株式・投資信託・ETF・退職・年金 投資に役立つ「ケイゾンマネー」

トランプ大統領の資本主義的経済政策

  • PR
  • PR
  • PR
 

ようやく2016年度の講義と期末試験が終わりました。今は来年度の講義内容を準備するため、アメリカ大統領になったドナルド・トランプの経済政策とその影響を考えています。
今回のコラムでは、トランプ大統領の主要な経済閣僚の顔ぶれから見た彼の経済政策の原則と影響を考えてみます。

■ トランプ大統領の経済政策

まず1月20日の彼の就任演説からわかるとおり、トランプ大統領の経済政策の目的は「アメリカ人(労働者・中産階級)の職の確保と所得増加」になります。
"Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to benefit American workers and American families.(貿易、税金、移民、外交に関するすべての決定は、アメリカ人労働者とアメリカ人家族の利益になるように行います)"
"We will build new roads, and highways, and bridges, and airports, and tunnels, and railways all across our wonderful nation.(アメリカ全土に新しい道路、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を整備します)"

この目的を達成するため、トランプ大統領は次のような経済政策の方針を打ち出しています。

○減税、課税額から直接控除する税額控除、国境税
○規制緩和
○海外利益の本国送還
○インフラ投資

■ トランプ政権の主要閣僚

この政策を実行するために選出された主要閣僚は次のような人々です。

・副大統領のマイク・ペンス(Mike Pence)はインディアナの州知事だった人です。このインディアナ州には世界的な製薬会社であるイーライリリーの本社があります。
・重要な財務省長官は、世界最強の投資銀行のゴールドマン・サックスに17年間勤めていたスティーブン・ムニューチン(Steven Mnuchin)が選ばれました。
・国家経済会議(NEC)委員長に指名されたのは、1990年からゴールドマン・サックスで働いていたゲーリー・コーン(Gary Cohn)です。彼は、ゴールドマン・サックスの現CEOロイド・ブランクファインの後継者とみられていた人です。
・大統領の主席戦略官兼上級顧問のスティーブ・バノン(Steve Bannon)は大学卒業後に海軍に入り、1984年から1990年までゴールドマン・サックスに勤めた後、保守系ネット・メディア会社を経営しています。
・米証券取引委員会(SEC)の委員長には、トランプ大統領の金融規制の緩和を進める役割を期待されている弁護士のジェイ・クレイトン(Jay Clayton)が指名されています。彼はアメリカ発金融危機のリーマン・ブラザーズやベア・スターンズの破綻処理案件等に関わり、最近ではアリババなどの大型新規株式公開に携わったウォール・ストリートを代表する弁護士です。ゴールドマン・サックスとも深い関係にあります。
・日本の経済産業省に相当する商務省の長官は、レバレッジド・バイアウトで大成功した投資家のウィルバー・ロス(Wilbur Ross)です。彼はトランプと長年にわたる親交があります。日本との関係では、2000年の幸福銀行(今の関西アーバン銀行)の買収に関わっており、2010年に日米の交流団体Japan Societyの会長を務めています。
・連邦規制改革担当の特別顧問(個人的なアドバイザーの役割)に大富豪のカール・アイカーン(Carl Icahn)が選ばれています。彼は「物言う大株主」として有名な投資家で、自分が所有している石油精製業の競争力を削ぐことになる環境保護局(EPA)によるバイオ燃料とガソリンに関する規制に反対している人です。
・アメリカの外交を担当する国務長官には、世界中の主要な政治家や企業家を知っていると言われる著名な経営者、エクソンモービルのCEOレックス・ティラーソン(Rex Tillerson)が指名されました。
・国務長官を支えて「アメリカ第一」の貿易政策を打ち出すのは、通商政策全般に関わる権限を持つ大統領直属の機関、米通商代表部(USTR)です。その代表には、弁護士のロバート・ライトハイザー(Robert Lighthizer)が指名されています。彼は鉄鋼業界の弁護士として保護主義的な通商政策を支持しており、中国のダンピング輸出などに対して強硬な姿勢を取る可能性があると言われています。
・新たに新設された国家通商会議(NTC)会長には、『チャイナ・ウォーズ 中国は世界に復讐する 』の著書の中で、中国を「悪の帝国」と呼ぶ経済学者、ピーター・ナバロ(Peter Navarro)が選ばれています。
・環境分野を監督する環境保護局にスコット・プリュット(Scott Pruitt)が選ばれました。彼はシェール石油・ガスの主要生産地域であるオクラホマ州の司法長官で、連邦政府の環境保護局による火力発電所の排出規制などに反対してきた人です。
・アメリカのエネルギー省長官には、アメリカのシェールガスとエネルギー関連の主要な生産地であるテキサス州の知事だったリック・ペリー(Richard Perry)氏が指名されました。彼はエナジー・トランスファー・パートナーズ社と言うシェールガスや原油を運ぶパイプライン会社の取締役も務めていた人です。

このような主要閣僚人事を図にまとめると、ロス商務省長官を軸に、ゴールドマン・サックスの経済政策の実行グループと、ティラーソン国務長官を中心にしたエネルギー・資源系のグループに分かれることがわかります。そして産業界のリーダーも彼らと緊密な関係を構築しています。
つまり従来の政治家や法律家の大統領と異なり、トランプ大統領の経済政策は資本主義を体現した閣僚や側近によって実行に移される「資本主義的経済政策」であると言えます。

トランプ大統領の主要閣僚の相関図

図:トランプ大統領の主要閣僚の相関図

■ 経済政策の影響

次にトランプ大統領の経済政策の影響を検討します。

1)減税(所得税と法人税)や租税控除は、国民の消費と企業収益を増加させ、アメリカの国内総生産(GDP)の成長率を高めます。
 次に国境税は、「北米自由貿易協定」(NAFTA)の見直しを前提に、労働賃金の安いメキシコに移転して高い利益率を確保しているアメリカ企業を国内に戻すための施策です。しかしメキシコからの安価な輸入品の代わりに高いアメリカ製品を買うことになるので、インフレ傾向になります。
またトランプ大統領はアメリカの貿易赤字を日本や中国のせいにしており、例えば安価な中国製品に高い関税をかけるような発言もしています。そうなると、輸入に頼っている多くの日用品の価格が上昇し、小売業などは大打撃を受けることになります。また多国籍企業の業績も影響を受けます。

2)規制緩和については、次のように考えることができます。
①アメリカ発金融危機を引き起こした銀行や証券会社を取り締まる「ドッド=フランク法」、ボルカー・ルール、年金投資アドバイザーの受託者責任の変更・緩和を目指しています。その結果、銀行による企業や不動産に対する貸し出しが増加して経済成長が高まります。
②アメリカの医療保険制度の改革を目指した「オバマケア」の撤廃・変更によって財政負担を減らそうとしましたが、代替法案が下院議会を通る見込みがなく失敗しました(平成29年3月25日現在)。
③証券取引委員会による企業の合併・買収(M&A)の条件緩和により、新薬承認の審査手続きの緩和やスピードアップ、企業買収が進みます。その結果、株式市場は活性化します。
④環境保護庁の環境政策を、再生可能エネルギー(太陽光など)重視からシェールガスや石炭などの化石燃料に方向転換することを進めています。その結果、新たな石油・ガスのパイプラインが建設され、シェールガスの輸出も増加することになり、OPECよりもアメリカの原油や天然ガスの供給が世界の先物価格に影響を与えるようになります。

3)海外利益の本国送還は、アメリカを代表する多国籍企業が保有する海外利益を国内に戻させる政策です。2015年末時点で海外に保有している利益は2兆4千ドル以上になります。その中で最も多いのはアップルの2000億ドル、ファイザーが1940億ドル、マイクロソフトが1080億ドル、ゼネラル・エレクトリックが1040億ドルなどです。(Citizens for Tax Justice: Fortune 500 Companies Hold a Record $2.4 Trillion Offshore
これらの利益をアメリカ本土に戻すと、法人税の支払いが7000億ドル近くなるため企業は利益を海外から戻しません。そのためトランプ大統領は、海外利益を本国に送還させるため、一時的に税率を10%とかに減税することを考えているようです。その結果、もし海外利益がアメリカに戻ると、これらの多国籍企業は海外から戻した利益を使って、従業員のボーナスや新規の雇用、自社株の買い戻しや配当金の増加、研究開発費やM&Aに使うことが予想されます。

4)インフラ投資ですが、現在、米財政赤字が約5,600億ドル、国の負債が20兆ドルの中で、これから10年ほどの期間に1兆ドルのインフラ投資は大幅なインフレを引き起こすことになります。また米雇用状況は完全雇用に近いので、急速なインフレは連邦準備制度(Federal reserve system)の金利の引き上げを加速させることになります。

以上の経済政策が実行されれば、アメリカの(名目)GDPは大幅に増加することが予想されます。しかしその結果、財政赤字の悪化とインフレの上昇、それを抑えるために金利が上昇し、為替市場ではドル高基調になります。
日本経済への影響としては、アメリカの景気加速と低金利政策の変更は日銀の金融緩和政策からの脱却を可能にし、為替も円安・ドル高になるので、アメリカとの貿易摩擦をうまく回避できれば日本の景気は良くなると思われます。



中嶋 航一(なかじま こういち)プロフィール
過去コラム一覧


現職:帝塚山大学経済学部 教授
学歴:UCLA経済学部B.A.・ Vanderbilt University大学院経済学研究科Ph.D.
専門:ITを活用した教育、アニメ経済学、「お金持ち」の経済学
『千と千尋の経済学』シリーズ
>YouTube:中嶋航一
千と千尋の経済学のblog
Twitter

 
 
    

特集

「証券アナリストの調査手法とこだわり」(全6回)

「証券アナリストの調査手法とこだわり」

証券アナリストの行動パターンをご紹介!個人投資家のリスク回避術を学ぼう。

特集を読む »

おもしろ企業探検隊

おもしろ企業探検隊

平林亮子&内田まさみの「そうだ!社長に会いに行こう」ナブテスコ株式会社

特集を読む »

K-ZONEユーザがオススメする証券会社

  1. 1位
  2. 2位
  3. 3位