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エコノミスト浜矩子が語る「経済は上質なミステリーを読み解くようなもの」 - 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第3回】

エコノミスト浜矩子が語る

「経済は上質なミステリーを読み解くようなもの」

エコノミスト浜矩子氏
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
エコノミスト浜矩子氏
ETFは、国内外の株価インデックスや商品価格に連動する投資商品。極めてシンプルな商品性を有しており、その値動きは投資対象国などの経済情勢を素直に反映して動きます。つまり、ETFに投資するためには、世界経済の流れを読み解くセンスが要求されるのです。今回は同志社大学大学院教授の浜矩子氏に、世界経済の流れを読み解くセンスを高めるにはどうすれば良いのかについて、話を伺いました。
- 子供の頃から経済に対して関心を持っていらっしゃったと聞いていますが。
浜氏
中学2年のときに、父親の勤務先だったイギリスから戻ってきたのですが、ちょうどその時、イギリスでポンドの切り下げという大きな経済事件が起きたのです。
なぜイギリスはポンドを切り下げなければならなかったのか。その話を日本に戻ってきてから、学校の授業で聞きました。当時のイギリスは、覇権をアメリカに奪われ、経済的にも苦境に立たされていました。そこでポンドを切り下げれば、イギリス国内の輸出産業は業績が回復し、イギリス経済が立ち直る可能性が高まる。その極めて理路整然としたロジックが印象的でした。
このようなカラクリが、世界中のいろいろなところにある。ふとそう思い、ならばその全貌を解き明かしてみたいと思ったのが、経済に興味を持った最初の動機です。当時からミステリー小説に興味を持っていたのですが、あたかも上質なミステリーを読んでいる感じがしたのです。
- 経済はミステリーですか。
浜氏
ええ。ここで、ある事件が起きたとしましょう。その事件の真犯人は誰なのかということを調べていくうちに、いろいろな事実が判明してきます。その事実をたどっていくうちに、最初の事件のときに想像していた犯人とは、まったく違う真犯人にたどりつく。このプロセスは、まさにミステリー小説です。あたかも自分が名探偵になったかのように、その事件を解いていくプロセスは、とてもワクワクするものです。
そして、ミステリー小説が人間ドラマであるのと同じように、経済もまさに人間ドラマなのです。経済というと、数字や数式、図表、理論の世界ばかりで、とても難しく、かつ人間ドラマからは最も遠いものであるかのように思えます。実はそうではなく、そういった数字などの裏側にある人間ドラマに目を向けると、また違った経済の見方が出来ると思います。
たとえばユーロが売られている。ことの発端はギリシャの財政危機であるわけですが、なぜ財政危機に陥ったのか、その裏側にはさまざまな人間ドラマがあるはずです。そこに目を向けていけば、また別な観点から経済を捉えることができるはずです。
あるいは、それとは逆にユーロの為替レートという数字をじっと見ていると、その動きのなかに人間ドラマが見えてくる。何が起きたのかというストーリーが見えてくる。そういうものを引き出す力を身につけていくことによって、経済はどんどん面白みを増してくるのだと思います。
- 経済や金融、あるいは為替相場に関して、私たちが得られる情報というものは、とかく数字の世界に偏り勝ちですが、そこから人間ドラマを見出すには想像力が必要になると思います。経済的想像力を高めるためにはどうすれば良いのでしょうか。
浜氏
訓練といえるかどうかはわからないのですが、経済の事象と人間ドラマをクロスオーバーさせながら物事を考えてみてはどうでしょうか。たとえば、今も申し上げたように、経済のさまざまな出来事、マーケットの動きなどを見て、そこから人間ドラマを見出すようにするということだけでなく、経済とは一見、無関係な小説を読んだり、ドラマを観たりするなかで、その背景にある経済的な事象を見つけ出す工夫を積み重ねていくのです。
私はイギリス映画の「フルモンティ」が好きなのですが、このドラマは、かつて鉄鋼業で栄えたイングランドのシェフィールドを舞台にしたもので、鉄工所を解雇されて失業中の中年男性6人が、生活のためにストリッパーを目指すというコメディです。この映画を見ていると、イギリスが経済的にどんどん衰退していく時代背景が浮かんできます。
人間の日々の営みそのものが経済活動だということです。ですから、日々の生活の中から、経済的な背景や事象を想像することは、意外と簡単に、誰にでもできるものだと思います。寝ている時には、ベッドや枕といった非耐久消費財を使っていますし、水を飲めば水道料金がかかってきます。いずれも経済行為のひとつです。自分の日々の行動を、できるだけたくさん経済的な出来事と結びつけて考えるようにすれば、経済に対する面白みも高まっていきます。少なくとも、数字や需給バランスといった理論の世界に経済を閉じ込めてしまうと、経済はどんどんつまらなくなります。
-たとえばリーマンショックの真犯人は、どこにいるのでしょうか。
浜氏
浜矩子氏
個別の経済的な事象には、それを引き起こす直接的な原因と、その直接的な原因を生み出した、もっと大きな背景があるはずです。経済を解き明かしていくためには、そういう2つの視点から、物事を捉えていく必要があります。
リーマンショックに当てはめると、その直接的な原因は投資家の行き過ぎた投資行動にあります。そして、その行き過ぎた投資行動を引き起こした原因としては、世界的な金余り現象が考えられます。日本がバブル経済崩壊後、超金融緩和政策を延々と続けてきた結果、世界的に金余りを生んだのですね。そう考えると、リーマンショックという事件の犯人は、実は日本だということが見えてきます。
でも、その裏には、もっと大きな黒幕が控えています。私は、リーマンショックを引き起こすに至った最大の黒幕は、実はニクソンショックにあると見ています。
ニクソンショックといっても、もう教科書の中での出来事としか捉えていない人が大半ではないでしょうか。何しろ、今から40年近くも前の話ですから。1971年8月15日、当時のアメリカ大統領だったリチャード・ニクソンは、突然、ドルと金の交換を禁止すると発表しました。それまで、ドルはブレトンウッズ体制のもと、金1オンスを35ドルと定めて、そのドルと各国通貨の交換比率を固定する固定為替相場制度が採られていましたが、金とドルの交換が停止されたことによって、今の変動相場制へと移行していったのです。
つまり、金という誰の目から見ても分かりやすい、絶対的な価値を持ったものが通貨価値の裏づけとして存在していたのに、ニクソンショック以降は、経済力や軍事力などを含む国力といった、非常に相対的かつ分かりにくいものが通貨価値の裏づけになってしまったのです。
これは、いろいろな意味で、とても象徴的な出来事だと思います。
第一に、お金が自己増殖を始めるきっかけになったこと。金という絶対的な価値を持ったものが通貨価値の裏づけとして控えていた時代には、経済はきわめて機械的に動いていました。つまり一定の秩序があったのです。それが管理通貨制度に移行してからは、秩序が完全に崩れ、お金が自己増殖を始めました。ドルにしても、金の保有量とは関係なく、輪転機を回せば勝手にお金を刷ることができるのですから。結局、実体経済の規模を圧倒的に超えるお金がばら撒かれることになり、それが現在の金余りの遠因になったのです。
第二に、お金が極めてバーチャルなものになったということでしょうか。金という絶対的な裏づけがあった頃は、ドルと金はイコールであり、極めて実体性の高いものでした。それが、金との連関性がなくなったことで、お金がバーチャルなものになったのです。結果、金融商品にしても、「金融工学」などと称して、複雑なデリバティブを用いた仕組み商品が次々に作られるようになりました。リーマンショックやサブ・プライムローンショックで問題になった各種デリバティブ商品は、まさにこういう背景のもとに作られたともいえるでしょう。
つまり、ニクソンショックによる金本位制の崩壊というのが、リーマンショックの真犯人であると考えられるのです。
- 真犯人を探すという行為は、過去を遡って原因を探り出すという行為になると思うのですが、逆に将来を見通すためには、どうすればよいのでしょうか。特に資産運用や投資をする人たちは、将来をどう見るかというセンスが必要だと思うのですが。
浜氏
浜矩子氏
これからどうなるのか、ということを考える場合には、今までとは逆の仮説を設けて、それをきちっと説明できるかどうかということを考える必要があります。たとえば日本経済がなかなか立ち直らない。どうしてか。それは、今までの日本の経済システムが、いよいよ構造疲弊を起こしているからです。
では、日本の高度経済成長を支えてきたシステムとは何なのか。それは中央集権的メカニズムです。それがダメになったということであれば、逆の方策を考えれば良いのです。つまり分権的メカニズムの確立です。現状、なかなか苦労してはいるようですが、地方分権型が、これからの日本には必要になってくると考えられます。
通貨についても同じことが言えます。ニクソンショック以降もドルは基軸通貨的なものとして君臨してきましたし、今、まさに問題になっているユーロも、欧州における基軸通貨的なものという位置づけですが、それがいよいよおかしなことになってきた。つまり、極めて強い力を持った一国民通貨が、世界的に通用するというシステムが、完全に行き詰ったということです。
ならば、これからの通貨体制はどうなるのか。それについては、2つの可能性が想定されます。
ひとつは世界単一通貨を創ること。しかし、経済水準が異なる国々で共通通貨を用いることの難しさは、ユーロの問題を考えれば想像できます。なので、世界単一通貨の創設は、極めて可能性が低いと考えられます。
となると、もうひとつの可能性として地域通貨が浮上してきます。これも現状ではなかなかワークしていませんが、きちっとした決済性を持つ地域通貨が生まれてくれば、新しい地域密着型の金融、通貨制度が生まれてくるはずです。
そもそも国の財政問題というものは、地域ごとに経済状況などが異なるにも関らず、最大公約数的なところで予算などを考えようとするから、どこかに無理が生じて、赤字規模が拡大してしまうのです。なので、それとは逆に地域通貨をベースにして、地域特性に合う財政を構築していけば、前述した分権的メカニズムにも合致します。
経済の先読みをする場合は、今までとは正反対の仮説をたて、それを説明できるようなロジックを考えること。それは一部、資産運用にもつながる面があると思います。

掲載日:2010年月07月27日
浜 矩子浜 矩子(はま のりこ)氏プロフィール
1975年に一橋大学経済学部を卒業し三菱総合研究所に入社。1990年渡英し、三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所所長兼駐在エコノミスト就任。 1998年に帰国、三菱総合研究所主席研究員・経済調査部長。2002 年秋より同志社大学大学院ビジネス研究科教授に就任。


   
    

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