株式・投資信託・ETF・退職・年金 投資に役立つ「ケイゾンマネー」

インベスターZと金融リテラシー 2

第2話「恋愛と株は一緒!?法則で攻める「株トレード必勝法」」

ストーリー:財前くんは投資部の部長席にふんぞり返って、「年なんて関係ないでしょ。重要なのはここ(頭脳)と結果」と強気です。投資部キャプテンの神代くんも財前くんの意見に賛成し、次のように言います。「日本の会社は今、時代遅れの年功序列のせいで死にかかっている。何もしない奴が高給取りだから会社が傾く。能力のある者にだけ見合った報酬を払えば良い」。次に藤田美雪さんは「俺達こんなにがんばってる「知らんがな!武勇伝」を語り出すくせに、今、大したこと生み出してないワーキング・デット(職場の負債)おじさん、多いですもんね」。続けてリン・コウメイちゃんは「説教してみたり、かと思ったらなぜか口説いたり、厄介な老害ねぇ~」。副キャプテンの渡辺隆子さんは「働いている俺を見てくれていると思っている、自意識過剰体質なのか・・・」、そして最後にITオタクの月浜蓮くんは「そもそも能力のない社員はAIに仕事を奪われていくでしょうし」。その後、財前くんは「100億なんてたいしたことない、3000万くらいさっさと取り戻して借りは返します」と言って投資をするのですが、「高値づかみや往復ビンタ」など失敗続きです。

 第2話で気になった最初のポイントは、現金を持ち歩いている財前くんの財布を見ながら、リンちゃんが「きみ、やっぱり、石器時代の人間?まだ現金使ってるの?中国では屋台でも支払いはQRコードよ」と言うシーンがあります。私も毎年のように中国に行きますので、スマートフォンのAlipayやWeChat(テンセント)のアプリを使った支払いの普及は知っています。日本でもイオンなどでAlipayが使えるようですが、中国政府の情報管理のあり方に注意を払う必要があります。
 2017年6月「全ての個人及び組織を対象に、インターネットや国家の安全を脅かす行為を禁止する」「サイバーセキュリティ法」の運用が始まっています。ご存じのように中国当局の法律の運用と目的には政治的な意図が強く、中国内で経済活動を行っている日系企業が海外にデータを持ち出す際(重要データの越境移転)に当局の審査・了承を受けることが義務づけられています。
 中国がこのような法律を持ち出す理由は、現代の資本主義のもっとも重要な要素は「データ」であり、その価値を加速させる技術が次世代の5G移動通信技術インフラと、人工知能によるビッグデータの解析技術の進歩にあるからです。中国政府はアマゾンやグーグルがやっていることを国家規模で行い、資本主義の要を確保したいわけです。と言うことで、石器時代の現金は、まだしばらく存在価値がありそうです。
 前回のコラムで、財前くんの「投資はマネーゲーム」という株式投資に対するよく耳にする批判を紹介しました。第2話では、今度は財前くんのお父さん(公立高校の数学の教師)が、インサイダー取引で逮捕された人のテレビニュースを指さしながら「時代の寵児とうたわれても、金に執着するとああなる。特に株をやっている人間は、ろくな奴はいない。実労働せずに金を欲するなんてだめだ」と株式投資の批判を繰り返します。残念ながら、このような考え方を持っている人に、株式投資の必要性や不労所得の役割をいくら説明してもわかってもらえません。

 さて今回、財前くんは「ゲーマニ株」を30億円も買ってしまいます。投資部の先輩から買いの根拠を聞かれると、「絶対に上がる。僕がそう思うから」と株投資の初心者がよく言うセリフを吐きます。ところで、現実に時価総額が小さい株式をいきなり30億円も買ったら流動性が枯渇して株価は暴騰します。そしてそのような異常値が発生すると、金融庁の証券取引等監視委員会から注目されて投資部の存在がばれてしまいます!(ドラマですのでそこらへんはご愛敬と言うことですね)。
 そして財前くんが買った株価は10.1%も上昇して3億300万円の利益が発生したので、彼曰く「ぼく、天才かも知れないですね」と言います(実は私も30年ほど前にゴールドマン・サックスのワラントで遊んでいたとき自分は天才かと思いましたが、その後、400万円近くの損失を出してかみさんにストップかけられたことを思い出しました)。
 神代くんは「株は法則でやれ。自分を信じてはいけない」と言って、ゲーマニの株価が利食い売りルールの10%を超えたのですぐ売るように指示します。それに対して財前くんは「株って企業を応援するためのものでもあるんですよね。ぼくはゲーマニにもっと頑張ってもらいたいんです」と反発します。すると神代くんは即座に「応援なんてそんなものはどうでもいいんだ。一切の感情を捨てろ」と最高のアドバイスをしてくれます。
 株式投資は「企業への応援」と言う人が意外と多いのですが、自分は金儲けをしているのではない、社会貢献のために株を買っているのだと言い訳しているように聞こえます。企業を応援したかったら、その企業の商品を買うなり高いレビューをネットで発信するなり、株式以外の方法でやるべきです。学生さんには、株式投資で金儲けすることを後ろめたく感じる必要はありませんと言っています。
 次に財前くんはマヨネーズのチューブを見ながら、「株式投資は努力している企業を先んじて見つけ出すことだ」と悟りを開きます(?)。ところが残念ながら、上場しているような企業で努力していない企業はありません。すべての企業が努力している中で将来の株価が上がるかどうかは、私の意見ですが、経営者の経営能力によると思います。この経営能力とは、時代の価値の変化と技術の進化の両方に対応して、より大きな価値や技術を生み出してそれをお金に変える能力のことと定義できます。従って、そのような資質を持たない経営者の株は買ってはいけませんと、学生さんには教えています。

 さてドラマは、財前くんの根拠なき自信と関係なく、ゲーマニ株は暴落して「塩漬けの理論」のハイライトに移ります。ここで出てくるのが、リスク回避の心理を説明する「プロスペクト理論」です。しかしこのプロスペクト理論は、経済学の理論や原理を理解できない、また理解しても実践できない人の心理を説明したもので、株式投資には役に立ちません。
 株式投資の損切りができない理由をいくら説明してくれても、損切りができるようにはなりません。そのためコンピュータのアルゴリズムのように、ルールに従って売買を行う方法が提案されるのですが、それでは株式投資はおもしろくありません。またミリセカンドで反応する、ハイ・フリークエンシー・トレーディングのロボットにも勝てません。
 実際に株式投資をして利益を出している人は、実は、喜んで損切りをしています。株式投資の上手な人は、まず財前くんのように投機的な売買(一方向に買いまたは売りのポジションを傾けること)の失敗を避けるため、分散投資(diversification)のポートフォリオを持っています。そのため、ある銘柄で損失が出ても他の銘柄で利益が出ていると、投資失敗による精神的ダメージが緩和され、損を出している銘柄を処分することができます。財前くんの場合は、ゲーマニの一銘柄しかなかったので損切りが難しいわけです。
 ドラマでは、プロスペクト理論をわかりやすくするために恋愛関係を例にしていますが、実は投資部の女性たちは第3話で、将来性のある彼氏(株)は二股・三つ股(分散投資)すべしと言っています。そのため予想を間違えたダメ彼氏(株)は即座に「切る!」、つまり損切りの対象になります。つまり、彼氏が一人しかいないと損切りできないとプロスペクト理論は言っているので、楽しく損切りするためには、たくさんの彼氏を持っていれば良いのです。また、彼氏の数を増やすにつれて経済学の限界効用逓減の法則が働きますので、運悪く3人ともダメ彼氏であっても、一番ダメな彼氏をまず損切りして次を探すことができます。
 次に分散投資よりもっと大きな損切りの動機は、税金に関係します。私のように老後のためにお金を貯めようとしている場合、退職するまで投資資金は繰り返し再投資して複利によって増やすわけです。しかしその複利の最大のマイナス要因が、投資の実現益に対する課税です。私の場合はオプション取引がメインですが、複利運用にとって確定申告で20%ほどの税金を払うとその効果が大きく減殺されます。株式でもオプションでも、売買によって利益・損失を確定した金額を「実現損益」と言います。しかし私の場合、すべての実現利益は次年度に持ち越して再投資の原資にしていますので、確定申告の数字は「見かけ上の実現損益」に過ぎません。
 そのため利益が積み上がっているときは、確定申告の年度末が近い11月くらいから損失が出ているオプションは私をとても幸せにしてくれます。またそれらオプションの損切りをしてもまだ利益が大きい場合は、更にリスクの高いオプションを購入してギャンブルを楽しみ、失敗して損失が出た銘柄は12月までにすべて損切りして「見かけ上の実現益」を減らすようにしています。このようにプロスペクト理論が前提する人にならないように、経済学の合理性の勉強をしましょう。

 さて、副キャプテン渡辺さんのお勧め企業、「社員の平均年収が日本一高い」キーエンス(6861)の株価です(2018/08/29時点、下段はOn Balance Volume)。この株は10年で約10倍になりました。長期保有できる銘柄ですね。

キーエンス(6861)の株価



中嶋 航一(なかじま こういち)プロフィール

過去コラム一覧


現職:帝塚山大学経済学部 教授
学歴:UCLA経済学部B.A.・ Vanderbilt University大学院経済学研究科Ph.D.
専門:ITを活用した教育、アニメ経済学、「お金持ち」の経済学
『千と千尋の経済学』シリーズ
>YouTube:中嶋航一
千と千尋の経済学のblog
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