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経済開発論と先物取引市場

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 大学の後期も半ばを過ぎようとしています。
 後期の講義は、貧困問題や環境破壊の課題を扱う経済開発論(開発経済学)を教えています。そこで今回のコラムでは、従来の経済開発論ではあまり検討されてこなかった発展途上国や新興国市場の経済成長と先物取引市場の関係を考えてみたいと思います。具体的には、先物取引により決定される商品価格がどのようにこれらの国々の貧困問題に影響を与えているのか見てみます。

先物取引市場では、多様な商品、金利、通貨、株価指数などの先物取引が行われています。しかし学生さんはなかなか先物取引市場の重要性を理解できないので、最初に『千と千尋の経済学:デリバティブの「化け物語」』の次の一節を使って、先物取引が私たちの日常生活に不可欠な金融活動であることを解説します。

 「私たちの生活のほとんどすべてが、先物市場のお世話になっています。例えば、みなさんが食べる朝食は、パン(麦)やご飯(米)、ハム・ソーセージ(牛や豚)、私の大好きなコーヒーなどですよね。これら食品の原材料、麦、米、家畜、コーヒー豆は全部、先物市場で価格が決まり、それを商社の人達や流通業者が食卓に届けてくれているわけです。またケーキやチョコに使われる砂糖やココアも先物の対象です。だから先物取引がうまくいかないと、ケーキやチョコの値段が乱高下するかも知れません。
 次に、私たちが身につける衣服は綿やレーヨンなどの化繊でできていますが、綿も化繊(石油製品)も、ドライクリーニング(ガソリン利用)も先物取引の対象です。スーパーでもらうナイロンの袋も石油製品ですから先物取引の対象になります。
 それから教室を暖房・冷房してくれる電気は、石炭や天然ガスを使います。金(ゴールド)も先物商品ですが、その金を採掘するのに石油がたくさん使われています。また銀の先物価格は工業用品や太陽光発電の価格に影響を与えます。それから電気を送電する電線は先物取引される銅です。
 皆さんが乗るオートバイや自動車、バスで使うガソリンも、全部、先物市場の取引で成り立っています。例えば2014年の夏のガソリンの値段はリッター160円を超えて上昇しましたが、2015年に入ると120円台まで低下しています。その理由は、・・・、原油の先物価格が1バレル(約159リットル)100ドルから40ドル台まで暴落したからです 。
 このように、私たちの生活を支えている重要な商品はすべて先物市場で活発に取引されて価格が決定されています。そして私がいつもヤフーやブルームバーグのニュース を皆さんに見せるとき、為替相場を必ずチェックします。日本経済を支える輸出や輸入に、この為替の先物市場が重要な役割を担っているからですね 。」

 先物市場の重要性を理解してもらったら、次に動画(YouTubeやテレビ番組等)を使って学生さんに貧困の実態を見てもらいます。
今年の授業では「世界がもし100人の村だったら (テレビ番組)」、「ゴミは"カネ"なり!」のビデオやYouTubeを使いました。

 空気もろくに来ない深い穴の中で穴掘りをするエチオピアのアベティ君や、フィリピンのスラム街(スモーキー・マウンテン)に住みながらゴミ拾いをするマニカちゃんの悲惨な児童労働のビデオを見た学生さんは、父親の失踪や死亡、母親の病気などにより、児童労働なしでは家計が維持できないことを理解して、次のような感想を書いてくれます。

  • ・小さい子供がお母さんと離ればなれにならないといけないとか、薬を買うお金がないなど心がいたかった。
  • ・子供でも働かなければいけない国があるのは知っていたが、命の危険を冒したりゴミ山を漁らなければいけないというのは、見ていてショックだった。
  • ・日本では、いくら貧しくても食べていくことは出来るが、本当に貧しいということは、食べることもままならないことをいうのだと感じました。
  • ・まだ小さい子供が働いている状況はひどいと感じた。学校に行きたくても行けない、働いていても貧しい状況は変わらない。可哀想だと思った。

 また、なぜ児童労働が需要されるのかと言う問いに対しても次のように的確に回答してくれます。

  • ・賃金が安く雇える。難しい仕事はさせないので代わりはいくらでもいる。
  • ・子どもは低賃金で雇え、さらに大人のように批判力、反発力を持たない。
  • ・子どもだと賃金が安い、社会に対する知識が身についていないので扱いやすい。

 また「フィリピンのマニカちゃんはどんなゴミ(お金になるゴミ)を拾っていたか?」の質問に対しては、「アルミ缶」と答えてくれます。
 しかし、最後の質問である「金山やカカオ農園、ゴミ山で子供たちの労働需要があるのは何故だと思いますか?」の回答は、ミクロ的な要因(「大人より賃金が安い」、「雇用主に従順」など)を繰り返すものが多くなります。
 その中で一人の学生さんが「金やカカオの需要が、たくさんあるから。」と正解を書いてくれました。

 つまり、児童労働が発生する理由が家計の貧困だけで決定されるのであれば、子供たちが働く場所は金山やカカオ農園、ゴミ山でなくとも構わないことになります。
 例えばフィリピンの場合、GDPや失業率などのマクロ経済データをグラフにすると、フィリピンのマニカちゃんがゴミ拾いをしていた2005-07年前後は失業率が大幅に低下するとともに、一人あたりの所得(GDP)も増加トレンドに変化した時期にあたります。そのためマニカちゃんの家族は、たまたま運が悪かっただけであり、彼女の未来はビデオで見るよりはるかに明るいものであると言えるかもしれません。

図1

 しかしマニカちゃんが拾っていた「アルミ缶」の原料であるアルミの先物価格を見ると、かなり異なる解釈が可能になります。
 アルミ先物価格のグラフから、アルミの先物価格は2004年頃から上昇トレンドに入り、マニカちゃんがゴミ山で働いていた時期の価格上昇はバブルの様相を示しています。そのためマニカちゃんがゴミ山で働くことを選んだのは偶然ではなく、アルミの先物価格の暴騰によるアルミ缶のリサイクル価値が上昇したためであると考えることができます。
 しかし彼女にとって不幸なことは、この時期のアルミの先物価格は乱高下を繰り返し、2008年のリーマンショックを契機にバブルがはじけて暴落します。そのため2009年以降ゴミ山からの彼女の収入は激減し、彼女の家計は破綻した可能性が高いと推察できます。

図2

 エチオピアのアベティ君の場合も、ゴールド(金)の先物価格のグラフを見ると、彼が金鉱労働者として働いていた理由がわかります。
 ゴールド先物価格のグラフから、アベティ君が金鉱で働いていた時期はゴールドの先物価格の上昇トレンドと重なり、2008年のリーマンショックにもかかわらず2012年前後まで一貫して上昇していきます。そのためフィリピンのマニカちゃんとは異なり、ゴールド先物価格の上昇によりアベティ君に対しては鉱山労働者として継続した労働需要が発生したことがわかります。

図3

 同じようなことが、カカオ農園で重労働に従事する子供たちを扱った「チョコレートって何?カカオ農園で働き続ける兄弟」の先物価格からも理解できます。
 カカオの先物価格のグラフから、ガーナのアペティ君とコフィ君はカカオの先物価格が上昇する時期にカカオ農園で働くようになっています。そしてカカオの先物価格はリーマンショックの影響をあまり受けずに2011年前後まで上昇しているので、彼らの労働需要もその時期まで継続したと解釈できます。

図4

 このように、従来の経済開発論ではあまり検討されてこなかった商品先物市場のデータを見ることにより、学生さんは発展途上国や新興国市場の貧困問題を「かわいそう」と感じるだけでなく、現実は世界の金融市場と密接な関係にあることを理解し、幅の広い金融リテラシーを身につけてくれるようになります。



中嶋 航一(なかじま こういち)プロフィール
過去コラム一覧


現職:帝塚山大学経済学部 教授
学歴:UCLA経済学部B.A.・ Vanderbilt University大学院経済学研究科Ph.D.
専門:ITを活用した教育、アニメ経済学、「お金持ち」の経済学
『千と千尋の経済学』シリーズ
>YouTube:中嶋航一
千と千尋の経済学のblog
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