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高まる景気下振れリスクと中国経済の行方

中国経済は、二けた成長は当たり前だったが、2012年に7.8%、13年に7.6%、14年1-3月に7.4%と急減速している。ちなみに、政府が掲げている経済成長率目標は7.5%であるが、14年の成長率は政府の成長率目標を下回る可能性が出てきた。グローバル経済の現状を考察すれば、7%台の成長率は決して低くはないが、中国の政府、企業と個人のいずれも二けたの高成長に慣れているため、7%成長は不景気を意味する。従来ならば、7%台の成長に減速すれば、政府国務院はすぐさま景気を刺激する財政・金融政策を実施するはずだが、李克強首相にとり切れるカードはない。

振り返れば、胡錦濤政権下でリーマンショックによる景気への影響を最小限に止めようとして09年と10年の2年間に4兆元(当時の為替レートでは約56兆円)の財政出動を実施し、景気の底上げが進められた。その結果、経済成長率は09年の9.2%から10年に10.4%に上昇した。問題は財政出動に伴う景気刺激策の効果が長続きしなかった。12年に入ってからその余韻はほとんど消滅し、7%台の成長に急減速した。逆に、その副作用が現れてきた。

4兆元の財政出動の一部は不動産市場に流れ、不動産バブルをもたらした。習近平政権になってから、景気が減速しているが、政府は景気を底上げする財政出動をしたくても、財源を確保することができない。しかも、不動産バブルは膨らんだままであり、恣意的な金融緩和を実施すれば、不動産バブルはさらに膨らむ恐れがある。

実は、4兆元の財政出動が実施されたとき、それにあわせて金融機関はさまざまな財政プロジェクトに融資を行った。その恩恵をもっとも受けたのはやはり不動産市場である。不動産投資によって塩漬けしている金融機関の融資は今もそのままになっており、景気が減速しているが、金融市場では流動性はじゃぶじゃぶの状況が続いている。中国では、与信総額を示す社会融資総額のGDP比は13年末現在200%を超えた。李克強首相にとり、景気対策としてこれ以上打つ手がないのは事実である。

議論を整理すれば、景気は確かに減速しているが、それをもたらした主な原因は胡錦濤政権下で行われた拙速な財政出動の反動によるものである。その後、政権を引き継いだ習近平政権は景気を底上げしようとするが、財政出動の財源を確保することができない。金融緩和の選択肢もあったが、それを実施すれば、不動産バブルが再燃する恐れがある。結局のところ、景気後退を容認しながら、不動産バブルのガス抜きを待つことしかない。

しかし、ポリシーメーカーとして景気の減速を看過するわけにいかない。とくに、中国の場合、景気の減速は雇用の悪化を意味するものである。雇用が悪化すれば、社会不安が深刻化する恐れがある。このロジックこそ歴代政権は景気減速時に景気刺激策を急ぐ背景である。

それに対して、李克強首相の考え方は大きく異なるものである。すなわち、7%台の成長でも十分な雇用創出が期待できるというのである。13年、李克強首相は国内の会議では「かつてⅠポイント成長では80万人程度の雇用しか創れなかったが、今は、130-150万人の雇用が創れる」と指摘した。要するに、かつて1,000万人の雇用を創るのに、最低でも8%以上の経済成長が必要だった。今、同じ1,000万人の雇用を創るには、7%程度の成長でも十分であるということである。問題は中国経済が確かに減速しているということだ。このまま景気減速を容認すれば、企業の業績が悪化し、経営破たんする企業が増える可能性が高い。李克強首相にとって重要なのは景気を底上げしながら構造転換を図ることである。

柯 隆(か りゅう)プロフィール
過去コラム一覧

富士通総研経済研究所 主席研究員

中国南京市生まれ
1988年1月来日
同年 愛知大学法経学部入学
1992年3月愛知大学法経学部卒業
1992年4月名古屋大学大学院経済学研究科入学
1994年3月名古屋大学大学院経済学研究科修士取得
同年 長銀総合研究所国際調査部研究員
1998年10月 富士通総研経済研究所主任研究員
2006年7月より現職

著書
中国が普通の大国になる日」(日本実業出版社、2012年) 
チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社、2010年)
中国の不良債権問題」(日本経済新聞出版社、2007年)

「日中『歴史の変わり目』を展望する」(勁草書房、2013年、共著)
"Global Linkages and Economic Rebalancing in East Asia", World Scientific Publishing Company, 2012 (共著)
「中国の統治能力」(慶応義塾大学出版会、2006年、共著 ) など

掲載日:2014年5月1日

 
    

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