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高まる地方債務リスクと金融システムの安全性

いかなるリスクについてもほんとうに心配されるのはその実態がはっきりしないことにある。1990年代半ば、中国の金融機関の不良債権問題がクローズアップされていたが、その後、4社の国有資産管理会社(AMC)が設立され、国有銀行の不良債権の多くがこれらの資産管理会社に移管された。しかし、ストックの不良債権を切り離しても、国有銀行の体質が大幅に改善されたわけではなく、不良債権は絶えず生まれている。不思議なことに、それ以降、国有銀行の不良債権問題が心配されながらも、話題にもならなかった。

それは国有銀行の経営メカニズムが大きく改善されたからというよりも、中央銀行が実施する金利規制は市中銀行に大きな利ザヤをもたらしているからである。現に、市中銀行の預金金利(1年もの)は3%未満であるのに対して、貸出金利は6%を超える水準である。すなわち、市中銀行にとり3ポイント以上の利ザヤになる。国有銀行はこの利ザヤの一部を持って不良債権処理に引き当てている。

しかし、預金者にとり、3%以下の預金金利は低すぎる。なぜならば、インフレ率は往々にして金利を上回っているからである。ときには、政府が公表するインフレ率と一般家計が体験するインフレ率は大きくかい離する。現在のインフレ率は政府によって過小評価されている。というのは、インフレ率を計算する物価のバスケットのうち、食品価格のウェイトは一般家計のエンゲル係数(食品関連支出÷可処分所得)を下回っているからである。

中央銀行は預金の基準金利を大きく抑制する結果、家計は金融資産を銀行預金から不動産投資や貴金属投資などにシフトしている。とくに小口投資家はより高い投資収益を追い求めて投資信託などの理財商品に投資している。その結果、不動産市場のバブル化が助長されている。

そのなかで、地方政府は「予算法」によって債務の借り入れが禁止されている。しかし、地方政府は都市再開発などさまざまな投資需要があるため、その傘下にたくさんの投資会社を設立し、これらの投資会社をプラットフォームとして利用し、巨額の債務を借り入れている。ここに来て地方債務リスクの問題が改めてクローズアップされている。

習近平政権になってから、実質GDP伸び率は急に減速している。低い資源効率と環境負荷を考えれば、無理に高成長を目指すことは必ずしも良い結果にはならない。李克強首相は7%台の成長を肯定的に受け入れるべきと繰り返して強調している。それは正しい判断といえるが、地方政府にとり決して朗報ではない。なぜならば、マクロ経済が7%成長に減速する現状において地方政府の種々のプロジェクト投資はそれ以上の収益を実現することはできない。時間が経つにつれ、地方政府の債務は返済不可能に陥る恐れがある。ここで心配されるのは地方債務リスクが金融システムに飛び火することである。

李克強首相は市場経済制度改革の一環として金利の自由化を進めているが、金利の自由化は金融機関の競争を促す意味において重要であるが、一時的に金融システムの安定性が脅かされる可能性もある。

総括すれば、2014年、中国の金融制度改革について節目の年である。金融システムの安定性を維持しながら、金融制度改革を推し進める必要がある。そのなかで、ストックの不良債権を処理し、新たな不良債権の発生を抑制する制度作りが求められている。金融制度改革のツボは国有銀行をいかに民営化するかである。

柯 隆(か りゅう)プロフィール
過去コラム一覧

富士通総研経済研究所 主席研究員

中国南京市生まれ
1988年1月来日
同年 愛知大学法経学部入学
1992年3月愛知大学法経学部卒業
1992年4月名古屋大学大学院経済学研究科入学
1994年3月名古屋大学大学院経済学研究科修士取得
同年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年10月 富士通総研経済研究所主任研究員
2006年7月より現職

著書
中国が普通の大国になる日」(日本実業出版社、2012年) 
チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社、2010年)
中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社、2007年)
「日中『歴史の変わり目』を展望する」(勁草書房、2013年、共著)
"Global Linkages and Economic Rebalancing in East Asia", World Scientific Publishing Company, 2012 (共著)
「中国の統治能力」(慶応義塾大学出版会、2006年、共著 ) など

掲載日:2014年2月26日

 
    

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