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証券外務員資格とデリバティブ

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■証券外務員資格試験テキスト

 大学の使命の一つに、卒業後の学生さんの就職とキャリア支援があります。幸いなことに、日本経済は近年絶好調で、新卒の採用は売り手市場が続いています。私のゼミ生も留学生を除いて夏までに全員の内定が決まり、そのうち2人が金融証券関係の会社に進むことになりました。
 さて夏休みが終わって彼らが私の研究室に来て言うには、内定先から証券外務員資格を取るようにと参考資料が送られてきたそうです。二人とも、証券外務員資格一種のテキストにあるデリバティブの解説がよくわからないので教えて欲しいと言ってきました。彼らのテキストを見ると先物やオプションの章があり、またCDS(Credit Default Swap)やCDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)にも言及しています。
 この証券外務員資格の良いところは、この資格がないと銀行でも郵便局でも投資信託すら売ることができません。そのため非常に実用的でかつほとんどの学生さんが合格するので、たいへん効率の良い有益な資格の一つであることがわかりました。
 前のコラム「大学生の金融マインドとK-ZONE トレダビ」にも書きましたが、私の授業では日経225の先物取引やオプションを教えるのにOSE先物・オプション シミュレーターを使います。しかしほとんどの受講生は実際の投資経験がないので、なかなか先物やオプションに興味を持ってもらえません。ところが金融証券系の会社から内定をもらい、その業務に証券外務員資格が必須になると、学生さんは目の色を変えてデリバティブやオプションの勉強をするようになります。

■証券外務員資格

 そこで金融証券関係の会社に内定をもらった4回生だけでなく、2回生のゼミでも証券外務員資格のテキストを使って勉強会を開始しました。また2007年から始まったアメリカ発世界金融危機を題材にした『千と千尋の経済学:デリバティブの「化け物語」』でCDSやCDOのテーマを扱っているので、証券外務員資格のテキストを補完するものとして利用させています。
 まず2回生には、マクロ経済学で必ず学ばなければならないGDPや三面等価の原則、名目と実質の違い、景気動向指数、可処分所得や消費性向、完全失業率や有効求人倍率、国際収支や外国為替など。金融に関しては、通貨やマネーストック、物価や金利などの概念などの章を勉強させます。テキストには問題集もあるので、勉強した章に対応したクイズをやらせて自分たちの理解度を確認してもらっています。
 次に4回生には、証券外務員資格の勉強においてとても重要なデリバティブ、インターバンク市場、レポ市場やCP市場(コマーシャルペーパー)などを教えます。これら市場と市場参加者の関係を図にまとめると次のようになります。

市場と市場参加者の関係

 金融系の講義で強調されるように、レポ市場やCP市場は企業の短期資金の融資に不可欠の市場です。ただし金融の専門的な授業を受けていない学生さんは、あまりその重要性を理解できません。

■リーマン・ショックと短期資金市場

 そこで、アメリカ発世界金融危機を引き起こしたリーマン・ショックがレポ市場など短期資金市場の流動性の喪失に直面した結果であることを、『千と千尋の経済学:デリバティブの「化け物語」』を使って次のように説明しています。

① アメリカ発世界金融危機は、低所得者層向けのサブプライム・ローンの債務者の滞納率が悪化した結果、それら住宅ローンを証券化したRMBS(Residential Mortgage Backed Securities:住宅ローン債権担保証券)やそのデリバティブのCDOが債務不履行になって担保価値が暴落しただけでなく、保険として付随していたCDSをCDOに組み込んだ合成CDOの価値も暴落しました。
② リーマン・ブラザーズは、短期資金を融通するため長期債券であるRMBSやCDOなどを担保にレポ市場で借り入れを行っていました。その主な買い手はMMF(マネーマーケットファンド)でした。MMFは本来、安全な国債や大企業の社債を購入するファンドですが、ハイリターンを求めてリスクの高いCDOなどの債券に投資していました。
③ リーマン・ブラザーズが2008年9月15日に破綻すると、最初の金融危機がMMFで発生しました。例えば当時600億ドル以上の資産を運用していたリザーブ・プライマリー・ファンドというファンドは、7億5千万ドル分のリーマン・ブラザーズの債券を保有していました。リーマン・ブラザーズが破綻すると、このファンドのMMFは即時に額面割れを起こし、額面1ドル当たり97セントとなってしまいました。この3%の額面割れは、もともと絶対に安全だと思われていた銀行預金みたいなMMFにとって異例中の異例なできごとです。そのためパニックを起こした投資家からMMFの大量の解約と資金の返済要求が殺到して、レポ市場は大混乱におちいりました。大規模な銀行の取り付け騒ぎと同じことが起こったわけです。そこでその資金を返済するための現金を用意するため、MMFの運用者は「死に物狂い」でレポ市場とCP市場から融資した金額を引き揚げ始めました。
④ リーマン・ブラザーズが破綻してレポ市場から巨額の資金が引き揚げられると、次にCP市場でも大量の資金の引き揚げが始まりました。その結果、資金供給が激減してCPの発行金利が暴騰し、健全な大企業ですら短期に必要な資金を調達できなくなりました。実体経済で操業する企業に短期資金を融通するCP市場が機能不全になると、非常にまずいことになります。多くの企業はCP市場から短期間だけ資金を借りて月々の給与や夏・冬のボーナスの支給、在庫調整の支払い、年度末の資金繰りなどをおこないます。また消費者が借りる自動車ローンや教育ローンも、仲介会社のCP市場からの借り入れに依存しています。
⑤ また銀行間で短期資金を融通するインターバンク市場の銀行も疑心暗鬼によるパニックを起こしました。このインターバンク市場は中央銀行がコールレートと言う流動性を確保する金融政策の要(かなめ)の操作を行う市場ですので、この市場が不安定になると金融市場全体が機能不全におちいります。

 つまりアメリカ発世界金融危機は、サブプライム・ローンの破綻を契機に、サブプライム・ローンに寄生虫のように張り付いていたCDSやCDOなどのデリバティブの「信用リスク」が短期資金の市場で顕在化し、それが金融市場全体の「システミックリスク」に発展したものだったことがわかります。

■CDOとCDS

 さて4回生にとって非常に難しいデリバティブの概念がCDOやCDSです。
 まずCDSは1990年代末にJPモルガン銀行がかかえていた金融工学のクオンツたちによって開発された、Creditの信用リスクや貸し倒れリスクの移転を目的とした保険デリバティブです。
 次にCDOとは何か、そしてCDOがCDSやRMBSとどのような関係になっているのかを理解してもらうために、『千と千尋の経済学:デリバティブの「化け物語」』で次のようなハンバーガーのイラストを使って説明しています。
 この「巨大ハンバーガー」はシティ銀行が4499の住宅ローンを証券化して、S&Pの各付けをもらってCMLTI 2006-NC2という名前で2006年に1,000億円で売ったRMBSです。

巨大ハンバーガー

 3階建ての家の真ん中の部分に対応するお肉の部分が住宅ローンになります。
 まず、RMBS最上階のシニア(Senior)の部分は、最高級のAAAランクの牛肉(例えば松阪牛などのブランド肉)になります(全体の約78%)。この部分は更に4つにランク分けされています。
 次の中二階(Mezzanine)部分は中級のお肉で、国内産の地名のついた和牛(AA+)から安い国産牛(A)、BBBは牛肉ではなくて安い豚肉、BB段階になると食べるのがちょっと不安になる産地不明の輸入豚肉、という感じです。ここは11種類のランクがあります。
 最後に残った一階部分のEquityは「食中毒になるかもしれません」という警告表示つきのお肉です。
 それから屋根の部分がAAAやBBなどの格付けを提供した、格付会社のS&Pの保証書です。最後にハンバーガーの一番下の地面の部分が、このハンバーガーを食べて食中毒にかかって入院したときに受け取る保険のCDSになります。

 さて、このイラストのシニアのA1(約155億円)はスーパーシニアとも呼ばれ、安全を重視するマイホームを促進する公的支援機関の連邦住宅抵当公庫ファニーメイ(Fannie Mae)が購入しました。残りのシニア部分のA2-A、A2-B、A2-C(約580億円)は、JPモルガン・チェースをはじめとした、アメリカ、ドイツ、イタリア、フランス、中国の銀行、投資ファンド、個人投資家によって購入されました。つまりヨーロッパや中国の大きな銀行にアメリカの不動産リスクが分散されたと言うことです。
 次に残りの200億円弱(約21%)がメザニンの部分です。この大部分がプライム・ローンとサブプライム・ローンの間に当たるAlt-Aローンで構成されています。メザニンの中では比較的安全なAA+やAAの格付けの部分は、イタリアや中国の銀行、投資ファンドや資産運用ファンドが購入しました。金額は約83億円です。
 そして約113億円になるAA-からBBのジャンク債権は、22の寄生虫のようなデリバティブCDOの材料(約2億円から8億円前後)として販売されました。例えばイラストから、AA-からCDOが2つ組成されていることがわかります。
 この事例でよくわかるように、RMBSは住宅ローンのデリバティブで、CDOはRMBSのデリバティブと考えることができます。これらのCDOはBBBやBBのジャンク格付けから大量に作られていましたが、CDOは高い利回りを払うので多くの機関投資家が購入しました。
 最後のEquityの約13億円はシティ銀行とシティの金融子会社Capmark Financial Group(もとは金融危機で破綻したGMの金融子会社GMAC)が引き受けました。
 さてこれら4499件の住宅ローンはカリフォルニアやフロリダに集中しており、地域的に分散、独立していませんでした。またローン契約はARMsと言って、頭金がほとんどない、最初の数年は金利だけしか払わない、必要書類の不備または書類自体がないなどのインチキ契約でした。
 このようなRMBSの2006年の推定売上げは115兆円と試算されています。そのうち70%以上がサブプライム・ローンと少しましな品質のAlt-Aローンで、AAA以外の部分が約80兆円になります。上記のシティ銀行が販売したCMLTI 2006-NC2は1,000億円ですので、同じようなRMBSは115万個もばらまかれていたことになります。
 つまりアメリカ発世界金融危機が通常の不動産バブルの破裂と違う点は、世界中にばらまかれた中身がよくわからないデリバティブのCDOやCDSのバブルが破裂して引き起こされたことです。なおこのデリバティブの解説は、「RMBSとCDOの「化け物語」」と言うタイトルでYouTubeにアップしています。

 このような解説は少し難しいようですが、証券外務員資格の取得という具体的な目標がある学生さんは一生懸命聞いてくれます。資格試験の勉強を大学の授業にうまく組み合わせることができる良い事例だと思います。



中嶋 航一(なかじま こういち)プロフィール

過去コラム一覧


現職:帝塚山大学経済学部 教授
学歴:UCLA経済学部B.A.・ Vanderbilt University大学院経済学研究科Ph.D.
専門:ITを活用した教育、アニメ経済学、「お金持ち」の経済学
『千と千尋の経済学』シリーズ
>YouTube:中嶋航一
千と千尋の経済学のblog
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