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エコノミスト吉崎達彦に聞く 「中間選挙と米国経済の行方」

オピニオンリーダーが語る

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 米国中間選挙が11月4日に行われます。共和党優位とされる今回の選挙。現職のオバマ大統領は残り2年の任期をレイムダック状態で過ごすことになるのか。それにともない、米国経済、マーケット、さらには日本経済にはどのような影響が及んでくるのか。米大統領選挙オタクとして知られる双日総合研究所副所長チーフエコノミストの吉崎達彦さんに話を伺いました。


まず、現在のオバマ大統領に対する米国国民の評価はどうですか。

㈱双日総合研究所 副所長
チーフエコノミスト
吉崎達彦氏
吉崎氏

 芳しくありません。オバマ政権下で、米国経済はリーマンショックから立ち直りました。QE(量的金融緩和)を行った結果、株価は史上最高値を更新し、住宅価格も上昇しています。GDPは2%成長軌道に乗り、失業率は一時10%台まで悪化していましたが、現在は6%前後まで低下してきました。企業収益も好調です。少なくとも経済面では何も問題はないように見えるのですが、オバマ政権の評価につながっていません。

 米国大統領の支持率は、40%を割り込むと危険水準と言われます。自分の思い通りに政策を通せなくなるのです。現在の支持率は、さまざまな調査の平均値で41%です。ということは、調査のなかには40%を割り込んでいるものも多いということです。この状態が続くと、残り2年のオバマ大統領は、かなりお寒い結果しか残せなくなる恐れがあります。

経済が好調であれば支持率も上がりそうなものですが、なぜそこまで低迷しているのでしょうか。
吉崎氏

 所得格差が広がっているというのが第一の原因でしょう。2009年に比べて、2014年の家計所得の平均値は上昇しているのですが、問題は中央値です。家計所得の中央値がこの間、低下しているのです。
 確かに、3回にわたるQEの結果、株価も住宅価格も上昇しました。しかし、その恩恵を受けることができたのは、それらの資産を保有していた人だけです。つまり、持てる者と持たざる者との格差が広がったのです。結果、資産を持っていない人にとっては、いくら景気が回復したといっても、全く関係のない話に終始していますし、年金生活者にも同じことが言えます。また家計所得の中央値が下がったということは、中間所得者層の生活が、それだけ苦しくなったことを意味します。何しろ、トップ1%が収入の2割を占めていると言われていますから、今の米国は典型的な格差社会といえるでしょう。これでは景況感は良くならないし、支持率が上がるはずもありません。
 それともうひとつ、オバマ政権の政策がピント外れということも、支持率が下がった原因といえるでしょう。この夏以降、米国で注目されている3つの事件をご存じでしょうか。米ミズーリ州ファーガソンで、白人警察官が黒人青年を射殺したファーガソン事件、イスラム教スンニ派テロ組織であるISIS(イスラム国)問題、そしてエボラ出血熱の拡大の3点です。
 米国最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマートのホームページには、「ウォルマート・ママ」というページがあります。これは、ウォルマートで買い物をしているお母さんたちを対象とするページなのですが、それによると「最近は、嫌なニュースばかりで子供に聞かせたくない」という意見が多数目立ちます。家族のため、ウォルマートで少しでも安く、良いものを買おうとしているけなげなお母さんが、殺伐とした世相に嫌気が差しているという姿が浮かんできます。こうした主婦層が持っている浮動票が、大統領の支持率、選挙結果を左右するケースがあります。現状、こうした主婦層に対して、オバマ大統領の政策は、いかにも頼りなく映るというわけです。

主婦層が選挙結果を握っているということですか。
吉崎氏

 96年の米国大統領選挙の時には、クリントン大統領の選挙参謀だったマーク・ペン氏が、「サッカー・ママを狙え」という戦略を打ち出しました。サッカー・ママとは、サッカーを習っている子を持つ母親のことで、子供の教育や社会活動に熱心だが、政治にはそれほど関心を持っていないという層です。そういう人たちに対して、マーク・ペン氏はクリントン大統領を積極的にPRし、結果的に96年のクリントン大統領再選につながりました。
 そして2004年に行われた大統領選挙では、共和党のブッシュ氏が勝利を収めましたが、この時は「セキュリティ・ママ」が票の行方を左右しました。セキュリティ・ママというのは、子供の安全を最優先事項と考えている母親のことです。普通であれば主婦層は景気や教育など身近なテーマへの関心が高いのですが、この時は2001年9月に生じた同時多発テロが尾を引いていたこともあり、対テロ強硬派とも言うべきブッシュ前大統領に票を投じる母親が多かったと言われています。
 では、オバマ大統領はどうなのか、ということなのですが、先にも触れたように、今の米国内における人々は、ファーガソン事件、ISIS問題、そしてエボラ出血熱で不安が高まっています。いずれもセキュリティと密接に関わっている課題ばかりです。つまり、今の米国で支持率を上げるためには、「セキュリティ・ママを狙え」という視点が大事であり、そのためにはさまざまな難題に対して、果敢に立ち向かう強い大統領というイメージを打ち出す必要があるのですが、残念ながら今のオバマ大統領は、そういう強さとは縁遠いイメージが定着しています。今回の中間選挙の結果が出れば、次の政治的な関心は2016年の大統領選挙に移っていくわけですが、この点は民主党候補者にとってマイナス材料になるでしょう。

そうなると、共和党候補者にとって有利な展開になるということですか。
吉崎氏

 まあ、まだ2年も先の話ですから何とも言えません。今の共和党は、オバマ大統領への不満に対する受け皿になっているようなものです。オバマ大統領は確かに不人気ですが、かといって共和党の政策が国民に広く支持されているわけでもない。現在の共和党は、言うなればティーパーティーやリバタリアン、宗教的保守派などがワーワー言い合っているだけで、政策面や政党としての主義主張に統一性がほとんど見られません。2012年の大統領予備選挙でも、共和党は候補者が乱立し、党内の結束が全く出来ませんでした。
 とはいえ、民主党内でも政策面などで一致団結しているかというと、決してそうではありません。ケンタッキー州の上院選では、共和党の重鎮ミッチ・マコーネル氏と、民主党のアリソン・グライムス氏の戦いになりましたが、アリソン氏のプロモーションビデオでは、手にした銃を撃ち、「I'm not Barack Obama」と言うシーンが映っています。彼女は銃規制や環境規制など、オバマ大統領の政策には反対という姿勢を打ち出しているわけで、日本で言えばまさに造反議員です。ちなみに彼女がオバマ大統領の政策で支持しているのは、オバマケアのみです。
 なぜ民主党内でも一枚岩ではないのかという点ですが、2014年の中間選挙に再選を目指して立候補した民主党議員は皆、2008年の選挙戦で、オバマ人気を追い風として当選した人だからです。そのオバマ人気が凋落した今となっては、むしろオバマ大統領と距離を置いた方が有利だと考えているのです。

オバマ大統領の任期は残り2年ですが、特に日本への影響を考えた時、政策面などで注目されることはありますか。
吉崎氏

 オバマ大統領は、残り2年の任期中に何かレガシーを作ろうとするでしょう。私は恐らく環境問題に取り組んでくるのではないかと考えています。
 ただ、リスク要因もあります。
 来年末、パリでCOP21が開催されます。ここでは、2020年以降の世界の気候変動・温暖化対策の枠組みが合意される予定です。具体的には各国がCO2の排出削減目標を出し合うわけですが、日本は原子力発電の再稼働に着手できていない現状では、何を言っても信用してもらえないでしょう。この点において、オバマ政権の動きは要注意です。
 当面の問題で言えば、11月15~16日にかけて、オーストラリアのブリスベーンで開催されるG20がカギになると考えています。前述したように、米国経済はマクロ面で見ると比較的堅調ですが、他の国は先行き不透明感が強まっています。特に先進国では、ドイツ経済に陰りが見えており、このままだとユーロ経済圏全体がデフレに陥る恐れが生じていますし、日本経済も来年度に入ると、消費税率の引き上げなどによって景気が後退する恐れがあります。このままだと、G20でドイツと日本が被告席に座らされることも十分に考えられます。
 だから安倍首相はこの場で、消費税率引き上げを延期すると宣言してはどうかと私は考えています。もちろん、「引き上げられない」というように解釈されると、逆に日本売りが強まる恐れがあるので、あくまでも「世界経済の回復のために増税を延期する」ということを、きちっと主張する必要があります。
 消費税率引き上げ強行論者の中には、「国際公約なのだから引き上げないとまずい」という論調が目立ちますが、最近の海外の論調からすれば、むしろ引き上げることがクレイジーだと受け止める意見が少なくありません。ですから、安倍首相は「あくまでも皆さんのために消費税率の引き上げを先送りにする」という態度を示すことで、恩を売れば良いでしょう。そうすれば、面目を損なうことなく、消費税率の引き上げのタイミングを延期できるはずです。


吉崎達彦(よしざき・たつひこ)氏

㈱双日総合研究所
副所長
チーフエコノミスト

1960年富山県生まれ。1984年一橋大学卒、日商岩井㈱入社。

広報誌『トレードピア』編集長、米ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て企業エコノミストに。日商岩井とニチメンの合併を機に2004年から現職。関心領域は日本経済、貿易動向、米国政治、外交・安全保障論など。

著書に『アメリカの論理』、『1985年』(新潮新書)、『オバマは世界を救えるか』(新潮社)、『溜池通信 いかにもこれが経済』(日本経済新聞出版社)など。産経新聞「正論」、毎日新聞「時論フォーラム」、北日本新聞「時論」などのメンバー。テレビ朝日『サンデープロジェクト』やテレビ東京『モーニングサテライト』、文化放送『くにまるジャパン』などでコメンテーターを務める。ウェブサイト『溜池通信』(http://tameike.net )を主宰。
2013年度フジサンケイグループ「正論」新風賞受賞。


掲載日:2014年11月19日

 
   
    

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