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HSBC投信 松田 宇充 代表取締役社長 「ポストBRICsもBRICs」――新興国投資というニッチ分野で主導権 - トップインタビュー(第8回) - 投資信託

 

投資信託 [ トップインタビュー ]

【第8回】HSBC投信 代表取締役社長 松田宇充氏「ポストBRICsもBRICs」――新興国投資というニッチ分野で主導権

HSBC投信の社長に就いたのが2003年9月。当時、200億円弱だった投信の純資産残高は直近で5000億円近くにまで増えた。新興国に関するHSBCグループの情報収集力を武器に、新興国投資というニッチな分野で他社に負けない地位を築く。そんな戦略が奏功しているようだ。「BRICsの次もBRICs。BRICsの成長力は想像以上に強い」。松田社長に新興国投資にかける思いを語ってもらった。

就任当時のHSBC投信の印象から

松田氏:

従業員は忙しく仕事をしていましたが、なかなか結果に結びついていませんでした。HSBCグループは400から500本のファンドを擁していたので、機関投資家がスクリーニングするとかなりの数のファンドが成績上位に入ってきます。RFP(提案依頼書:Request For Proposal)のスクリーニングをパスし、最終候補になったものの、結局は取引基盤のある他の運用会社に決まってしまうことの繰り返しという状況でした。


そうした中で、リテール用の5本のファンドの中に素晴らしいファンドがあるのを見つけました。「HSBC チャイナオープン」です。当時で13年間の運用実績があるルクセンブルグ籍のミラーファンドで、このファンドはベンチマークに対し12勝1敗。その1敗は2000年のITバブル相場の時期で、ITバブルを鋭く感じ取ったファンドマネジャーがIT銘柄を外し、キャッシュポジションを大きく上げた結果、バブルの余韻で相場が上昇していたしばらくの間、ベンチマークに負けたというものでした。翌年、このファンドがITバブル崩壊の影響を最低限に抑えたのはいうまでもありません。この様に投資スタンスのしっかりしたファンドを売らなければ、我々は何を売るのか、と、この中国株ファンドをお客さまに紹介することになりました。

それに中国株ブームが追い風になった

松田氏:

その通りです。当時、日本株運用チーム(8人)を含めて24人の従業員がいました。その後、日本株の運用からは撤退しましたから、今のビジネスとの比較では実質16人程度でした。現在は約40人で、預かり資産残高は5000億円程度ですから、かなり効率がいいと思います。就任直後、現状の把握のために約4週間ほぼ全員にヒアリングをしました。そこで得た戦略が「Dominant(ドミナント)in(イン)niche(ニッチ)」。HSBCにとってのニッチマーケットは新興国投資でした。運用能力が優れているだけでなく、新興国についての情報収集力で、組織の力を生かすことができます。どこよりも正確で早いという優位な立場を築くことが可能と考えました。

新興国にこだわる理由は優位性だけでしょうか

松田氏:

世界のマーケットを見たとき、日本国内で持続的なリターンを上げるのはかなり難しいのではないかと思います。株式投資は「成長を買うもの」との原点に立てば、新興国、特にBRICsが中心となるのではないでしょうか。市場の効率化が進み、アクティブ運用で超過リターンを実現するのが統計的に難しいとされている米国株、日本株への投資をHSBCグループは2年前にやめ、リソースを得意分野に集中させました。新興国の株式・債券、両方のケーパビリティ(能力)を持っていますが、まずは株式。もっとも、リスクとリターンの観点から株式の方がより魅力的だっただけで、債券ファンドを提供しないということではありません。

最近設定されたファンドについて

松田氏:

私の頭の中に、個人の投資という観点からは外せない領域が2つあります。1つはすでにお話した新興国への投資です。もう1つは資源エネルギーです。世界の人口は現在の65億人が2050年には90億人になると言われています。そうなると食料やエネルギーは確実に足りなくなります。そこで食糧や資源の生産力を維持するために、相当な設備投資が必要になるでしょう。世界エネルギー機構(IEA)のレポートは今後20~30年間の間に約2400兆円の設備投資が必要になるとしています。その規模はどの業界よりも格段に大きく、このような状況でエネルギー関連に投資機会がないということは考えられません。最近、「HSBC 世界資源エネルギー オープン」を出した意味はそこにあります。

BRICsの今後についてはどうお考えでしょうか

松田氏:

みなさんが想像している以上に経済は強いし、大きい。新興国の成長は一過性か長期的なものかという議論では、かなり長期的なものと判断しています。BRICs諸国のバランスシート、財政状況は昔と大きく違っている。中国、ロシアは外貨準備の保有高で日本を挟んで世界第1位と第3位です。ブラジルも外貨準備の方が公的債務より大きいネット債権国になってきている。一方で、株価水準は低く、BRICs4カ国は世界の成長の4分の1以上を占めているにもかかわらず、世界の株式市場の時価総額では5%にすぎません。この点は株式市場が時間をかけて拡大し自ら収斂していくでしょう。ただ株式の成長速度に跛行性があることは覚悟する必要があります。反面、長い目で見たときの成長力は信じられないくらい大きいとみています。

ポストBRICsもささやかれていますね

松田氏:

個人的には感心しませんね。世界の経済成長の動向をみると、まず日本が成長し、その後、韓国やシンガポールなどアジアNIESが出て、そしてアセアン諸国に繋がっていますね。テーマとしてとらえられるような経済圏のグループは20から30年の間に1つ、2つしか出てきていません。経済サイクルは1年ごとの日替わりメニューではなく、20年、30年のスパンで見なくてはいけないと思います。

ポストBRICsはBRICsということですね

松田氏:

そうです。リスクを大きく取ることのできるプロの投資家はネクスト・イレブンでもよいのですが、個人の投資家には、これからもBRICsです。ただし、BRICsの中のどの国が世界の株式相場を引っ張るかは年々変わってきます。「HSBC BRICsオープン」が主要投資対象とするルクセンブルグ籍のファンドは4カ国に25%ずつ投資をするのを基本としますが、オーバーバリューと判断すればその国には投資せず、極端な場合、2カ国に50%ずつの投資も可能です。4カ国に投資するファンドの意味は、このような運用の弾力性にあります。

運用ファンドの中には基準価額が2万円台、3万円台の水準のものがあります

松田氏:

ファンドの分割で1万円台にすることも検討したことがありました。私どもが対応可能でも、販売会社さんの方でシステム対応が難しいことがあり、販社の数も現在のように90社近くになると各社各様になってしまいます。したがって、分割による基準価額の調整は実現性が薄いと思います。例えば中国株ファンドの3カ月分配型を出していますが、これは半期に一度、1万円を超える分について分配金を出していこうというもので、常に1万円に近いところで買えることを意識したものです。本当は、ある程度の基準価額を保っていることは、運用成績が積み上げられたという判断材料になるのですが...。一層のこと、発想を転換して、中国、インド、BRICsなどのファンドで基準価格10万円を目指すのも悪くないし、また実現可能だと思っています。

今後の投資信託マーケットについて

松田氏:

我々としては、良き商品の提供につきます。これを積み重ねることで信頼を増し、資金が預金から投信の方に流れていくと思います。実際、新興国投信の残高は4兆5000億円程度で公募投信の7%にすぎません。個人金融資産の1540兆円からすれば、1%にも届きません。理想的なのは国民全員が自らの年齢、資産状況、収支状況に応じて、金融資産の5%~30%の割合で新興国への投資を長期的な観点から行うことですが、このような投資を行っている人たちは、まだまだ少ないと思います。逆に、問題なのは、新興国の魅力を熟知している一部の投資家の間には、保有している投信の大半を新興国投資に振り向けている場合もあると聞いています。ごく一部の投資家が必要以上に大きなポジションを持っている可能性があり、これはリスク分散の観点からは好ましくありません。新興国の投資信託を投資家のみなさんが薄く広く保有していただけるように啓蒙活動を行っていくことが大切だと思います。

個人投資家へのアドバイスを

松田氏:

日本の財政事情の悪さが、日本の投資家の海外投資の背景にあると思います。財政問題を解決する手段としては、今のところインフレしかない。したがってインフレに強い国内の不動産や、円安メリットを受ける海外証券への投資がいいのではないでしょうか。預金、国債などのローリスクは実質ネガティブリターンでしかないと思っています。

率直なご意見ありがとうございました


インタビュー:2007年4月 聞き手:QBR 小林 新(掲載日:2007年5月14日)


後記

名前の「宇充」は「しょうへい」と呼ぶ。戸籍上の漢字は庄平だが、香港時代に風水の先生に姓名判断で付けてもらった。以来、その名の威力なのか、行く先々でビジネスが実を結ぶという松田社長。「ポストBRICsは?」と問うと「BRICs」と即答されたが、銀行業、証券業、信託銀行、保険会社などで新興国に根を下ろすHSBCの情報収集力と判断力がそう確信させるのだろう。今後、ボラティリティ(60%上昇したら翌年20%下落するなど)が高くなることを当然予想しながら、BRICsは大きく変貌したと説く。変化の時代、とりわけ下落局面での同社の情報提供力が投資家の信頼につながる。
プロフィール
松田 宇充(まつだ しょうへい)氏
出身地:兵庫県

経歴

1954年 兵庫県に生まれる
1977年 一橋大学商学部卒業
1977年 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行
1989年 東銀リース香港現地法人社長に就任
1992年 香港リース協会会長を兼務
1992年 香港上海銀行本店、日系法人部長
1999年 同行大阪支店長を経て在日本部、事業法人本部長
2003年9月 HSBCアセット・マネジメント株式会社(現HSBC投信株式会社)代表取締役社長
CFA協会認定(米国)証券アナリスト(CFA)、英国サレー大学MBA、米国ニューポート大学MBA

   
    

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