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転向するリコノミクスと中国経済の行方

1年前に、李克強首相は就任当初から(1)性急な金融緩和と財政出動をしない、(2)金融のレバレッジを削減する、(3)経済構造と産業構造を転換する、という自らの経済政策の柱を発表した。これらの経済政策はメディアでリコノミクスと呼ばれている。

中国経済の現状を考察すれば、無理に成長を目指した結果、資源効率が低いままであり、環境が犠牲になっている。胡錦濤政権の時代、2009年4兆元(当時の為替レートでは約56兆円)の景気緩和策が実行されたが、景気は確かに押し上げられた。一方、不動産市場のバブルも大きく膨らんだ。こうした状況からみれば、リコノミクスの政策トレンドは間違っていないと判断される。

しかし、現状において中国経済はすでに二けた成長から7%台のレンジへと減速している。経済構造と産業構造の転換は短期的に景気を押し下げる効果がある。また、金融のレバレッジを削減することで市中の流動性が減少すると考えられる。目下の中国経済にとって景気を下押しする圧力が強まっている。

さる3月に開かれた全人代で李克強首相は政府活動報告のなかで適当な金融緩和を実施すると金融緩和の可能性を示唆した。実際に、2月に入って銀行の信用創造を示す社会融資規模は拡大に転じている。同時に、電力消費量も大きく伸びるようになっている。こうした種々の現象からみれば、金融緩和を実施しないリコノミクスはひそかに転向していることが分かる。

では、なぜリコノミクスは転向しなければならなかったのだろうか。

従来から、中国にとり経済成長が減速すれば、雇用が難しくなるといわれていた。これについて、李克強首相は経済成長の雇用創出効果がかつてに比べ強くなり、雇用創出の観点から7%台の成長を肯定的に受け入れるべきと指摘される。確かに、雇用統計を確認してみると、5年前まで1ポイントのGDPの伸びは平均100万人の雇用を創出したが、ここ数年来、同じ1ポイントのGDPの伸びは130万人の雇用を創出している。とくに、2013年の統計で雇用創出効果が150万に達した。

経済成長の雇用創出効果が向上した背景には、サービス産業の伸長があると推察される。2013年、サービス産業を中心とする第三次産業のGDP比は46.1%と初めて第二次産業の43.9%を上回った。同時に、1人っ子政策が続いた結果、労働力の供給が減少に転じている。こうしてみれば、政策当局にとり失業問題の圧力はいくぶん減退していることが分かる。

しかし、だからといって景気減速をこのまま許していいというわけではない。

国有企業や地方政府などの公的部門は銀行に対して巨額の有利子負債を抱えている。経済成長率の低下は産業部門の収益性の悪化を意味するものである。銀行の貸出基準金利は6%台後半である。仮に経済成長率は7%を切るようになれば、企業部門の収益性が悪化し、債務返済は難しくなる。とくに、国有企業と地方政府などの公的部門の収益性はもともと悪く、このままでは、公的部門の債務危機は金融危機に飛び火するおそれがある。

結論的にいえば、李克強首相は予想されうる経済危機を回避するために、当初の公約を破って適当な金融緩和へと転向をせざるを得なくなった。無論、金融緩和に転向すれば、公的部門の債務問題はいくぶん軽減されるが、他方、不動産バブルという中国経済のメタボのような問題は再び浮上する可能性がある。李克強首相の言葉の通り、金融緩和を進めないといけないが、適当でなければならない。

柯 隆(か りゅう)プロフィール
過去コラム一覧

富士通総研経済研究所 主席研究員

中国南京市生まれ
1988年1月来日
同年 愛知大学法経学部入学
1992年3月愛知大学法経学部卒業
1992年4月名古屋大学大学院経済学研究科入学
1994年3月名古屋大学大学院経済学研究科修士取得
同年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年10月 富士通総研経済研究所主任研究員
2006年7月より現職

著書
中国が普通の大国になる日」(日本実業出版社、2012年) 
チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社、2010年)
中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社、2007年)

「日中『歴史の変わり目』を展望する」(勁草書房、2013年、共著)
"Global Linkages and Economic Rebalancing in East Asia", World Scientific Publishing Company, 2012 (共著)
「中国の統治能力」(慶応義塾大学出版会、2006年、共著 ) など

掲載日:2014年4月1日

 
    

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