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加藤出氏 世界金融緩和の行方 - インタビュー - FX・CFD

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FX・CFD [インタビュー]

【第14回】加藤出氏

 世界金融緩和の行方

米国は2014年末までゼロ金利政策維持を公表。欧州では債務危機を乗り越えるため2度にわたる3年物資金供給オペを実施。加えて日本も、1%を目途としたインフレ目標を設定し、それを達成するまで金融緩和を継続する方針を固めました。日米欧という先進国が金融緩和を行うなか、金融市場に溢れた資金はどこに向かうのでしょうか。今後のグローバルマネーの行方を、東短リサーチ・チーフエコノミストの加藤出氏に伺いました。


米国の経済指標が徐々に改善しています。米国景気は回復基調に向かっているのでしょうか。


東短リサーチ・チーフエコノミスト
加藤出氏

加藤氏:

確かに、いくつかの経済指標を見ていくと、米国の景気は徐々に回復へと向かっている気配は感じられます。1月のFOMC:Federal Open Market Committee(連邦公開市場委員会)の議事要旨を読むと、今年中に追加で金融を緩和すべきという意見を持っている委員は、ごく一部でした。そのため、そこにQE III (量的金融緩和第3弾)を織り込ませるムードは、ほとんど読み取れません。

ただ、懸念材料もあります。多くの経済指標は回復しているのですが、雇用情勢の改善の勢いが弱いということです。確かに失業率は、ピーク時に比べると改善しつつありますが、それでもまだ水準的には高いところにあります。あるいは、職についているものの、以前よりも大幅に給料の水準が低下した人も多く、なかなか個人消費が盛り上がらない環境にあります。個人消費が盛り上がらないと、特に米国のようにGDPの7割を占める国では、景気回復の足取りが弱くなります。つまり、今の米国経済は、確かに回復の途上にありますが、その足腰は非常に弱い。

したがって、外部からショックを受けると、再び落ち込む恐れがあります。具体的には、欧州債務問題が今以上に深刻化する、あるいは原油価格が高騰するといった材料が出てくると、今の景気回復が腰砕けになる恐れがあります。

QE IIIが実施される可能性は?

加藤氏:

仮に欧州債務問題が今以上に深刻化したり、原油価格が高騰したりして、景気が落ち込みそうになったら、MBS:Mortgage Backed Security(モーゲージ証券)の買取などによって、モーゲージ金利の上昇を押さえ込む政策を行う可能性はあるでしょう。4月から、米国ではモーゲージの保証料が引き上げられるため、住宅ローンの実質コストがやや上昇します。それが住宅需要に悪影響を及ぼさないか、FRBは気にしているでしょう。

現在、オペレーション・ツイストといって、短期の国債を売却する一方で長期の国債を買い付け、長期金利を押し下げる効果を狙うオペレーションが行われていますが、これが行われるのは6月末まで。7月以降、どのように対応するのかという点については、何も決まっていません。昨年も、一昨年も、春頃までは米国経済には明るいムードがありましたが、その後息切れしました。今年は11月に大統領選挙があります。夏から秋にかけての景気はオバマ大統領の再選にとって非常に大きな影響を与えます。もし米国景気の先行きを脅かすような悪材料が出てきた場合には、FRBは追加の金融緩和を行うでしょう。

そもそもQE(量的金融緩和)いう名称はマスコミによって付けられたものであり、FRBがこの名称を用いていたわけではありません。実はバーナンキ議長らは準備預金を増大させても景気刺激効果はほとんどないと考えており、2月の議会証言でそれを認める発言を行っています。したがって、MBSなどの大規模買取策を、FRBがQE IIIと呼ぶことはないでしょう。QEが実体経済に及ぼす影響ですが、正直なところアナウンスメント効果に依存する部分が大きいと言えます。

FRB(米国連邦準備制度理事会)によって供給された資金が、金融機関を通じて貸付や証券投資に回されていれば、景気を浮揚させる効果もありますが、現代の銀行経営は、自己資本比率、レバレッジ・レシオ、ROAなどに縛られています。準備預金が増えたからといって投資行動を積極化させることはできません。また、預金保険制度に加盟している米国の銀行は、準備預金が増えると預金保険料を多く支払わなければならないため、準備預金が増えるのを嫌がります。このため、いわゆるQE IIで市場に供給された6,000億ドルの多くは、特に使われもせず、FRBに設けられている外国金融機関の口座に単に滞留しています。QE II実施中に株価やコモディティ価格が上昇したのは、FRBが供給した資金が実際にそれらの市場に流れたのではなく、「インフレが来るかもしれない」と思わせたアナウンスメント効果によって、投資資金が米国債市場などからそれらの市場に流れ込んだことが主因です。

FRBが宣言しているように、米国は2014年末まで金融緩和を継続するのでしょうか。

加藤氏:

バーナンキFRB議長が言っている「2014年末」というのは、実にトリッキーな意味合いを含んでいます。

まず2014年末まで、異例の低金利を継続すると言っていますが、ゼロ金利にするとは言っていません。同年末のFOMCメンバーによるフェデラルファンド金利予想を集計すると、平均で1.12%です。加えて、2014年末まで異例の低金利を継続することについては、それを約束とは言っておらず、あくまでも今年1月時点のFRB幹部による予想です。

ということは、経済情勢が変われば利上げに転じる可能性もあるということです。もちろん、バーナンキ議長はハト派であり、雇用改善を重視しているので、そう簡単に利上げを行うとは思えませんが、いずれにしてもバーナンキ議長の任期は2014年1月までですし、そこで辞めたがっているという話もありますから、2014年末まで絶対に今の低金利が継続されるという保証はありません。


出所:FRBより

ユーロ経済圏も当面、金融緩和を継続する?

加藤氏:

ギリシャについては第二次支援がまとまったことによって、危機的状況は一応、回避されたと見ています。ただ、潜在的な問題はまだ何も解決していません。ギリシャ以外にも、財政的に厳しい国はありますから、そういった国の問題が、何かの拍子に突然、浮上してくるリスクはあります。ただ、昨年の状況に比べれば、少しずつ対策がとられてきていると見て良いでしょう。

この春、フランスでは大統領選挙が行われる予定です。もともとサルコジは人気がないため、対抗馬の社会党のオーランドの方が有利と言われてきました。しかし、行政経験がないことや、彼が主張している富裕層への高率の増税案を不安視する声が聞かれ始めており、ディベートで失言すれば情勢は分からなくなります。どちらが政権をとるにしても、全体的に、フランスのエリート層はユーロ支持で揺らいでいません。ただ、富裕層が嫌いな社会主義者であるオーランドが大統領になると、メルケル独首相と波長が合わず、ユーロ支持議論においてギクシャク感が出てくる恐れはあります。

また南欧諸国も昨年に比べれば一歩前進しています。ギリシャに次いで財政破綻が懸念されていたポルトガルやイタリアは、これから財政再建に取り組んでいく姿勢を明確にしています。それらの国々も長期的な成長戦略を描きにくいという問題はあるのですが、例えばドイツ人ですら、「ポルトガル人は財政再建の痛みに耐えている」と評価しています。ECBは3年物資金供給オペと担保基準の大幅緩和によって大量の資金供給を行っており、銀行の資金繰りを支えています。結果、欧州の銀行が資金繰りで突然死に至ることは、ほぼ無くなりました。

ただ、二度にわたる3年物資金供給オペでジャブジャブになった資金を、どうやって吸収するかという問題が残ります。もし、資金繰りが楽になった欧州の銀行が、リスクを取りやすい状況になると、ミニバブルが発生する恐れがあります。したがって、大量の資金供給後の出口戦略をどうするのか、という非常に難しい問題が残ります。利上げに転じるには、まだかなりの時間を必要とするでしょう。


出所:ECBより

日本の超低金利も当分、続くと見て良いのでしょうか。

加藤氏:

当面、金融緩和を継続するでしょう。日銀は2月に、政治サイドからの強い要望に従って、「物価安定の理解」の名称を「物価安定の目途」に変更し、同時に、デフレ脱却への意志を示すために、景気にとってのダウンサイド・リスクが顕在化していないときでも、追加の金融緩和を打ち続けるスタンスを明らかにしました。現状、消費者物価指数の上昇率は、ほぼ0%前後という状況ですので、1%の目途を達成するまでには、しばらく時間がかかるでしょう。また、1%が達成できそうになったら、日銀は次の目途を2%近くに引き上げる可能性が高い。したがって、日銀のゼロ金利政策は当面続くと考えられます。

日銀は2月に国債の買入れ目標を10兆円増やしました。それは、日本の貿易収支や経常収支の黒字縮小、あるいは赤字化を見て、円を売るタイミングを狙っていた海外投資家の背中を押す効果がありました。3月の日銀は、成長基盤強化策の拡充は行ったものの、国債の買入目標は増やしませんでした。株式市場や外為市場では、それに物足りなさを感じ、「日銀は本当に変わったのか?」との疑念を抱いた人もいたようです。

日銀には変わった点と、変わらない点があると考えられます。変わった点は、前述のように、景気が悪化しないときでも追加緩和を行う頻度を高めたと思われます。しかし、変わらない点、変えられない点があります。それは国債市場の安定への配慮です。もし日銀が3月も連続して国債の買入れ目標を引き上げていたら、海外の多くのヘッジファンドは、「日銀は財政赤字のマネタイゼーション(貨幣化)を開始した」と受け止めて、外為市場での円売りと同時に、日本国債に大規模に売り仕掛けたでしょう。

日本の金融政策にとって最大の悩ましい問題は、インフレ率を押し上げることを強く期待されつつも、国債価格を急落させることは避けなければならない、という点です。非常に狭い困難なパスを通って、日銀はそれを実現させなければならない。実体経済が改善する前に長期金利が急上昇すると、日本政の巨額の累積債務に対する利払い費が、どんどん増えてしまいます。そうなると、財政は窮地に追い込まれます。それに加え、銀行も大量の国債を保有していますから、長期金利が上昇すると、保有国債の債券価格が下落し、銀行は多額の含み損を抱えることになります。これが金融システム危機につながる恐れもあります。

デフレから脱却できるきっかけになる追加金融緩和ですが、今の日本の財政状況、金融システムの状況を考えると、長期金利の水準を跳ね上げさせるインフレ予想の急激な上昇を招く金融緩和を日銀は行わないと見ています。「物価安定の目途」を最初から2%と言わないのは、それによって国債が暴落するリスクを日銀が強く懸念しているからでしょう。

しかし、日銀がこれまで長期金利の上昇を押さえ込んできたことは、結果として、財政再建の必要性を国民に意識させない要因になってしまったという弊害も生んでいます。

なお、インフレを起こしさえすれば国民がハッピーになるということはありません。その点では金融政策には限界があります。イギリスでは過去10年で食料価格が40数%も上昇し、中低所得層は生活苦に直面しています。世界的に穀物や食肉が大幅に上昇してきたのに、日本の食料はわずか数%の上昇で済んできたのは、円高のお陰でもあります。

日本経済の潜在成長率を高め、かつ人々の実質賃金が増えるように成長戦略を描いていくことが何よりも大事です。金融政策で無理やりにインフレを高めるのではなく、人々の購買力を高めつつ、結果的に物価が緩やかに上昇する、という状況を生み出す必要があります。

金融緩和によって、金融市場に溢れたマネーは、これからどこに向かうのでしょうか。

加藤氏:

金融緩和が行われても、現状においてそのお金は中央銀行に設けられている民間金融機関の口座に眠っています。貸出などを通じて、市中に出回るような状態にはなっていません。

ただ、個々の金融機関がリスクを取れるような状況になった時、中央銀行の口座に眠っているお金が外に出てきます。雇用回復と個人消費改善が確かなものになれば、金融機関も積極的にリスクを取ってくるでしょう。そうなった時に考えられるのが、ミニバブルの勃発です。外に出てきた資金を上手に吸収できないと、ミニバブルが生じ、原油などの資源や、新興国の株式市場に資金が流れ込み、こうしたマーケットの価格を押し上げる恐れがあります。


Fanet MoneyLife(掲載日:2012年03月29日)


加藤 出(かとう いずる)

経歴

東短リサーチ取締役チーフエコノミスト。1988年4月東京短資(株)入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。2002年2月より現職。マネーマーケットの現場の視点から各国の金融政策を分析している。2002年にニューヨークの大和総研アメリカ、ライトソンICAP(Fedウォッチ・シンクタンク)、2010年にロンドンのICAP欧州調査部、2011年に東京短資上海事務所に駐在。2007~2008年度、東京理科大学経営学部非常勤講師。2009年度中央大学商学部兼任講師。
著書に「日銀は死んだのか?」(日本経済新聞社、2001年)、「東京マネーマーケット」(有斐閣、共著、2002年、2009年)、「メジャーリーグとだだちゃ豆で読み解く金融市場」(ダイヤモンド社、2004年)、「バーナンキのFRB」(ダイヤモンド社、共著、2006年)、「アメリカ覇権という信仰」(藤原書店、共著、2009年)。主な連載に、週刊ダイヤモンド「金融市場異論百出」、朝日新聞「ビジネス書評」、週刊東洋経済「マクロウォッチ」、日経ヴェリタス「異見達見」など。テレビ東京「モーニング・サテライト」などでコメンテーターも行っている。

 
   
    

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