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エコノミスト熊野英生氏が語る「日本経済、国内株価の行方」 - 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第8回】

エコノミスト 熊野英生氏が語る

「日本経済、国内株価の行方」

急激に進んだ円高、株安などマーケットが荒れるなか、国内景気の先行きについても、厳しい見通しが増えてきました。米国で景気の二番底懸念が浮上するなか、米国経済の影響を強く受ける日本経済の先行きはどうなるのか。株価はどう動くのかなどをうかがいました。
1ドル=82円台という15年ぶりの円高になり、株安が進むなど、国内マーケットは荒れぎみで推移しています。景気の先行きに対する厳しさを反映した動きであると考えられますか?
熊野氏
エコノミスト熊野英生氏
第一生命経済研究所
主席エコノミスト
熊野英生氏
まず、エコノミスト的視点と投資家的視点とに分けて考えてみますと、エコノミスト的な視点では、今年の4月にギリシャ危機がクローズアップされる前から、年末にかけて日経平均株価は9,000円前後まで下落すると踏んでいました。
理由は、今年の秋以降、オバマ大統領が打ち出してきた経済政策がピークアウトするからです。加えて12月末で、あの同時多発テロの後で当時のブッシュ大統領が打ち出したブッシュ減税が、期限切れを迎えます。同時に、オバマ大統領の下で打ち出された景気対策もピークアウトということになれば、やはり米国経済は落ち込むか、もしくは踊り場に差し掛かるでしょう。オバマ政権は、最近3,500億ドルの景気対策案を打ち出しましたが、それでも大勢は変わりません。
米国の景気が二番底に向かうということになれば、当然、その影響は日本にも及んできます。
そのため、日本の景気については、米国景気のスローダウンとともに、恐らくこの秋口には落ち込み始め、来年の春先に底入れするというイメージで捉えています。
もちろん、これはあくまでもエコノミストとしての見方です。これに対して、投資家の立場から考えるとどうなるか。
やはり、マーケットというものは、常に世の中の動きを先取りしていくものですから、それは景気とマーケットの関係についてもあてはまります。どういうことかというと、この秋口の景気後退を見越して、マーケットでは5月のゴールデンウィーク明けくらいから、状況が悪くなってきました。つまり、実体経済に対して4カ月程度先取りして動いたわけです。
ということは、逆に良くなるのも、前倒しになっていく可能性が高いのではないでしょうか。仮に来年の春先から実体経済が底入れをするというのであれば、マーケットはそれに先駆けて回復するのではないかと見ています。年末から年明けにかけて、ひとつの転換点を迎える可能性がありますから、投資家の立場でマーケットに参加している人は、どの時点で景気が回復へと向かうのか、その転換点を慎重に見極める必要があります。
株価の回復とともに、日本経済も徐々に好転していくということですか?
熊野氏
1ドル=82円台という円高水準は、日本企業のセンチメントから考えると、やはりマイナスの影響が大きいと思います。日本経済は、リーマンショックが起こった2008年の秋口から2009年2月にかけて、まさに直滑降の勢いで悪化しました。その後、在庫復元力によって、2009年3月以降は景気が回復局面に入ったかのように見えましたが、これはあくまでもリバウンドでした。余りにも落ち込みぶりが大きかったがために、その後、元の水準に戻すまでの過程が、非常に良く見えただけです。つまり、リバウンドに過ぎなかったものを、トレンドとして見間違えたのです。
リバウンドは、元の水準に戻れば、そこからの回復力は非常に緩やかなものになってしまいます。ましてや今回のリバウンドは、エコカー減税やエコポイントなどの政策的支援の賜物でしたから、その恩恵が無くなることへの不安に円高が加わり、景気の先行きに対する不安感を一層、掻き立てることになりました。
ただ、もう少し複眼的に見ると、円高は決して悪い側面ばかりではありません。現状、企業業績に対する円高の影響は、まだそれほど強く出ていないので、逆に円高の力を利用して、海外企業の買収や提携などが活発化する可能性もあります。
エコノミスト熊野英生氏
熊野英生氏
あるいは、輸出企業にとってマイナス面の強い円高ですが、スーパーマーケットを覗くと、円高還元セールで賑わっている場面を見ることがあります。 もっと言えば、日本の輸出企業は非常に賢いので、この程度の円高で企業そのものが潰れてしまうようなことにはならないでしょう。日本の輸出企業の生産管理技術は非常に優れているので、したたかに生き残っていくと思います。
前述したように、むしろこの円高を利用して、海外企業の買収などを行い、それを自社の経営力増強につなげていく可能性があるのです。もっと円高のポジティブサイドに目を向けても良いのではないでしょうか。その意味では、今のように株価が大きく売られているような場面は、ETFのような投資商品を通じて日本に投資するチャンスともいえます。
気になる円高ですが、これはどこまで続くでしょうか。
熊野氏
1ドル=82円をつけたドル/円相場ですが、この辺がドルのボトムになるのではないでしょうか。相場の転換点には2つのタイプがあります。
ひとつは同時多発テロの直後のように、誰が見ても極端な水準まで売り込まれた時。このような時には、とにかく極端なまでに下げたところで買えば良いだけです。
もうひとつは、変化の機運が現れた時です。9月3日に発表された米国の雇用統計は、発表前から比較的ポジティブな数字が出てくるのではないかという見方があり、結果的に事前予想通り、明るい兆しが見えるものになりました。結果、1ドル=85円までドルが買われたわけですが、このようにジリジリと悪くなるなかで、わずかでも「ひょっとすると良くなるのでは?」という機運が見えてくると、そこが相場の転換点になります。まさに今は、その局面ではないでしょうか。
恐らく、来年春から夏場にかけて、マーケットには徐々に明るい兆しが現れてくると思います。中国をはじめとする新興国にも明るい材料が出てくるでしょうし、米国でも設備投資が活発になる可能性が現れてくるでしょう。
基本的にマクロ指標というものは、ミクロの動きにやや遅れる傾向があります。ミクロの動きとは、要は企業活動のことですが、恐らくこの時期から、企業活動はプラスの方向に小さな動きが見られるようになるはずです。
ただ、10月にかけてはまだ円高プレッシャーが強いので、介入を行ってもそう簡単に円高は止まらないと思います。
そこで、誰がこの円高をメリットに変えていくのかという点に注目するべきです。
恐らくそれは、技術や資源を買おうとしている企業です。今、日本企業には200兆円規模の余裕資金があります。これを使って、企業買収や鉱山買収が進む可能性があります。こういった海外投資の動きが活発になれば、そこから徐々に外貨買いの動きが出てきて、ドル安トレンドも転換点を迎えるのではないでしょうか。1ドル=82円が、まさにその境目となる水準だと思います。
ただ、どうしても日本国内には景気の先行き、日本という国の未来に対して悲観的な見方が圧倒的です。本格的な少子高齢社会に突入するなか、日本経済の先行きは大丈夫でしょうか。
熊野氏
唯一の懸念材料は、日本の富裕層の資金が海外に流出してしまうということでしょう。今は円が強烈に買われていますが、近い将来、中国の人民元が国際通貨になったら、円がシュリンクしてしまう恐れがあります。
したがって、これから打ち出されてくる政策がとても重要です。特に資産運用に関していえば、どういう政策が打ち出されてくるのかという点が、資金の流れを大きく左右するからです。 たとえば90年代の米国では、まさに政策が強い影響力を持っており、それに投資銀行が乗っかって大きな利益を生み出しました。
日本の場合、小泉政権下における郵政民営化以来、海外投資家にとってポジティブ・サプライズになる政策が打ち出されていません。ここが大きな問題ともいえるでしょう。このまま何の政策も打ち出されなければ、投資家は円資産をこれ以上持ちたくないと考えて、海外に資産をシフトさせてしまう恐れがあります。逆に、日本に投資したくなるような政策が打ち出されれば、郵政民営化直後の株式市場のように、期待感から日本の資産が買われる可能性が高まってきます。資産運用の観点から考えれば、政策が重要になってきます。
エコノミスト熊野英生氏
熊野英生氏
また、現在、日本経済の活力は、高齢者が持っているといっても過言ではありません。50代以上の、アグレッシブともいえる知的パワーは、日本経済にとって最大の拠り所になっています。 こうした高齢者層が持っているパワーを、いかにして次世代に伝えていくことができるか。そこに、日本経済の未来がかかっているのではないでしょうか。
すでに日本経済は成熟段階に入っており、中国やインドのような成長期にある国のように、量的な優位性で経済の活力を維持するのは難しくなっています。したがってこれからは、質的な優位性を高めることによって、日本経済の活力を維持していくしかないでしょう。
ただ、こうした質的なもので、日本が優位性を維持していくことは、決して難しいことではありません。前述したように、日本企業は世界的に見ても非常に優秀ですから、質的な成長余地は十分にあると思います。
資産運用をする人にとって必要な「経済を見る目」は、どうやって養えばよいのでしょうか。
熊野氏
まずは情報をどれだけ多く集められるかということです。今はインターネットを通じて、かなりの情報を集めることができますから、この点は誰でも簡単にクリアすることができるでしょう。
ただ、大事なのはそこから先です。つまり、集めた情報をどのようにハンドリングして、自分なりの経済に対する知見を高めるかが、問われてきます。
それには、やはりさまざまな経済・金融情報に目を通して、きちっと勉強を重ねていくことです。また、人と話すことも大事です。最近は、投資に関する勉強会なども多数、開催されていますから、それに参加して、いろいろな人の意見に触れることです。
そして最後に、海外メディアが何を報じているのかもチェックすると良いでしょう。そうすれば、日本の報道機関が報じていない見方に触れることができます。
資産運用をするにあたっては、経済に関する複眼的な視点が必要になります。さまざまな角度から分析して、今後のマーケット動向を見極める。そのためには、やはりさまざまな情報源に当たって、自分なりの経済の見方を作っていく努力が必要なのです。
掲載日:2010年月10月29日
熊野 英生熊野 英生 (くまの ひでお)
第一生命経済研究所
主席エコノミスト
横浜国立大学経済学部卒。1967年7月 山口県生まれ。1990年4月 日本銀行入行。同行調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。2000年8月より、第一生命経済研究所へ入社。2000年11月より現職。

【主な著書】
「籠城より野戦で挑む経済改革」(東洋経済新報社)、「どうすればリスクに強くなれるか」(近代セールス社)。



   
    

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