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目標代替率

目標代替率という言葉をご存じでしょうか。英語では、Income Replacement Rates とか、Target Replacement Ratesと言われる数字ですが、退職後に生活水準を落とさない所得(支出)レベルということになります。例えば現役時代の生活レベルを落とさないで退職後も生活を続けたいとすると、どれくらいの年収(支出)があればいいかという考え方ですから、退職直前の年収(支出)に対する退職後の年収(支出)といった感覚です。

日本で公的年金の支出額をみる時に、所得代替率という言葉が使われますが、これとはかなり違う性格の数値です。というのも、所得代替率は、年金支給額を年金拠出(現役)世代の"平均"所得で割った比率なので、年金財源の議論には使えるかもしれませんが、個人の生活レベルを前提にしたものではありませんね。特に現役世代の平均所得というと30代後半くらいの年収になりますから、これと退職後の生活水準を比較してもあまり意味はありませんね。

英国のInstitute for Public Policy Research のレポートで年収別の目標代替率が収載されていたので紹介しますと

年収 目標代替率
12,136ポンド未満 80%
12,136-22,354ポンド 70%
22,355-31,936ポンド 67%
31,937-51,098ポンド 60%
51,098ポンド以上 60%
(注)2012年水準
 

と年収が低いほど目標代替率が高くなっていることがわかります。というのも、年収が低い場合には退職したからと言ってそれほど生活レベルを落とせないということでもあります。

そこで、英国の場合、退職後にいったいいくら必要なのか、計算してみましょう。イギリスの50代男性の年収中央値は英国統計局のAnnual  Survey of Hours and Earnings, 2012 revised resultsによると38,187ポンドで、これを表にあわせると目標代替率は60%ですから、退職後に年間22,912ポンド必要という計算になります。1ポンド=170円とすると、円換算で390万円程度ということになりますが、これが退職後30年続くとすれば1億1,700万円が必要になるわけです。ちなみに、前述のレポートでは、22歳から確定拠出年金に給与の8%を拠出し続けてもこの水準をカバーできる可能性は50%を下回ると分析しています。厳しい現実です。

日本の場合はどうでしょうか。目標代替率を議論したものをほとんどみた記憶がないので、2009年の家計調査をもとにフィデリティ退職・投資教育研究所で推計したところ、68%となりました。年収別の計算などを行っていないのですが、結果としては、英国の数値とそれほどかい離はなさそうです。

さて、その水準で退職後の生活を送るとすると、いったいいくら必要になるのでしょうか?国税庁の平成23年分民間給与実態統計調査によると50代後半の男性の平均給与は616.2万円ですので、68%の目標代替率を使うと年間419万円が退職後に必要となります。これを30年間で計算すれば1億2,570万円。英国の数値とここでもあまり大差はないものになりました。

さて問題はこの水準を年金でカバーできるかということです。月額の年金が35万円程度ないとこの水準に至りません。厚生年金の平均支給額が23万円弱となった現状では月額12万円程度の他の資金源が必要ということになります。30年で4,320万円に相当するこの資金、さて、あなたは用意できるでしょうか?

英国は、このところ年金制度の大幅改革を実施して自助努力で老後の資金を確保できるようにと国を挙げて対策を講じ始めています。日本も早く対策を考える必要があります。

野尻 哲史(のじり さとし)プロフィール
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フィデリティ投信 フィデリティ退職・投資教育研究所所長

一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て、2006年からフィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長。大規模なアンケート調査をもとに投資家への提言をするなど、投資教育に従事。

退職金は何もしないと消えていく」(2008年) 、「老後難民 50代夫婦の生き残り策」(2010年)、「40代のサイフ」(宝島社、2012年)、「50歳から始めるお金の話」(2013年2月、小学館文庫)など著書も多数。

現在、日本アナリスト協会検定会員、日本FP学会、日本証券経済学会、行動経済学会などの会員。

 

掲載日:2014年3月10日

 
    

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