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「認知症高齢者も安心して生きられる社会づくり」

1. JR東海の判例に対する懸念

 愛知県で2007年に認知症の男性(当時91歳)が列車にはねられ、死亡する事故があった。妻がうたたねしていた間に男性が家を出てしまったという。この事故でJR東海が列車の振り替え輸送に要した費用など約720万円の支払いを、男性の妻(91歳)と長男(63歳)に求めた裁判の控訴審で、名古屋高裁は妻に対してのみ360万円の支払いを命じた。
 この判決を聞いて不安になった人は少なくない。現在、認知症の高齢者は推計で550万人と、20年前の6倍になっており、もはや他人事ではない。認知症高齢者は不安感が強く、自分の居場所を探して徘徊することも多々ある。介護者の6割が高齢者という「老老介護」で、介護者自身もトイレや入浴、食事の準備があり、たとえ施錠やセンサー設置をしても24時間、自宅で目を離さずにいることは難しい。この判決から読めることは要介護者の最も近くで献身的に世話をする「主たる介護者」ほど、重い責任とリスクを負うことになる。

2. 寝たきりモデルから認知症モデルへの移行

 家族介護から、社会で高齢者の介護を支える「介護の社会化」をめざした公的介護保険がスタートしたのは2000年。かつて要介護高齢者イコール「寝たきり」というイメージであったが、現在、65歳以上の介護保険利用者のうち、約8割が認知症と判定されている。今後は要介護高齢者イコール「認知症」を前提とした介護モデルを作っていくべきである。
 また驚くべき数字もある。警察庁によれば60歳以上の行方不明者は20,370人(平成24年)で、そのなかで認知症を原因としたものは9,607人である。夏には脱水、冬には凍死の危険性もあり、名前や年齢もわからないまま高齢者が施設で保護されているケースもある。
 今後、認知症の「予備軍」である軽度認知障害に該当する人は約380万人、認知症の高齢者同士が住んでいる「認認介護」のケースもあり、認知症高齢者を地域でどう見守っていくか、さらに認知症高齢者を介護する家族をどう支えていくかが大きな課題である。

3. 地域の声かけや見守り強化が必要

 2012年9月に公表された「オレンジプラン」は、これまでの病院・施設を中心とした認知症ケアを在宅中心にシフトすることを目ざしたものである。高齢者が住み慣れた地域に留まり、医療や介護、見守りなどの日常生活支援サービスを包括的に提供する体制を構築する。具体的内容としては、早期診断のための医療機関の整備、看護師らによる相談体制づくり、地域での本人・家族の日常生活支援を行う認知症地域支援推進員の育成などがある。しかし、介護の専門人材が不足する中、こうした体制だけではおぼつかない。
 すでに複数の地域でスタートしている取り組みの中には、他地域ですぐにでも応用可能なものがあり、特に人間関係が希薄な都市部こそ対策を急ぐべきだ。
たとえば大牟田市(福岡県)では「高齢者等SOSネットワーク」がある。高齢者の捜索願が出されると警察は、地元郵便局や駅、タクシー会社など協力団体に連絡、その後、郵便局員、タクシー会社の従業員に情報を流して捜索協力者を増やし、民生委員を経由して学校、PTA、商店など市民レベルに広げられる。発見・誘導の際は認知症の高齢者に不安を与えないよう、目線を合わせゆっくり語りかけるといった技術が必要だが、市では年に1回「認知症の高齢者が行方不明」との想定で訓練も行っている。
 また、和泉市(大阪府)では、「和泉市認知症高齢者等SOSおかえりネットワーク」をつくった。認知症高齢者の行方不明時には協力者・協力事業者に対し、高齢者の特徴などの情報をメール配信し、できるだけたくさんの市民の協力により、早期発見・保護をしようとするものである。
 こうした高齢者の見守りやSOSネットワークづくりの前にやるべきことは認知症への正しい理解である。地域の学校や企業も巻き込んで認知症についての研修を行い、正しく理解し、見守ることで行方不明者の早期発見や予防にもつながるに違いない。

白石 真澄(しらいし ますみ)プロフィール
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関西大学教授

1987年 関西大学大学院修士課程 工学研究科 建築計画学専攻 修了
(株)西武百貨店、(株)ニッセイ基礎研究所 主任研究員を経て、2002年4月より東洋大学経済学部 社会経済システム学科教授
専門テーマは「バリアフリー」、「少子・高齢化と地域システム」


掲載日:2014年5月12日

 
    

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