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インベスターZと金融リテラシー 3

今回のトレダビはインベスターZのドラマ化を記念した大会なので、前回に続いてインベスターZの第3話の感想を書いてみます。

第3話「世界に誇る!ニッポンの「お金」美学!」

ストーリー:道塾学園の経営者、藤田繁富氏が財前くんを自宅に呼んで、彼の金融リテラシーを深めてくれるお話です。まず日本人にはあまり投資の才能がないのではないかと思う財前くんに、いろいろな視点から日本人の投資の才能が実は高いことを教えてくれます。
 例えば日本の子供たちは世界一優れた経済観念を持っていると藤田氏は言います。彼の説明をミクロ経済学的に解釈すると、子供は所得制約(お小遣いの範囲)の下、自分の効用(満足度)を最大にするために、「うまいぼう」と「まんが」をどれくらい買うか、価格を見ながら経済合理的な判断をしていると言うことになります。ミクロ経済学では、これを効用最大化と言います。
 次に経済史の視点から、大阪の堂島米会所で年貢米の先物取引が1730年に始まっていたことが紹介され、日本人の経済観念が欧米より進んでいたことが指摘されます。また日本人の貯蓄性向が高い理由は、日本政府が太平洋戦争の軍事費をまかなうために、多額の戦時債権を発行して国民の貯蓄を吸収したからだと言います。この経済事象をマクロ経済学では、政府の資金需要が増加すると金利が上昇して民間投資が抑制される「クラウディングアウト」効果と言います。
 更に藤田氏は、戦後も戦時中の価値観と経済・金融体制を利用して、日本政府は国民の貯蓄を吸収して戦後復興のための公共事業に投下したと説明を続けます。そのため日本人は長い間、政府の経済判断に従って投資から貯蓄の習慣を身につけて投資を忘れてしまったと言います。そして財前くんには、「君たち若者はまだ間にあう。国に判断を委ねてはだめだ、自立した個人として生きるのだ」と語りかけます。

 さて、子供が毎日、効用最大化によるお金の使い方を身につけることは経済学者にとって喜ばしいことですが、日本の親御さんは子供に「寄付」をあまりさせないのが気になります。我が家では、私も妻も寄付(足長おじさん、国境なき医師団など)するだけでなく、子供たちにも小さいときから現在に至るまで寄付をさせています。お金持ちの研究をすればすぐわかりますが、本当のお金持ちは貧しいときから寄付をしています。お金を寄付することで、お金を世のため人のために働かせることの喜びと意義を大事にするからです。

 次に藤田氏が語る日本人の投資に対する資質ですが、これは少し美化しすぎだと思われます。日本の経済史を学ぶとわかりますが、江戸時代から明治に入ると、日本人は「拝金主義と投機万歳」の価値観におおわれるようになります。多くの人は目先の利益を得るために過剰なリスクを取ったり、インチキな商売をやったりします。また高等教育を受けた学歴エリートであっても、金のためならなんでもするような人たちもたくさんいたようです。

 城山三郎は『鼠 鈴木商店焼打ち事件』(文藝春秋、1988年)の中で、大正7年の米騒動で焼き打ちにあった「幻の総合商社」と言われる鈴木商店を題材に、当時の商売がどのように行われていたかについて書いています。この鈴木商店には神戸高商のエリート卒業生が多く入社しており、その中で、神戸高商入学から卒業まで首席で通した、財前くんみたいな秀才Yは、『鼠』の中で次のように描写されています(235-236頁)。

 Yは「校長から抜群の推薦状付きで入社。他の同期入社の者の倍額の初任給を与えられた。Yには秀才を鼻にかける傲慢なところがあり、同級生からは総スカンをくった。・・・頭の回転の早いYは、やがて鈴木商店という枠がもどかしくなり、飛び出て鉄材商を開き、大戦景気に乗って、同期の誰よりも早く百万円という財産をつくったが、また誰よりも早く破産、自殺した。」
 次に同じ神戸高商のエリートTという従業員については、「ジャバ支店長当時、前述した高畑の買思惑によるロンドンへの砂糖輸出の波に乗った。T自身も思惑に手を出し、もうかれば自分のポケットに。その結果、当時の金で二十万円(今の金にすれば五百倍として一億円)の私財をつくった。その金で、神戸の裏山に数十万坪という土地を買った。」

 また、鈴木商店の不誠実でルール違反のエピソードを読むと、多くの企業家やエリート従業員たちは、むき出しの拝金主義と投機的行動によって動いていたことがわかります。当時ではエリートしか得られない高等教育を受けていても、正しいお金の教育を受けないと、金のためならなんでもする人間になってしまうと言う事例だと思います。

 さて、藤田氏の孫娘の美雪さんは会社四季報の大ファンで、ドラマでも2.26事件が起きた1936年の6月に創刊された会社四季報が出てきます。私は学生さんには、企業の財務諸表のセグメントの決算情報に注目するよう言っています。セグメント別の売上や利益率の動向を見ると日本企業のマクロ的なビジネス戦略が明らかになり、学生さんは世界経済の動向を学ぶことができます。例えば、最近の好業績企業に特徴的だったのは、ユーロ高・円安と、好調なドイツ経済の下請的な東ヨーロッパ諸国に輸出拡大していたことです。
 次に、会社四季報の創刊号に掲載されていたベンチャーのような企業が、現代の大企業に成長したことが神代くんによって解説されます。そこで、ニッセイ基礎研究所のレポートの日本の時価総額ランキングを見ると、2008年のトップ10社は、トヨタ、三菱UFJ、NTT、NTTドコモ、任天堂、三井住友、キャノン、ホンダ、みずほ、パナソニックで、2018年はトヨタ、NTT、NTTドコモ、ソフトバンク、三菱UFJ、KDDI、ソニー、キーエンス、JT、三井住友の順番です。
 その一方、2008年の世界の時価総額ランキングの上位10社は、米国のエクソンモービル(1位)、ゼネラル・エレクトリック(3位)、マイクロソフト(7位)、ウォルマート(8位)などでしたが、2018年になるとアップル(1位)、アマゾン(2位)、グーグル(3位)、マイクロソフト(4位)、フェイスブック(5位)、バークシャーハサウェイ(6位)、JPモルガン(9位)、ジョンソン&ジョンソン(10位)と大きく変化しています。第7位と8位は中国企業のアリババとテンセントです。
 つまりベンチャー企業の台頭による経済の新陳代謝が起こっているアメリカと異なり、日本ではベンチャー企業が育っていないことがわかります。
 そこで、2018年の時価総額ランキング2位のアマゾンの過去10年間の株価グラフ(下段はOn Balance Volume)を見ると、アマゾンの株価は10年間で約60倍、35ドルから約2000ドル(9月20日)まで上昇しています。現在のアマゾンは、アップルに続いて1兆ドルの時価総額企業です。

アマゾンの株価

 アマゾンはオンラインの本屋さんとして始まりましたが、その経営は決して順風満帆なものではありませんでした。インターネットの特性を信じたジェフ・ベゾスは、利益率を犠牲にして売上を最大にするためIT投資を拡大し続けました。従来の企業評価では理解不能なベゾスの、この経営戦略はウォール街から容赦のない大バッシングを浴びせられてきました。しかし、今はアマゾンが新たな市場に参入すると言う噂だけで、ターゲットになった業界の時価総額が何千億円も吹き飛んでしまうほどの影響力を持つようになりました。
 つまり、経営者の信念と実行力がベンチャー企業の本質であり、道塾学園の藤田氏の言う「有望な企業に投資するのが、国が発展するのだ」を実現するためには、「有望な経営者を育てる」ことが最重要課題であることがわかります。



中嶋 航一(なかじま こういち)プロフィール

過去コラム一覧


現職:帝塚山大学経済学部 教授
学歴:UCLA経済学部B.A.・ Vanderbilt University大学院経済学研究科Ph.D.
専門:ITを活用した教育、アニメ経済学、「お金持ち」の経済学
『千と千尋の経済学』シリーズ
>YouTube:中嶋航一
千と千尋の経済学のblog
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