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ドラッカーは「見えざる革命」がおもしろい

ドラッカーといえば「マネジメント」の著者で有名です。もともと有名な存在でしたが、いわゆる「もしドラ」の効果もあって知名度は飛躍的に高まり、「マネジメント」の要約版もたくさん売れたようです。

しかし、私の個人的意見としては、ドラッカーの神髄というか社会分析の白眉は「見えざる革命」ではないかと考えています。

この「見えざる革命」、今では絶版となってしまい、古本でしか入手できないようです。機会があれば図書館などで手にとって欲しいのですが、高齢社会の到来とその社会的インパクト、年金基金が株式を保有し投資することの社会的インパクトについて1976年に指摘をした、画期的な一冊になっています。

そして、現在に生きる私たちにも参考となる一冊だと思っています。今回は「見えざる革命」のおもしろさと、そこから私たちが学べることを考えてみます。

■実はアメリカこそが社会主義国だった?

「見えざる革命」というタイトルの「革命」とは何か、というと、アメリカこそ、民衆が企業を支配下においた社会主義的な国のひとつである、という意味です。

アメリカといえば資本主義陣営の中核であり、社会主義とは相容れないように思います。冷戦時代には赤狩りを行うなど思想統制に近いこともやっているほどです。

成功者には富をもたらすアメリカンドリームがある一方で、ほんの一握りの裕福な資本家が経済を支配しているようなイメージもあります。「1%の人が99%の富を持つ」ことを批判するデモもアメリカでは盛んです。

しかし、アメリカで発展した企業年金制度~すなわち勤労者の老後の所得の充実のために行われた事前積立制度~は、勤労者の退職後の支給にのみ用いられる資金ながら巨大な資産額に達し、かつその投資対象として企業の株式を保有するに至りました。

「社会主義を労働者による生産手段の所有と定義するならば、アメリカこそ史上初の真の社会主義国である」と指摘するところから「見えざる革命」は書き始められます。年金基金の積立を通じ、民間企業の労働者は少なくともアメリカの全株式の25%を、自営業者や公務員・教職員は少なくとも全株式の10%を保有しており、合計すれば、全産業の株主資本の3分の1を労働者が有しているというのです。

これにより、アメリカの企業のほとんどは、本質的には労働者に経営権があり、労働者は賃金だけでなく、企業から配当等の資金を得る立場にあるわけで、これはまさに社会主義の成立だとドラッカーは指摘します。つまり、アメリカ最大の資本家は実は年金基金(イコール労働者のお金)であり、アメリカの企業が生み出す富はアメリカで働く普通の労働者たちの老後資金に用いられることになったというわけです。

(ちなみに、労働者に雇用と所得が保証されていても、銀行が企業を支配しているため、日本は金融社会主義であるとの皮肉もあります)。

年金基金が成熟すると、その資金運用は勤労者の利益の最大化につながらなければならないと考えるようになり、「物言う株主」になります。ガバナンスの観点からも労働者が企業を支配した影響は無視できません。

企業は本質的には株主のものといえますが、年金基金を介して労働者が企業の所有者になったというのは、ユニークな指摘です。まさに「見えざる革命」がアメリカでは起きていた、というわけです。

そして、資本家と労働者が同一化したことにより、アメリカの高齢者は諸外国と比べ豊かな年金を手にする可能性を得たことも指摘されます。これもまさに革命的であるとドラッカーは30年以上前に指摘したのです。

(同書の後半は若年層ではなく高齢者層が政治的にも経済的にも中心的役割を果たすことになる高齢社会論が述べられています。これも社会における大きな変革です)。

■現代に生きる個人投資家は何を学ぶことができるか

「見えざる革命」の要約を紹介するだけでも楽しいのですが、ここからは現代に生きる個人投資家が何を学ぶことができるか、少し考えてみます。

投資が社会を変えていくインパクトがあることは、本コラム欄に寄稿をしている他の方々も繰り返し述べていることです。資本の担い手があってはじめて、企業は新しいイノベーションに取り組む資金を手にし、またそのスピードを速めることができます。

投資家は投資先企業を選ぶことによって、社会を変えていくプロセスに参加することができます。将来を評価された企業の株価は現状の資本価値以上に高いものとなります(不正等により評価を落とした企業の株価は実際の資本価値を下回って下落することもあります)。

個人投資家は、機関投資家に比べてその声は小さいことは事実です。企業年金であれば数十億から数千億円を保有していますし、公的年金は170兆円近い資産を持ちます。個人の資産運用はとても及ばない金額です。

しかし、個人にとっても「投資家であり、ひとりの労働者である」という意識を持つことはとても重要です。働いてお金を稼ぐだけではなく、自身のお金が企業の資本となることでさらに価値を高めるチャンスがあることを意識すれば、「会社に支配されている会社員」いわゆる社畜に陥らずにすみます。

投資を通じて社会に視点が広がることで、小さな社内政治にのみ拘泥せずに仕事を見つめることができます。また、まとまったお金があれば、転職の自由も得られ企業と対等な意識で働くことも可能になります。

実は投資をすることで一番変化できるのは「自分自身の革命」なのかもしれません。

また、個人は高齢社会とそこで果たす企業年金や退職金の役割についてももっと意識を高める必要があります。あまりにも長期に及ぶ可能性がある高齢社会の現実を知るほど老後資産形成の重要性に思い当たります。

個人の老後資産形成において、企業年金や退職金が果たす役割は大きく、その資産運用状況あるいは保全状況について関心を高めることは、個人の老後資産形成をはかる上でも役立ちます。

(会社が1,000~2,000万円用意してくれるとしたら、当然自分で取り組む老後資産形成は変わってきますし、明確になってきます。しかし、その概要を知らないまま老後の不安だけ高めている人が多いのです)

また、企業年金への関心向上は、会社の年金運用に対するガバナンス強化を労働者の視点から強化することにつながります。

特に確定給付企業年金(基金型)の場合、労組が制度運営に半数参加しており、声を届けやすい体制があります。社会貢献も意識した投資を求めるESGのアプローチを要求する労働組合の活動がありますが、社員の無関心があってはこうした活動も実らないでしょう。

「見えざる革命」を意識することで個人の資産形成にもたくさんの示唆が得られるのではないでしょうか。

■自分の企業年金について調べよう

最後に自分自身が加入している年金基金について興味・関心を持つ方法を紹介したいと思います。会社員の4人に1人は確定給付企業年金に加入しており、会社はディスクロージャーペーパーを配布しています(あるいはイントラネットに情報開示する)。しかしこれを読まない人は多すぎです。

自分が企業年金制度に加入していることすら知らない人も多いようです。社内の制度案内(イントラネットあるいは福利厚生のパンフレット等)を確認してみてください。あるいは引き出しをひっくり返して「基金だより」とか「基金ニュース」のようなディスクロージャーペーパーを探してみましょう。そこにはたくさんの情報が書かれているはずです。

自分の資産がどういった形で投資され、資本家となっているかぜひ調べてみてください。知るほどに、個人の資産形成における負担が軽減されていることが理解できますし、適切な個人のポートフォリオ決定にも役立つことでしょう。

実は、投資に関する知識や行動力が不足しても効率的資産形成がはかれることが年金基金のメリットのひとつです。年金基金は専門家による投資計画の立案と運用委託が行われ、これは個人投資家よりリスクを抑え期待リターンを追求した投資戦略になります。しかし、これは無関心を許容しているわけではありません。

企業年金に関心をもつことで、個人のポートフォリオ構築にも重要なヒントが得られるはずです。

山崎 俊輔(やまさき しゅんすけ)プロフィー
過去コラム一覧


1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、消費生活アドバイザー、1級DCプランナー。

企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。
論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。近著に『お金の知恵は45歳までに身につけなさい』(青春出版社)。日経新聞電子版「20代から始める バラ色老後のデザイン術」など連載多数。
投資教育家として、twitterでも4年以上にわたり毎日「FPお金の知恵」を配信するなど、若い世代のためのマネープランに関する啓発にも取り組んでいる(@yam_syun)。

ホームページ: http://financialwisdom.jp

掲載日:2014年4月8日

 
    

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