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恐怖指数VIXとレバレッジ(借金)の恐怖

 今年に入って1月は学生さんや同僚からビットコインに関する質問が多くあったので、私の「千と千尋の経済学のblog」に「ビットコインとブロックチェーンの価値」と言うタイトルで自分の考えをまとめておきました。
 次に2月に入ると、今度はVIX(Volatility Index:ボラティリティ・インデックス)について聞かれるようになりました。その理由は、昨年度から絶好調だった米国株式市場、例えばDJI(ダウ平均株価)が、次のチャートにあるように2月に入って急に暴落したからです。

グラフ1.DJI(ダウ平均株価)の取引時間中の値動き
グラフ1.DJI(ダウ平均株価)の取引時間中の値動き

 ご覧のように今回の下落の特徴は、一日の取引時間中(ザラ場)の変動の大きさです。2月5日(月)は1日で1600ポイントも乱高下して暴落しました。そして2月6日(火)は一転して1000ポイント以上の変動後に上昇し、2月7日(水)は収まったかのように見えましたが、2月8日(木)にはまた1000ポイント以上の変動幅で下落しました。日本の株式もこのような米株の動きに合わせて乱高下しました。
 このように毎日がフラッシュクラッシュのようなボラティリティは経験したことがなく、私が利用しているオプション取引のブローカーも2月6日の取引時間中のマージン(維持証拠金)の計算をキャンセルする(ボラティリティに対応できないため)と通知が来るほどでした。

■ボラティリティの要因

 このボラティリティの要因となったのが、VIXの先物とデリバティブをショートしていたヘッジファンドや個人投資家のパニック売りだと言われています。
 VIXはシカゴオプション取引所がS&P500を原資産にしたオプションの値動き(ボラティリティ)を基に算出しています。この指数はしばしば「恐怖指数」と呼ばれていますが、株価が下落するとVIXが上昇する逆相関の関係があるからです。
 今回のように株価指数が異常に乱高下すると、VIXやレバレッジがかかっているVIXのデリバティブは原資産以上に反応します。そこでVIXのボラティリティを見るため、同期間のVIXの値動きを表にしました。2月5日から6日にかけてDJIと同じようにS&P500も乱高下したため、VIXの変動幅は過去最大になり、2月6日は高値と底値の変化率は93%に達しています。

表1.VIXの値動き
表1.VIXの値動き

 株価指数の暴落に合わせてVIXが急騰すると、VIXの先物や関連するデリバティブをショートして株式や債券を買っていたヘッジファンドや個人投資家は大きな損失を被ることになります。今話題になっているクレディスイスのETNのXIVは、一日に93%も下落して2,000億円もの市場価値が消滅して清算に追い込まれました。このXIV以外にもVIXを2倍ショートするようなデリバティブもあり、他にもUVXI、VXX、TVIX(ETN)、SVIXなどのETFやETNを使ってVIXをショートしていた投資家はパニックを起こしたと思われます。なおこれらのデリバティブについては、私のブログ「VIXショートのバブル崩壊と株式の大バーゲンセール(^^;)」にまとめておきました。

 さてブルームバーグのニュースによると、「株式市場では一時3兆ドル(約330兆円)が失われた。・・・ボラティリティ関連ファンドのレバレッジ解消で今後数日に2250億ドル相当の株売りが出ると試算」と報告されています。つまり、VIX急騰によりVIXショートのETFやETNを使っていた投資家は、結局VIXの先物を買い戻す反対売買をしなければなりません。そのため彼らがVIX先物を買い戻すとVIX価格は更に上昇してショートスクイーズ(踏み上げ)が発生し、彼らのショートポジションの損失が更に拡大するわけです。
 また各資産のボラティリティを均等化するアルゴリズムを使ってリスク管理をしているリスクパリティファンド やCTA(Commodity Trading Advisor:商品取引アドバイザー)の扱うファンドも、VIXが急騰したので機械が自動的にポートフォリオの株式を売って調整を開始します。最後に、米国の株式市場の90%前後、先物市場の約50%前後がアルゴリズム売買だと言われているので、VIXが買われ始めると一斉に他のアルゴリズムもVIX先物買い・指数売りの連鎖反応を起こすことになります。これらの動きが一時的にすごい売りのモメンタムを引き起こしたために、今回のフラッシュクラッシュのような指数の暴落が発生したと推測できます。

■資産規模を超える時価総額の消滅シミュレーション

 次に、これらヘッジファンドや個人投資家のVIXショートの資産運用の規模はあまり大きくないようですが、何故ブルームバーグのニュースにあるように、一瞬で3兆ドルもの時価総額が消滅するのでしょうか?その理由は「レバレッジ」にあります。
 授業でレバレッジを教える際、FXなどに関心を示す学生さんには、レバレッジは少ない証拠金で多額の原資産を売買する権利を買う「借金」であることを強調します。
 今回の場合も、ヘッジファンドや信用取引をする個人投資家はレバレッジを使ってVIXのデリバティブや株価指数の先物を売買するので、VIXが上昇すると、これらのファンドでは高くなりすぎたレバレッジを強制的(機械的)に解消するアルゴリズムが一斉に動き出すと考えることができます。

 具体的にこのプロセスを見るため、簡単なシミュレーションを作成しました。まず先物取引のヘッジファンドの資本金が100億円あるとします。次に投資先のデリバティブ(先物やオプションなど)のレバレッジの倍率を10倍、20倍、30倍とすると、レバレッジが10倍なら1,000億円、レバレッジ20倍なら2,000億円、30倍なら3,000億円の金融商品を買うことができます。最後にデリバティブの価格が下落した時のその影響を計算してみます。
 さて、デリバティブの価格が下げてポートフォリオの資産価値がそれぞれ、1%、3%、5%、10%減少した場合、損失後のポートフォリオの価値がいくらになるかをまとめたのが表2「レバレッジと投資総額の関係」の中の「損失後のポートフォリオ」の金額になります。

表2.「レバレッジと投資総額の関係」
表2.「レバレッジと投資総額の関係」

 ポートフォリオの価値が1%下げた場合、レバレッジ10倍のポートフォリオの価値は990億円に減少します。レバレッジ20倍は1,980億円、30倍は2,970億円です。損失の割合が10%だと、レバレッジ10倍のポートフォリオの価値は900億円、20倍は1,800億円、30倍は2,700億円になります。
 次に表3「レバレッジと資本残高の関係」は、表2「レバレッジと投資総額の関係」の表をもとに、それぞれの損失割合の場合に対してこのヘッジファンドの資本残高がいくらになるかを見たものです。

表3.「レバレッジと資本残高の関係」
表3.「レバレッジと資本残高の関係」

 この表から分かるとおり、ポートフォリオの価値が5%減ると、レバレッジが20倍のヘッジファンドの資本残高は0になってしまい倒産します。30倍では50億円のマイナスで倒産です。このヘッジファンドは倒産を避けるため、所有しているポートフォリオの一部を売却する必要があります。そのための計算として、損失後のレバレッジを計算したものが次の表4「損失後のレバレッジ」です。

表4.「損失後のレバレッジ」
表4.「損失後のレバレッジ」

 例えばレバレッジ10倍の損失の割合が1%のときのポートフォリオは990億円、そのときの資本残高は90億円なので、990億円を90億円で割ると11倍になります。この表から、初期のレバレッジの倍率を維持するために売却しなければならないポートフォリオの金額は、次の表5「初期レバレッジ維持のためのポートフォリオ売却額」のようになります。

表5.「初期レバレッジ維持のためのポートフォリオ売却額」
表5.「初期レバレッジ維持のためのポートフォリオ売却額」

 例えばレバレッジ30倍の場合、1%の損失が出たときのポートフォリオの価値は2,970億円です。そのときの資産残高は70億円なので、レバレッジが30倍とすると70億円×30倍=2100億円しかポートフォリオの価値を持つことができません。そのためレバレッジ30倍を維持するためには、2,970億円-2,100億円=870億円を売却する必要があります。
 この表からわかるとおり、わずか1%の下落であっても高いレバレッジをかけているヘッジファンドは、多額のポートフォリオの売却が必要になります。そして下落率が3%や5%になったら、ほとんどのヘッジファンドは全滅することがわかります。

 このようなレバレッジの効果とその結果を具体的に理解すると、今回のような急激なVIXの上昇がVIX先物をショートしていたヘッジファンドや個人投資家のポートフォリオの損失を急拡大させたことがわかります。その結果、マージンコール(追証)と資金償還に直面した彼らは持っている優良なポートフォリオ資産を投げ売りせざるを得ないことになります。そして彼らの投げ売りはロボットトレードのアルゴリズムによって瞬時に加速され、2月最初の株価の乱高下につながったと考えることができます。つまり恐怖指数のVIXよりレバレッジ(借金)の方が恐ろしいと言うことです。
 なおこのレバレッジの計算の解説は、「レバレッジの恐怖」と言うタイトルでYouTubeにアップしています。



中嶋 航一(なかじま こういち)プロフィール

過去コラム一覧


現職:帝塚山大学経済学部 教授
学歴:UCLA経済学部B.A.・ Vanderbilt University大学院経済学研究科Ph.D.
専門:ITを活用した教育、アニメ経済学、「お金持ち」の経済学
『千と千尋の経済学』シリーズ
>YouTube:中嶋航一
千と千尋の経済学のblog
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