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【第41回】 フィデリティ退職・投資教育研究所 所長 野尻 哲史 氏 - 退職者への資産運用アドバイスはデータの裏付けがポイント - 投資信託

 

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【第41回】

フィデリティ退職・投資教育研究所 所長 野尻哲史氏

退職者への資産運用アドバイスはデータの裏付けがポイント

フィデリティ投信のフィデリティ退職・投資教育研究所が設立されて今年で6年目を迎える。同研究所所長である野尻 哲史氏に退職者の資産運用を中心に資産運用マーケットの現在(いま)とこれからについて伺った。

フィデリティ退職・投資教育研究所の設立経緯からお聞かせ下さい。

野尻氏:

設立は2007年3月12日で、私が入社したのはその半年前です。1946年設立の米国フィデリティはベビーブーマーと一緒に育ってきた会社ともいえ、401Kのシェアが20-25%と大変高いことが特徴の一つです。そのベビーブーマーが退職時期を迎えるにあたって、彼らとリタイアメントに関してコミュニケーションをとっていくことの重要性が認識されるようになりました。同じ現象が進行する日本では、ちょうど2007年問題(団塊の世代の退職問題)が取りざたされ、リタイアメントに向けたコミュニケーションの重要性が認識されるようになったことから、その啓蒙活動を担う機関として研究所が設立されました。

研究所の名前で退職と投資教育が「・(中グロ)」で繋げてあるのは単に投資教育というのではなく、退職を意識した投資に関する啓蒙活動を行おうという考えがあるからです。


昨年のアンケートは退職者8,018人を対象にされていましたね。

野尻氏:

はい。60歳から65歳の方で退職金を受け取った8,018人にインターネットでアンケート調査を実施しました。こうしたアンケートは毎年、テーマを変えて行っています。一昨年は20―59歳のサラリーマン10,976人のアンケート、その前の年は30-59歳の女性だけ6,625人を対象にした調査でした。さらにその前の年は退職者1千人アンケートでした。これらアンケートの目的は具体的な投資家層、またはまだ投資家になっていない層の実態を把握することです。 そしてその結果をもとに具体的な提言やアドバイスを行っています。

販売員にとってアンケート調査の意味は。

野尻氏:

販売員の方々がお話しするお客様の実像がこのアンケートから少しでもわかれば、会話のキッカケになりますし、また数字に裏打ちされた実像は販売員の方の腑に落ちるとも思います。例えば、店頭にお見えになったお客さまが『退職金をどうしたらいいんだろう』と聞かれたときに、何の裏づけもなく『投資をお考えになりませんか』とお話するより、『8,000人のアンケートでは37.3%の方が退職金で投資をしています』と答えることの方が会話のキッカケになりやすいですし、また信頼も受けやすいと思います。

リーマンショックなどの影響は?

野尻氏:

アンケートの数字をみると投資家はそんなに慌てていないと思います。リーマンショックの後で分散投資は意味がないと販売員の方からよく言われましたが、アンケート結果からは最終投資家はそれほど慌てているようには思えませんでした。リーマンショック後の2010年に行ったサラリーマン10,976人へのアンケート調査では、長期投資は有効であると考えている人が全体の40.7%、分散投資が有効であると考えている人が46.5%を占めていました。また2011年の退職者8,018人のアンケートでは、2010年12月末現在で68.1%の方が退職金による投資で『評価損が出た』と答えていますが、その後の投資スタンスは『中長期の視点で運用を継続』(34.3%)、『マイナスを確定したくないので保有を継続』(34.0%)、『マイナスを取り戻すために買い増し』(5.3%)としています。これらを合計すると70%以上の方が諦めずに投資を続けていることが分かります。


退職金の運用で考慮しなくてはいけないことは。

野尻氏:

アンケートから「見直したい投資行動」が3つほどわかりました。一つ目が金銭面で不安があるので運用(投資)をしないという回答が多いことです。本来、金銭面で不安がなければ何も投資などする必要はないはずです。金銭面で不安があるからこそ何とかするために運用をする必要があるというメンタリティに変える必要があると考えています。二つ目は退職金の使用目的と投資対象にミスマッチがありそうなことです。目先の生活費が目的なのにその退職金で株式投資をしていたり、将来の備えが目的なのに分配型投信を利用していたりする点が散見されます。こうしたミスマッチを見直すアドバイスが必要です。三つ目は退職金を受け取る前年の株式相場が高いと投資をする人が急に増えることです。退職が近づき、退職金の運用を考え始めている頃に株が高いとつい退職金で投資をする人が増えるようです。運用をすることは重要ですが株式市場に振り回されないで、退職金といえども3回くらいに分けて投資をするなど時間分散を考えたいものです。

退職金での投資のアドバイス10カ条を教えてください。

野尻氏:

これは金融機関の販売員に向けた退職者層向けの投資啓発へのアドバイスです。簡単にご説明しましょう。まず、第一は「数字を背景にした投資家へのアプローチ」です。これは既にお話したように、数字による理解なら販売員の方も腑に落ち、またそれを聞いたお客様も納得しやすいはずです。第二は「年間を通じた退職金へのアプローチ」です。退職金の運用を考え始める退職前年の12月、退職金の支給日前後(通常3,4月)、3カ月定期の満期日前後の年3回の機会を考慮して対応したいものです。第三は「深堀アプローチが効率的」です。退職金で投資をしなかった人よりも、投資を10%、20%に抑えているひとにアプローチをする。第四は「ターゲットは目の前にある」です。多くの退職者の方が残った退職金は『振り込まれた銀行にそのまま』(30%)、『自宅近くの銀行に預け替えた』(13%)としており、金融機関のサービスを訴求するチャンスです。第五は「退職金投資は日本株と分配金がキーワード」です。退職後の生活費を補完する分配金の賢い使い方や日本株についてコメントできる必要があります。第六は「評価損があっても長期投資で臨む」です。これは既にお話したとおりです。第七は「7割が公的年金に期待していいのか」です。最近退職したばかりの方々は公的年金に依存しがちですが20年後の制度が不安なのは何も若者ばかりではない点をしっかり理解していただく必要があります。第八は「家計に不安があるからこそ投資は必要」で、第九は「退職金の使用目的と投資対象にミスマッチ」ですが、これは前述のとおりです。そして最後は「退職者の五割が資産形成不足を後悔」です。退職してから資産形成をしておけばよかったと後悔しても始まりませんから、これはまさしく現役の方に正しく伝えたい項目です。

リタイア後の資産運用の注意点は。

野尻氏:

リタイア後の資産運用は現役時代の資産運用とは違います。現役時代は資産を作ることに専念すればよくて、少しでも早く、少しでも多くの定額積み立て投資が原則です。しかし、退職すればその資産から資金を引き出すことも視野に入れなければなりません。いつまで運用が続けられるかを考え、運用することと引き出すことのバランスを考えることが大切です。つまり『使いながら運用する』というのがコンセプトです。60歳になって、75歳くらいまでは運用ができると考えて、75歳のときにそこから20年くらい、そう95歳くらいまでは使うだけになっても大丈夫なくらいの資産を残すことを考えましょう。例えば95歳まで毎月年金のほかに10万円必要と考えれば、20年間で2,400万円が75歳のときに残っていれば良いわけです。それを残せるように、60歳から75歳まで使うだけではなくて運用も合わせて行って、資産の減り方をコントロールするわけです。

人生における資産運用の3つのステージ(図)

(出所)フィデリティ退職・投資教育研究所作成の『ロールオーバー世代の資産運用(2011.10)』のP14から引用。

ただ、ここで重要なのが引き出し方です。毎月一定額を引き出すというのは一見しっかり管理しているように思えますが、実は資産が予想外に劣化するリスクをはらんでいるのです。これを収益率配列のリスクと呼んでいますが、表の『定額引出』の欄を見ていただくとわかりやすいと思います。この表は、ポートフォリオAとBで比較をしています。実は毎年の収益率を逆に並べただけですので平均収益率も標準偏差も同じになり、全く同じパフォーマンスといえます。しかし、それぞれ1,000万円で運用をスタートして、毎年定額の40万円を引き出すとすると15年後の資産残高は全く違っています。前半に大幅なマイナスの収益率が並んでいるポートフォリオBの残高が、前半にプラスが並んだポートフォリオAに比べて大きく劣化しています。定額で引き出すと、収益率の配列で資産残高が大きく変化するリスクがあるということです。これに対して定率(ここでは4%)で引き出すと、ポートフォリオAもBも15年後の資産残高は全く同じになります。収益率配列のリスクは定率引出しによって回避できるのです。もちろん、毎年の引出額が変動することが難点ですが、リスクの低い運用を心がければ、この引出額の変動は小幅に抑えることができます。


定率引き出しの効果(表)

(出所)フィデリティ退職・投資教育研究所作成の『ロールオーバー世代の資産運用(2011.10)』のP15から引用。

50歳代のための20年プロジェクトとは?

野尻氏:

50歳代にとって定年までの時間は資産運用するには短すぎますが、その間に公的年金などの制度が変わらないと信じるには長すぎます。そこで資産運用する時間を定年までと区切らないで,もう少し先まで延ばして70歳代までの20年間を視野に入れた"20年プロジェクト"で考えようということです。20年間の運用を想定しながら、前半の給与収入があるうちは定額で積み立てを継続し、引き出す時代になったら定率引き出しを組み合わせるという、2段構えのプロジェクトです。

ありがとうございました。


聞き手:QBR 小林新(掲載日:2012年01月05日)

野尻哲史(のじり さとし)氏
フィデリティ退職・投資教育研究所所長 

経歴

出身:岐阜県
一橋大学を卒業後、国内外の証券会社調査部を経て2007年より現職。各種アンケート調査をもとに投資家動向を分析し、資産運用に関する啓蒙活動を実施。 CMA、証券経済学会・行動経済学会などの会員。著書には「老後難民」(講談社+α新書) など多数。

   
    

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