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『忘れられた本』

旅が好きで、書籍、ネット、関係なく旅行記を読みます。ネットではブログなどで視点や考え方がしっかりした旅行記が多く、また写真アルバムのようなヴィジュアルとしても楽しく、ほぼ毎日のようにチェックしてしまいます。
一方、最近、書籍で読むのは1950、60年代の旅行記です。

江戸時代、大旅行ブームがあったことはよく知られています。巡礼、代表的なものは「お伊勢さん参り」ですが、湯治など小規模な旅行も数多くなされています。その旅行記も膨大な数のものが残されています。芭蕉の「奥の細道」は旅行記のさきがけのように思えます。

庶民の国内旅行の実質的な広がりをみたのが江戸時代だとすると、国民にとって本当の意味での日本の開国は1950、1960年代ではないかと思います。その後、若いOLまでもふくめ海外旅行ブームが起こるわけです。日本が長く続いた戦争に負け、占領を経て、再び海外へ出かけようという時代です。外国為替管理法という法律があった時代、資金面から渡航が制限され、なんらかの理由がなければ、海外に出ることができない時代の旅行記です。
 
実は50、60年前の旅行記のほとんどは、いま読んでどうするの、という内容のものです。しかし、それでも手に取ってよかったと思えるものがあります。今回、取り上げる高橋徹「忘れられた南の島」(アサヒアドベンチュアシリーズ昭和38年12月)もそのひとつです。奥付によると著者は1938年生まれ、現在75歳か76歳、ご活躍のようです。アサヒアドベンチュアシリーズは、監修者が泉竧一・梅棹忠夫、文化人類学の両巨頭で、在学中か卒業して間なしの若い人たちのアドベンチュアの記録集だそうです。本書も、23歳の学生が見た「忘れられた南の島」東チモールへの学術調査隊、その実質的なエンジンとなった著者の旅行記です。隊長は古生物学専門の京大理学部助教授、正式な学術調査であることは間違いないのですが。

本書のあとがきで梅棹忠夫氏は、当時のチモールを「世にもめずらし旧型の植民地の見本なのである。このチモールにおいて、中沢隊長はアンモナイトの化石を発見し、高橋君(著者)は、やはり前世紀の「植民地」というものの化石を発見したのである」。旧型というのは200年前からの植民地を指し、歴史の教科書の出てくるものが、実は存在していたということです。23歳の日本人青年は、「植民地の実態についていろいろと見聞し、おどろき、かつとまどい、かなり深刻な経験をした」とあとがきでふれています。

本書を読んで、いろいろなことを考えさせられたのですが、特に関心を持ったのは次の2点です。

まず、東チモールの原住民、植民地政府のポルトガル人、そして7,000から8,000人いるとされる中国人、この3者とその関係です。これは、東南アジアに見られた構図です。ただタイだけは植民地政府ではありませんが、欧米列強の影響は同様のものがあり、アイデンティティを持ち続ける中国人移民が多数います。支配者、被支配者、商人としての中国人です。そして、被支配者は複数の種族に分かれています。

もう一点は、著者はチモールは独立を目指すべきだと考える点です。日本人ならば誰もが独立すべきだと思いますが、東チモールとして独立できたのは2002年でした。

歴史をさかのぼると、1702年にポルトガル領となり、チモール島の東半分がポルトガル領、西半分はオランダ領となったわけです。272年後の1974年、ポルトガル本国での革命によって非植民地化の方針がでたわけですが、その後内戦状態となります。75年インドネシア軍が進駐し、翌年インドネシアの27番目の州として併合されます。インドネシアによる占領に抵抗する東チモール人は、20万とか30万人といわれる犠牲者がでたといわれます。そして、インドネシア軍による虐殺事件の国際報道により、世界からの目が注がれ、指導者たちのノーベル平和賞受賞など、また国際連合の暫定行政機構ののち、独立したわけです。

世界銀行のデータでは、人口(2012年)121万人、独立当時(2002年)の国民一人当たりのGNIは591米ドル、2012年には3620米ドルとなっています。

ジム・ロジャーズの世界旅行記を読むと、オーストラリア・ダーウィンの目の前に広がるチモール海などはエネルギー資源が豊富に存在し、21世紀の成長ポイントのひとつであると書かれていたように思います。そのエネルギー資源の寄与により、独立以降、国民一人当たりのGNIが6倍になっています。

しかし、日本人が訪れる東チモールは、カントリーハンティングの対象という意味ぐらいしかないように思えます。カントリーハンティングは訪問国数を増やすことが目的ですから、入国出国その間、数時間という人もいます。どうも、それほど見るところがないようです。

私個人としては、バリ島かダーウィンに行ったときに寄ろうと思っているのですが、この本に巡り会えたことで、より深みのある旅ができそうな、そんな気がします。

井戸 美枝(いど みえ)プロフィール
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CFP®、社会保険労務士。
社会保障審議会 企業年金部会委員

生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とし、経済エッセイストとして活動。人生の神髄はシンプルライフにあると信じる。

著書
世界一やさしい年金の本』(東洋経済新報社)『お金が貯まる人と、なぜか貯まらない人の習慣』(明日香出版社)など多数。

近著『人気セミナー講師・いどみえ先生の 社会保険がやさしくわかる本』(日本実業出版社)

井戸 美枝ホームページ


掲載日:2014年3月7

 
    

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