれば、企業年金制度のひとつである確定拠出年金制度が普及期に入りつつあるそうです。日本版401(k)として鳴り物入りでデビューしたものの、業界の思惑ほど伸びず、投資信託の銀行窓販やNISAなどに押されがちでしたが、ここにきて存在感がじりじり高まりつつあるようです。

データで見てみると、東証一部上場企業の4~5割はすでに確定拠出年金を採用しているといわれています。企業数では約17,700社が導入を果たしており、このうち中小企業(従業員数300名未満)が80%を占めています。制度創設の議論を行っていた2000年頃には、自己責任型の企業年金制度など日本にはなじまないとする意見もありましたが、多くの企業が確定拠出年金を採用したことが分かります。

ところで、今ニュースになるような「2010年代の確定拠出年金導入」は、2001年10月にこの制度がスタートしてからのトレンドと異なる動きがあると私は考えています。

まず、「今まで確定拠出年金を採用してこなかった会社が採用に踏み切る」というトレンドです。電機各社でも日立製作所は2001年12月に国内第1号の確定拠出年金導入事例で、多くの電機各社が追随しました。しかし、富士通やソニーは確定拠出年金を採用せず10年を経過しました。ところが、こうした企業がついに確定拠出年金を採用してきたというところに、2010年代の新しい傾向がみてとれます。企業の厳しい国際競争の影響を感じますし、「社員に優しい会社=確定拠出年金を入れない会社」のような単純な時代は終わりを告げつつあるのでしょう。

また、今起きているトレンドのひとつは「確定拠出年金の割合を引き上げる」という点です。先ほどのパナソニックや富士電機の事例は、すでに一部分導入していた確定拠出年金について全面的な導入に切り替えるというものです。2000年代における確定拠出年金導入パターンは「確定給付型の企業年金と併用する(会社も一定のリスクを負って退職給付の準備を行う)」ことと「確定拠出年金のウエートは2~3割程度(会社が7~8割は面倒みてくれる)」というものでした。過去の受給権は確定給付型の企業年金で保証されることもありますが、確定拠出年金のウエートが上昇しつつある(全面的な移行も多い)ところに2010年代の制度改革の本質があると思われます。

これは退職金や企業年金における老後資金準備は会社任せの時代が終わり、退職金・企業年金制度であろうとも、その資産形成は社員個々人が自ら投資判断を下さねばならず、その結果も自己責任を負う時代が到来したことを意味します。


■意外にも?若い世代には確定拠出年金のよいところが多い

一般に、確定拠出年金の導入は「会社の運用リスクを個人に押しつけるもの」と理解されます。業績低迷を確定拠出年金導入の言い訳として労使交渉を押し切る会社が多いためです。しかし、確定拠出年金にもいいところがいくつかあり、特に若い世代には魅力が勝る部分が多いように思います。

まず、「自分以外の資産運用の責任を負わない」ということです。歴史のある会社の企業年金ではしばしば、OBの給付が重い負担となっており、運用が低迷するとそのツケを現役世代が負うことがあります。確定拠出年金では自分の資産にのみ自己責任を負えばよく、そうした「世代間の支え合い(もちろん、若い世代が一方的に高齢世代を支える構図で逆はない)」を考えなくてすみます。

次に「給付のカットが許されない」制度であることも魅力です。企業の業績低迷に際して、得られたはずの受給権が数割程度カットされることがあります(特に公的資金が注入された企業などでは半減することもある)。まだ実際にはもらっていなかったとはいえ、ここまで働いてきたことによって得たはずの退職給付の権利が減らされるのは不当な話ですが、「会社がつぶれないことが優先」「雇用が守られることが優先」といわれて泣き寝入りするしかないものです。ところが、確定拠出年金については、外部に積み立てられた資産は会社と分別されているうえ、減額することは認められません。自分の財産を会社に吸い取られることはないわけです。

「会社の倒産にも強い」というのも確定拠出年金のメリットです。企業年金制度ではなく退職金制度しか採用していない会社の場合、倒産時に退職金を満額もらえる可能性はほとんどありません。確定拠出年金の場合、外部保全体制が確立しており、倒産時にも全額を確保することができる仕組みになっています。これは相対的に倒産リスクの高い中小企業において、特にありがたい仕組みといえます。

最後にもうひとつ。「転退職に際して、全額持ち運べる」ことも若い世代にとってはメリットです。従来の人事制度は退職金や企業年金制度をいわば「人質」としてきました。若いうちに辞めると、2~3割退職金額を減額し、これを自己都合退職をするペナルティとしてきたわけです。しかし、確定拠出年金については勤続3年以上であればどのような理由であってもカットすることはできません(懲戒解雇でも!)。転職にあたって、退職金カットが判断を歪めることがないわけで、これは明らかに会社より個人にとって有利な条件です。

4つの項目いずれも、2010年代の「会社と個人の関係」に沿った仕組みとなっています。1990年代まで、会社は個人を守る代わり、個人は人生を会社に捧げる関係が基本だったかもしれません。しかし今は違います。会社と個人はできるだけ中立的であるべきで、確定拠出年金はその具体的受け皿となるわけです。


■投資を学ぶ第一ステージとして投資教育に臨もう

会社が確定拠出年金の採用を決めたとき「うわー、リスクを押しつけてきたよ」と文句を言うだけで終わってはつまらない話です。むしろ、得られるメリットも多く(一部は会社もはっきり説明したくない要素です!)、前向きに受け入れたほうがいいと思います。

少なくとも、自己責任の結果は個人に属するわけですから、納得のいく資産配分を考える必要があり、投資教育の機会を居眠りしていてはもったいないと思います。資産運用のスキルは、いつか獲得しなければならないテーマですし、会社が与えてくれた機会は有効に活かしておくことをオススメします。

運用商品としても、銀行の窓販で買える投資信託より有利なものが提供されていることも多く、確定拠出年金にはチャンスがたくさん隠れています。もし、今年の4月から確定拠出年金制度がスタートする会社の社員も、今のうちにしっかり勉強し、最初の掛金拠出(通常なら5月末)を迎えてほしいと思います。

山崎 俊輔(やまさき しゅんすけ)プロフィール
過去コラム一覧


1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、消費生活アドバイザー、1級DCプランナー。

企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。
論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。近著に『お金の知恵は45歳までに身につけなさい』(青春出版社)。日経新聞電子版「20代から始める バラ色老後のデザイン術」など連載多数。
投資教育家として、twitterでも4年以上にわたり毎日「FPお金の知恵」を配信するなど、若い世代のためのマネープランに関する啓発にも取り組んでいる(@yam_syun)。


ホームページ: http://financialwisdom.jp

掲載日:2014年2月4日

 
    

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