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責任ある機関投資家の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)

消費税率が8%に引き上げられたことにともない、駆け込み需要の反動により4-6月の個人消費の落ち込みが懸念されています。政府は、そうした不安を払拭しようと5.5兆円の補正予算を組んで公共事業の執行を急ぐ一方で、6つの地域について「国家戦略特区」を指定する等、アベノミクスの成長戦略の一つをようやく放ちました。

一言で成長戦略といっても大小様々な施策が検討・実施されています。例えば、株価を上げることによって国富を増やすという面においては、2014年1月から始まったNISA(少額投資非課税制度)や、今正に議論されている公的年金の運用改革等も広い意味で成長戦略といえるでしょう。
そうした中で、「責任ある機関投資家の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」という制度が今年度より実施されようとしています。当コードは、「日本の産業競争力向上に向けた成長戦略の具体案」の一つとして、「投資先企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るために、機関投資家(個人投資家ではなく、年金基金や金融機関などの法人投資家をいい、鎌倉投信のような運用会社も含まれます)が企業との(目的を持った建設的な)対話(エンゲージメント)を行い、受託者責任を果たすための指針」を定めたもので、政府が主導し、日本の上場株式に投資する機関投資家に対して、当コードへの準拠表明と、様々な対応を求めるものです

私が社長を務める鎌倉投信では、投資先企業との対話を重視し、独自の視点で選んだ「いい会社」が「いい会社」で在り続ける限り応援し続けるという投資方針ですので、当コードの具体的基準に概ね準拠しているといえるでしょう。しかし、多くの機関投資家に共通する制度としての実効性、普遍性を持たせるためには更に深い議論を進めていく必要があるでしょう。

例えば、こうした観点についてです。

1.機関投資家である運用会社等の思想性について

機関投資家と投資先企業との間において、エンゲージメントというにふさわしい長期の信頼関係を築くには、相互に、投資先企業の経営理念や価値観と、機関投資家の投資哲学や運用方針等を深いレベルで共感、共有することが不可欠です。当制度が普遍的に実効性をもつために、機関投資家の投資哲学や運用方針が、そもそも曖昧であってはなりません。

2.当制度発足のきっかけとなった産業競争力強化との関係性

機関投資家の中には、株価や財務状況を踏まえて比較的短期間に株式の入れ替えを行ったり、売買したりする運用方法は少なくありません(これ自体が運用機関の受託者責任等に照らして不適切とはいえません)。投資先企業の株式を長期で保有する機関投資家は、むしろ少数派です。本コードに準拠しつつも、短期的な売買が認められるという制度的な矛盾をどのように調和させるか。とりわけ証券市場において株式保有期間の短期化が進む中において、(機関投資家と投資先企業の信頼関係を築く上で大前提となる)長期投資を推進するための制度についての議論が他方で必要でしょう。

3.「目的を持った対話」の「目的」について

当コードにおいて「目的を持った対話」とは、「中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るため」とされています。しかし例えば、鎌倉投信は、長期における企業の持続的発展を応援し、同時に豊かな社会の形成に貢献したいとする立場にありますが、それは必ずしも「投資先企業の企業価値及び資本効率を高め持続的成長を促し、投資リターンの拡大を図ることを目的とした対話」と同義とはいえません。多様化するリターン概念とここで規定する「目的」とをどのように調和させるかは、難しい問題と云えます。

機関投資家と企業の間における信頼に根差した「対話」は、本来、本コードでは触れられていない2つの「対話」がしっかりとなされた上で成り立つものだと考えます。一つは、機関投資家である運用会社等の社内における対話です。すなわち、投資先企業とエンゲージメントを築くにふさわしい投資哲学を明確に掲げ、それを社内に浸透させることです。そして、もう一つは、最終投資家(投資信託であればその受益者・顧客)と運用会社との間における丁寧な対話です。
「機関投資家における社内的な対話」、「最終投資家(顧客)と機関投資家との対話」、本コードで謳っている「機関投資家と投資先企業との対話」・・・この3つの対話の質が高まって初めて、スチュワードシップ・コードに魂が入るように感じます。

鎌田 恭幸(かまた やすゆき)プロフィール
過去コラム一覧


鎌倉投信株式会社 代表取締役 社長

1965年島根県生まれ。日系・外資系信託銀行を通じて25年にわたり資産運用業務に携わる。
2008年11月 鎌倉投信(株) 創業。2011年8月テレビ東京系列「ガイアの夜明け」で紹介される。

著書「日本で一番投資したい会社」(アチーブメント出版)
共著「21世紀をつくる人を幸せにする会社」(ディスカヴァー21)

 掲載日:2014年4月30日

 
    

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