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にわかに浮上した「国際秩序の再編」という変数

昨年末までの低迷がうそのように年始から金価格の堅調展開が続いていた2月末、そこに更なる刺激要因として加わったのが、ウクライナ情勢という地政学的リスクとなっている。結局事態はクリミア自治共和国の分離独立宣言と住民投票を経てロシアによる併合実施という流れをたどることになった。

この事態に金価格は上昇し1,350ドルの節目を突破することになった。いわゆる「地政学的リスク」による金市場への資金流入である。地政学的リスクによる金の上昇は "滞空時間が短い(長続きしない)"というのが、経験則といえる。近年ではイラク戦争に際しての金価格の上昇が典型例だった。開戦前に金は急騰し、そして開戦時には値を消した。市場は事態の推移を見守りかつ予見しながら織り込みに掛るため、上げ足を速めたとしても材料出尽くしで急落というのが「有事の金」のパターンでもある。

この例にならえば今回のウクライナを巡る対立も、ロシアによるクリミア併合宣言を持って、まず事態は一巡ということになろう。実際に価格は、ロシアの侵攻で緊張が高まった際にニューヨークの先物価格で1,350ドルの節目を超え、1,392.6ドルと年初来高値を更新するところまで上昇した。そして併合が決まると材料出尽くしという形で反落となり1,300ドル前後の振り出しに戻ったのである。やはり今回も地政学的要因は持続しないのだろうか。

一過性の材料に終わらないウクライナの材料性

ここで大事なのは現在の金市場の方向を決めているのは、米連邦準備理事会(FRB)による金融政策の方向性であって、ウクライナ情勢はそこに相場の"変数"として登場したひとつの材料ということ。ところが今回の「地政学的リスク」は、刺激要因として一過性に終わるのかというと、そうでもなさそうなのだ。

今回のロシアの動きは、ベルリンの壁崩壊を経て組み立てられた冷戦後(ポスト・コールド・ウォー)欧州の枠組みを変えようとプーチン大統領が周到に練った策という捉え方がある。確かにユーラシア経済同盟なる構想を以前から掲げ動き出していたのは事実である。今回のロシアの動きは、ロシア復権を目的にいくつかあるオプションのひとつとして準備されたものだったのだろう。にわかに表面化した国際政治の流動化は、しばらく続くという見方ができそうだ。

現時点で6月にロシアのソチで予定されていた「G8」は日米欧が参加を拒否し同じタイミングで、ブリュッセルで(ロシア抜きの)「G7」として開かれる方向にある。おそらくロシア側も中国や新興国との関係の緊密化など何らかの対抗策を打ち出してくるだろう。つまり、単なる「有事」というよりも、国際政治のリーダーであった米国の影響力の低下の中で、新たな国際秩序の形成に向けた動きが始まったという捉え方が出来よう。こうした流れの中で、個別の民族ナショナリズムの高まりなど今後も緊張が高まる事態は大いに予想されることから、折に触れ金価格を刺激する要因となりそうだ。つまり第一段階が終了しただけで一過性ではないということである。

昨年は年間で28%もの値下がりに見舞われたNY金市場だが、年始から一転して堅調地合いを続けてきた。本稿執筆時点での直近の高値は3月17日の1,392.6ドルだが、年始から約16%の上昇となる。昨年の大きな下げに対する自律的反発が上昇の基盤にあるが、米国の金融政策の転換による投資マネーの逆流を懸念した新興国発の金融市場の波乱や米国自体の景気の減速懸念が金市場を刺激した。米国景気には寒波の影響が考えられたが、その実態は春を迎えたこれから浮上しよう。

ウクライナ情勢という地政学的リスクの登場

その金の上昇材料として加わったのが、ウクライナ情勢という地政学的リスクとなっている。親ロシア政権と親EU(欧州連合)の野党の対立激化という構図で始まったウクライナの政変は、クリミア自治共和国の分離独立宣言と住民投票によるロシア編入の意思表示を経てロシアによる同自治共和国の併合にまで至った。

ここに至る政治的緊張の高まりが金市場を刺激することになったのは、ロシアをけん制する米国側の動き(オバマ大統領による警告)がことごとくロシア側(プーチン大統領)により無視され、冷戦期のような米ロの対立の構図が巻き起こったことによる。内政外交両面でオバマ政権のレイムダック化(影響力の低下)が進んでいることもあるが、10年前から指摘されてきた米国の一極支配から多極化、さらに最近では「Gゼロ」と呼ばれるが主導権を握る超大国が存在しないという意味で「無極化」という流れを思わせるものでもある。それだけ世界は不安定化しているわけだ。そもそもクリミアというロシアにとって軍事的な要衝がからむだけに、プーチン大統領も譲る気配は見られない。仮に何らかの妥協が今後あったとしてもクリミアの実効支配は手放しはしないだろう。

イラク戦争時における金価格の反応

この事態に金価格は上昇し1,350ドルの節目を突破することになった。いわゆる「地政学的リスク」による金市場への資金流入である。地政学的リスクによる金の上昇は一般的には"滞空時間が短い(長続きしない)"というのが、経験則といえる。市場は事態の推移を見守りかつ予見しながら織り込みに掛るため、いわゆる「有事」を材料に金が上げ足を速めたとしても最終的には材料出尽くしで急落というのがパターンでもある。

一過性の材料に終わらないウクライナ(米ロの対立)の材料性

ところが今回のウクライナを巡る対立は一過性のものではなく、ベルリンの壁崩壊を経て組み立てられた冷戦後(ポスト・コールド・ウォー)欧州の枠組みを変えようというプーチンロシアの新たな取り組みといえよう。ロシアの行動に対し米欧はあくまで外交交渉を基盤にして経済制裁で臨んでいる。この先、仮に金融面でロシアにダメージを与えたとして、その"火の粉"が米欧側にもかかるのは必至だろう。それほど世界経済はグローバル化の中で一蓮托生化しているといえる。目先の焦点となっていたウクライナの住民投票実施で、一般的には、この段階でウクライナを材料にした金の上昇も第一幕の終盤ということになった。

ところが、そのタイミングに合わせるようにFRBに預けてある外国中銀の米国債が前週比1,045億3,500万ドル(約10兆7,000億円)減少するということがあった。ロシアが経済制裁を先読みし売却あるいは米国外へ持ち出したとの見方もある。実際はどうなったか不明。このところ中国も昨年末から米国債を売っているという話もあり、この辺りがどんなことになるのか。米国債の市場は大きいため、売り崩しによる金利の高騰でNY市場が混乱に陥ることは無いと見られるが、今や空爆やミサイル攻撃だけが戦争ではなくなっているのも事実である。かつての"有事"にはなかった金融市場も外交あるいは政治的駆け引きの材料ということである。いずれにしても金相場にもこのような新たな「変数」が登場する可能性がある。

そもそも今回の上昇は売りに売られた金市場の自律的反転に加え、いくつかの材料が合わさるという複合要因の中での上昇となっており、単なる地政学的要因での上昇とは異なるということである。さらにはユーラシア経済共同体構想というプーチンロシアが掲げる目的に則った行動は、中国などを刺激する形で国際情勢を不安定なものにするのは必至といえ、金融市場にも影響することになろう。新たな国際秩序を探る動きが始まっており、こうした不安定な環境は投資家の関心を金に向けさせる要素となると見られる。

亀井 幸一郎(かめい こういちろう)プロフィール
過去コラム一覧


生活設計塾クルー取締役

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト

中央大学法学部卒業。
山一証券に8年間勤務後、日本初のFP会社で投資顧問会社マネー・マネジメント・インスティチュート(MMI)入社。
1992年世界的な金の広報・調査機関ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン)入社。
企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。
2002年マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役。

「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウォッチしている。
日経CNBCテレビ「デリバティブ・ワールド」、ラジオNIKKEI「マーケット・トレンド」など数々のメディアでの市場分析のほか、住友金属鉱山サイトでは金市場を軸にした金融経済分析と市況解説を、投資情報誌ネット・マネーにて「亀井幸一郎の金市場の風」、日本証券新聞コラムなど定期寄稿中。

ブログ 『亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」』

 
掲載日:2014年4月2日

 
    

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