株式・投資信託・ETF・退職・年金 投資に役立つ「ケイゾンマネー」

エコノミスト五十嵐敬喜が語る「米国経済、世界経済の行方」- 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第12回】

エコノミスト五十嵐敬喜が語る

「米国経済、世界経済の行方」

11月5日、米国のNYダウが1万1,444ドルをつけ、2008年9月のリーマンショック前の水準を取り戻してきました。米国中間選挙は、オバマ大統領の経済政策に対する効果が疑念視され、政権党である民主党は歴史的な敗北を喫しましたが、マーケットは、米国経済の先行きに、徐々に明るさが見えてきたことを示しているかのようです。果たして、米国経済は二番底まで落ち込むことなく、回復軌道に乗せていくことができるのでしょうか。三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長の五十嵐敬喜氏に、米国経済の今後、そして世界経済に及ぼす影響などについて、話を伺いました。
米国経済は二番底に向かって落ち込んでいくのでしょうか?
五十嵐氏
五十嵐敬喜氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長
五十嵐敬喜氏
二番底懸念については、一時期に比べてかなり薄らいだのではないでしょうか。私自身は、米国経済の先行きについて、それほど悲観的な見方はしておりません。確かに、失業率は8、9、10月の3カ月連続で9.6%の後、11月は9.8%となりました。10人に1人が失業していることになりますが、見方によっては、10人のうち9人は働いていて、その9人の所得は向上していると考えることができます。当然、所得が向上すれば、消費意欲も高まります。その好循環の兆しが見えているので、米国経済が二番底に向かって落ち込んでいくリスクは、かなり低くなったと考えられます。
リーマンショックの直後、最も経済が落ち込んだのは、ショックの震源地だった米国です。これは、もう疑う余地はありません。需要が大幅に減るなか、企業が利益を回復させるためには、コスト削減が急務でした。
コスト削減は、何といっても最大の固定費である人件費の削減が一番効果的ですが、それには人を切るか、皆の給料を減らすかという2つの方法が考えられます。日本企業だと、皆で収入減に耐えて、難局を乗り越えるまで我慢するというケースが多いのですが、米国企業は大胆な人減らしを行い、組織を一気にスリム化しました。 
結果、企業業績が回復し、失業しなかった人の給料が上昇しました。これが、消費の活性化につながっていく可能性を持っています。
しかし、失業率9.8%ということに加え、貯蓄率も上昇しています。これを見ると、米国民は相変わらず消費を押さえ込んでいると見ることもできます。
五十嵐氏
米国の貯蓄率は、前回の景気拡大局面において、一時は2%を割り込む水準まで低下しました。借金漬けで消費を増やす、という体質が見て取れる数字です。それが、リーマンショック後は皆、借金の返済を優先して消費を落としてきています。結果、貯蓄率は6%程度まで上昇してきました。2%と6%という貯蓄率の違いは、100ある収入のうち98を使ってしまうか、それとも使う額を94に抑えておくかということの違いです。
(図表1)借り入れの返済に目処をつけた?家計(米国の家計の貯蓄率)
(図表1)借り入れの返済に目処をつけた?家計(米国の家計の貯蓄率)
出所:米商務省
仮に、一時は所得の98を使い、残りの2を借金返済に充てていた米国の家計が、消費を94まで抑えられれば、6を借金の返済に回せることになります。つまり、3倍のペースで借金を返済できるのです。
もちろん、米国の人々がもっと貯蓄率を上げようと考えていたら、貯蓄率の上昇とともに、消費がもう一段落ち込むことになりますが、貯蓄率の推移を見ると、更に上昇ペースが続くというよりも、5%台の水準で落ち着きつつあるようです。
そうだとすると、100の収入のうち、消費を94、借金返済を6にしていたのが、収入が101に増えたらどうなるでしょうか。そう、借金返済のペースを変えることなく、消費を94から95に引き上げることができます。どうも、米国の家計では最近、このような現象が起こっているようなのです。
実際、米国の個人消費は、徐々に回復してきています。グラフにもあるように、個人消費のうち自動車は横ばいが続いていますが、自動車以外は2009年後半あたりから上昇傾向をたどっており、実質個人消費も2009年後半からは、右肩上がりで上昇しており、2008年のピークを超えようとしています。
個人消費が伸びてくれば、企業の売上も増えます。これまで米国企業は、売上増によって生産が増えても、人を増やさずに、何とか生産性の向上で対応してきました。ただ、それにも限界があります。
(図表2)緩やかに回復を続ける家計消費(米国の個人消費)
(図表2)緩やかに回復を続ける家計消費(米国の個人消費)
出所:米商務省
米国の場合、民間部門の雇用者数は、毎月15万人ペースで増えないと失業率が上昇してしまいます。これまでは毎月7~8万人ペースでしか増加しませんでした。それが、10月の雇用統計では、いよいよ15万人増に乗せてきました。11月の増加数はまた少なかったですが、徐々に本来の雇用者数増加のペースに戻ってきていると言えると思います。
このように、収入増だけでなく、雇用増加のペースも巡航速度に戻ったとしたら、米国経済の先行きは、もっと明るさを取り戻してくるはずです。
米国経済の回復は、日本経済の回復につながりますか?
五十嵐氏
米国は、景気がよくなるほど輸入が増える傾向があります。好況期には海外からどんどん輸入することで経常収支赤字を増やす一方、米国に輸出した国では経常収支の黒字が増えるという構造だったのです。しかしリーマンショックで米国が一気に輸入を減らしたため、日本をはじめとする輸出国の経常収支の黒字は大幅に減ってしまいました。
特に日本は、景気が悪化すると真っ先に切られる輸送機械、電気機械、一般機械などの耐久財を世界中に輸出していましたから、米国の輸入減による世界貿易縮小の影響を、より強く受けることになりました。だから日本は、世界のなかで最も鉱工業指数が落ち込むというところまで、経済活動が落ち込んだのです。
ただ、米国経済が回復軌道に乗れば、こうした動きとは逆の、プラスの作用が日本経済に働いてきます。しかも、米国が中国から製品の輸入を増やそうとすれば、中国はそれに応じるために生産を増やしますが、製品を作るためには、日本製の部品・材料が必要になります。つまり、日本から中国への部品・材料の輸出が増加するのです。
したがって、日本にとっては、米国向けの完成品輸出が増えるとともに、中国向けの部品・材料の輸出も増えることになります。これは、日本経済にとっては極めて有利な環境といえるでしょう。
世界的に金融緩和が行われています。インフレにつながる可能性はありますか?
五十嵐氏
岡本和久氏
今、米国の中央銀行であるFRBが行うQEⅡ (量的金融緩和)の効果が注目を集めています。
日本でもかつて量的金融緩和が行われました。具体的には、長期国債を日銀が買い取るという手法が用いられたわけですが、日本では発行された国債のかなりの部分を銀行が保有しています。つまり、日銀が国債を買い取る相手は銀行であり、日銀から銀行に対して多額の資金が流れたわけですが、残念なことに企業が銀行からお金を借り入れる需要が無かったため、日本での量的金融緩和は、大した経済効果をもたらしませんでした。
でも、米国が行う量的金融緩和は、ちょっと状況が違います。というのも、米国国債はその6割を海外投資家と米国の家計が保有しているからです。つまり、FRBが米国国債を買い取ることで量的金融緩和を行うということは、海外投資家と家計に直接、資金が流れることを意味します。
(図表3)日米で大きく違う国債の保有構造(日米の国債保有者割合)
(図表2)緩やかに回復を続ける家計消費(米国の個人消費)
海外投資家は保有国債をFRBに買い取ってもらい、キャッシュが入ってきたからといって、それを消費に回すようなことはしませんし、新たに発行される国債を買うこともできないでしょう。というのも、QEⅡ によってFRBが買い取る国債の額は、米国の1年間の財政赤字額に匹敵するからです。つまり、新しい国債を買いたくても買えないという状況になる可能性があります。
そうなると、米国国債以外のものに資金を振り向けていくしかありません。それは何なのか。社債なのか株式なのか。株式のなかでも新興国の株式なのか。これからは、まさにその選択が行われていくのです。
ただ、仮にその資金がコモディティ市場に回ったらどうなるでしょうか。米国国債のマーケット規模に比べ、金をはじめとするコモディティ市場のそれは、極めて小規模ですから、余剰資金が一気に流れ込めば、価格が大幅に跳ね上がることになります。言うなれば、コモディティバブルが生じる恐れがあります。
また、日本株にも影響が生じています。日経平均株価は、9月1日に8,796円という底値をつけた後、上昇トレンドに入りました。特に11月以降は、株価の上昇に一段と弾みが付いています。こうしたマーケットの動きなどを見ると、やはり世界的な金融緩和の影響によって、余剰資金の一部が日本株にも入ってきているのではないかと考えられます。日本株に限らず、世界中のさまざまなマーケットで、今後、価格が押し上げられる動きが生じてくるでしょう。それが、インフレ的、あるいはバブル的な動きにつながる恐れは十分にあると思います。
円高の動きも一段落でしょうか。
五十嵐氏
岡本和久氏
ドル/円の動きを見ると、11月1日に1ドル=80円22銭をつけ、過去最高値の79円75銭割れも目前かと見られていましたが、その後はドル高へと転じました。恐らく、これまでのドル安トレンドにも、転換点が訪れたのではないでしょうか。
為替市場は、マーケットに不安心理が高まると、リスク回避行動を取ろうとします。つまり先進国の通貨が買われやすくなります。その際、これまでは消去法的に円がリスク回避先の対象と見られていました。
今、欧州で再び信用不安が高まり、中国でもバブル退治のために金融を引き締めようという動きが浮上しています。こうした状況がマーケットの不安心理を掻き立てているわけですが、欧州で不安心理が高まっている以上、ユーロは買えません。
そうなると、米ドルか円ということですが、これまでリスク回避先として円が買われていたのは、別段、円に買い材料があったわけではなく、米国の景気先行きに対する不透明感やいっそうの金利低下観測から米ドルを買うことができず、消去法的に円が買われていただけです。
ところが、QEⅡ に対して世界各国から非難の声が高まっていることもあって、米国はこれ以上の金融緩和を実施できないはずとの見方が浮上するとともに、前述したように個人消費が徐々に盛り上がるなど景気回復感も浮上してきています。
一方で、日本の景気回復感はまだ不十分なので、相対的に米ドルの魅力が高まり、米ドル買いが強まる可能性があります。仮に、そのシナリオの下で米ドルが買われれば、結果としての円安によって日本経済にとっても、プラスの効果が期待できます。
掲載日:2010年月12月24日
五十嵐 敬喜(いがらし たかのぶ)氏プロフィール
三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部長
五十嵐 敬喜(いがらし たかのぶ)氏
昭和51年 京都大学経済学部卒、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行
昭和53年 同行調査部 エコノミスト
昭和56年 経済企画庁に出向(2年間)
昭和58年 同行調査部 エコノミスト
昭和61年 バンカーストラスト銀行(ニューヨーク)に出向 客員エコノミスト
平成元年 同行資金証券為替部 マーケットエコノミスト
平成14年 UFJ総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)調査部長


   
    

特集

「証券アナリストの調査手法とこだわり」(全6回)

「証券アナリストの調査手法とこだわり」

証券アナリストの行動パターンをご紹介!個人投資家のリスク回避術を学ぼう。

特集を読む »

おもしろ企業探検隊

おもしろ企業探検隊

平林亮子&内田まさみの「そうだ!社長に会いに行こう」ナブテスコ株式会社

特集を読む »