株式・投資信託・ETF・退職・年金 投資に役立つ「ケイゾンマネー」

証券アナリスト大槻奈那氏に聞く「ソブリンリスクは去ったのか?」- 著名人インタビュー - 東証ETF活用プロジェクト 東証ETF

 

東証ETF・ETN活用プロジェクト [ ETFがわかれば世界がわかる 著名人にインタビュー ]

【第15回】

証券アナリスト大槻奈那氏に聞く

「ソブリンリスクは去ったのか?」

ギリシャショックを機に、EU加盟国にじわじわ広がってきたソブリンリスク問題。リーマンショック後の景気下支えを目的にした財政出動、金融緩和によって、「100年に1度」と言われた危機は一段落しました。しかし、その後を追う形で浮上してきたのが、国債大量発行と景気悪化による財政悪化で浮上してきたソブリンリスク問題です。果たして現状、同問題は解決へと向かっているのでしょうか。今回はUBS証券のシニアアナリスト、大槻奈那さんに、ソブリンリスクの影響について話を伺いました。
昨年はギリシャ危機に引き続き、ハンガリー、アイルランド、ポルトガル、スペインなど、EU加盟国を中心に、財政破綻の問題がクローズアップされました。いわゆるソブリンリスク問題は今、解決へと向かいつつあるのでしょうか。
大槻氏
大槻奈那氏
大槻奈那氏
マーケットの動向を見る限りにおいては、徐々に落ち着きを取り戻しているようにも見えます。
今回のソブリンリスク問題は、2008年のリーマンショックを受ける形で浮上してきました。同ショックは「100年に1度の危機」とまで言われ、非常に深刻に受け止められましたが、先進国を中心に積極的な財政出動と金融緩和を実施したことにより、2009年は世界的に株価が上昇し、嵐は去ったかのようにも見えました。
積極的な財政出動は、国の財政を圧迫します。昨年はギリシャ危機を発端にして、いわゆるソブリンリスクの問題がクローズアップされました。でも、それも今は、かなり落ち着きを取り戻しています。
過去を振り返ると、債券の元利金支払いが滞ってしまうデフォルトリスクは、10年に1度くらいの割合で浮上してきます(図1)。古くは、1980年代にはラテンアメリカ危機が生じ、米国S&L(貯蓄貸付組合)の大量破綻を招きましたし、1990年代に入ってからは、1994年のメキシコ危機、1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア危機、そして1999年のブラジル危機というように、デフォルトリスクは連鎖していきました。
ETFといってもさまざまな種類があります。どういう観点で銘柄を選べば良いのでしょうか。
大槻氏
まず、自分が今、持っている資産をきちっと整理してみることが大切です。いろいろな方の資産内容を拝見する機会があるのですが、共通するのは、結構、同じ資産クラスに偏ったポートフォリオを持っていることです。たとえば、国内株式なら国内株式ばかり、外国債券なら外国債券ばかりというように、特定の資産クラスにばかり投資している傾向があるのです。特に、自分の好みで投資する資産を選ぶと、このように、特定の資産クラスに偏ったポートフォリオになりがちです。
当然、特定の資産クラスにばかり偏ったポートフォリオは、望ましくありません。そのような状況になることを防ぐためには、新しいファンドなどを購入する前に、一度、自分がどのような資産を持っているのかをチェックし、足りないと思われるものを付け加えていくようにします。特に、年配の方のなかには、日本株の比率が高いケースが多いので、外国の株式や債券などに投資するETFを加えれば、バランス良くポートフォリオを組むことができます。
資産運用の第一段階、とりわけ長期投資を前提にするのであれば、バランスの良いポートフォリオを、コアに持つことが大切ですから、日本株に偏っているのであれば、これに外国株式や外国債券のETFを組み合わせる、外国債券ばかりに偏っているのであれば、これに国内株式や外国株式のETFを組み合わせるというように、全体のバランスを取ることが大切です。また、東証株価指数など、同じ株価指数なのに複数のETFが上場されているものもあり、何を基準にして選べば良いのかという点で迷ってしまうケースもあります。この場合は、資産残高と信託報酬率、出来高、乖離率などを参考にして、決めれば良いでしょう。資産が大きく、信託報酬率が低い、そして出来高が多く、取引価格と基準価額との間の乖離が小さい、という銘柄を選ぶと安心です。
図1
図表1
そして今回、ギリシャ危機を発端にして欧州危機が浮上したわけですが、これまでの危機と様相が違うのは、今回の危機ではどこもデフォルトに陥っていないということです。これまでは危機が浮上すると、借金を返済できずに万歳してしまう国が出てきたものですが、今回はどこからも「降参」の声が聞こえてきません。その意味において、今のマーケットは、デフォルトリスクの騒ぎが一服しているところと考えられます。
どうして、今回はデフォルトに陥るところが出てこないのでしょうか。
大槻氏
今のところどこからもデフォルトの声が聞こえてこないというのは、まさに不幸中の幸いといえるでしょう。
このように、長引いてはいるものの、何とかデフォルトにならず、ここまで来られているというのは、EUとIMFを通じて、流動性が供給されているからに他なりません。格付け低下などによって、国債などの信用力は後退していますが、資金繰りが滞っていないため、財政的には苦しい国でも、何とか命脈を保っているのです。
ただ、今は落ち着いている状態ではありますが、まだ慎重に今後の経緯を見守っていく必要があります。
昨年合意され日本も資金を供給した「欧州金融安定化ファシリティ(EFSF)」(※1)などを通じて行なわれている流動性供給は、何となく日本の財政問題に通じるところがあるように思えるからです。日本の財政赤字は絶対額でも、あるいは対GDP比でも、世界の中で最悪の水準にあることは、誰もがご存知でしょう。これにより、1月27日には、日本の国債も格付け会社S&Pから僅かながら格下げされました。それなのに現状、金利水準が低く、資金繰りも危機的な状態にならないのは、日本国債の保有者の大半が日本人だからです。日本人が大量に日本国債を購入し続けている限り、いくら過去最悪の財政赤字を抱えているといっても、資金繰りに窮するようなことはありません。EFSFなどによる流動性供給も、これと理屈は同じです。
ただ、流動性供給は滞りなく続いていますが、EU加盟国が抱えている債務は徐々に膨らんできています。そのうえ、日本に比べて欧州は金利水準が高いので、再び何らかの形でEFSEからの資金供給を受けざるを得なくなった時には、高い金利で資金を受け入れなければなりません。こうした借入 コストの上昇などを含めて、今の欧州を取り巻くソブリンリスク問題は、日本以上に深刻な状況に陥る危険性があります。
「欧州金融安定ファシリティ(EFSF)」(※1)・・・危機に陥ったユーロ圏の国に対する資金提供のための公的な枠組み。ユーロ圏各国の保証付きの債券などを発行することにより、対象国に資金の貸付などを行う。
日本国債がデフォルトに陥るリスクはありませんか?
大槻氏
昨年、ギリシャ問題が浮上した時、先進国の中でも最悪の財政赤字を抱えている日本の国債がデフォルトになる恐れがあるのではないか、ということが盛んに言われましたが、現状、日本国債が近々にデフォルトに追い込まれるようなことはないと判断しています。
その根拠は、日本の銀行の預貸率が過去最低水準にまで低下してきているということです(図2)。預貸率というのは、預金残高に対する貸出残高の割合のことで、この数字が100%を割り込んでいる状態というのは、預金は集まっても、その運用先、つまり貸出先がないということを意味します。
図2
図表2
90年代半ば以降、日本の銀行の貸出残高は、多くの年で前年比マイナスを続けてきました。結果、預貸率が過去最低水準にまで低下したわけですが、そうなると銀行などの金融機関には、預金を通じてお金が集まっても、それを貸し出す先がないので、金余りの状態になります。ただ、そのままお金を遊ばせておくわけにもいかないので、余った資金が国債マーケットに流れていきます。つまり現状では、国債を買わざるを得ない状態になっているのです。
買い手がいる限り、基本的に日本国債がデフォルトに陥る心配はありません。この傾向は、日本がデフレから脱却し預金が減少し始めない限り続くと見ています。ただ、もし将来的にデフレが沈静化するという予想が一般的になり始めると、金利水準は上昇しますから、国債の価格は下落する可能性が出てきます。すると、市場参加者である債券ディーラーなどは、値下がりを回避するために保有している国債を売却してきますから、それが更なる金利上昇を招くことになります。日本国債に対する不信感と、こうした需給動向が組み合わさると、急に日本国債が売り込まれ、長期金利が跳ね上がるケースも考えられますが、現状、そのような事態が生じるリスクは、極めて低いと思います。
今年は、個人向け国債が大量償還を迎えます。加えてゆうちょ銀行の定額貯金も満期を迎えますが、これらの資金移動によって日本国債の需給に影響が及ぶことはありませんか?
大槻氏
大槻奈那氏
1月に個人向け国債が初めて償還を迎えました。2006年に登場した5年物固定金利型の個人向け国債ですが、この償還金額が1兆4,000億円。さらに2011年中だけで、5年物個人向け国債の償還金額は、3兆円程度あります。
合計で4兆4,000億円ですね。さらに、ゆうちょ銀行の定額貯金が9兆円分、満期を迎えますから、個人向け国債とあわせて13兆4,000億円が償還・満期を迎えるわけです。
ご存知の方も多いと思いますが、定額貯金を通じて集められたお金は、国債の購入に回っています。つまり、個人で預貯金にお金を預けている方は、間接的に日本国債を購入していることになるのですが、それらが満期を迎えるとなると、やはり次はどこに回るのか、ということに関心が集まります。
金融機関も、さまざまな新商品を揃えて、待ちかまえているわけですが、恐らく、個人向け国債やゆうちょ銀行に滞留している個人マネーが、雪崩を打ったように、株式市場などに流れていくという状況は、想像できません。恐らく、償還された個人向け国債の資金は、そのまま新しい個人向け国債に。定額貯金の満期金もそのまま継続で預けられていく可能性の方が、高いように思えます。特に、この手の金融商品を保有している層というのは、非常に保守的な高齢者である可能性が高く、そういう方々が、いきなり株式投資に資金を振り向けるというような、ドラスティックな動き方をするとは、とても思えないのです。
そう考えると、確かに今年、個人向け国債や定額貯金が大量に償還されるとしても、国債マーケットに及ぼす影響は、極めて軽微なものにとどまるのではないでしょうか。つまり、これが原因で長期金利が跳ね上がったりするケースは、少なくとも現状では考えにくい、ということになります。
欧州は安定、日本国債のデフォルトも考えにくいとなると、とりあえず世界的なソブリンリスク問題は収束に向かっていると見てよいのでしょうか。
大槻氏
今の状況は、不確実要因があるのにも関わらず、マーケットが安定しているということについては、違和感があると申し上げておきましょう。
前述したように、今の世界金融市場の安定は、大量の流動性供給によって支えられています。結果的に、現状ではどこにもデフォルトが生じていない状態にあるわけですが、仮に、比較的経済規模の大きな国でデフォルトが生じると、一気に流動性が萎んでしまう恐れがあります。
たとえば80年代のラテンアメリカのデフォルトが、米国におけるS&Lの大量破綻につながったり、あるいは90年代のアジア通貨危機が、米国の証券化マーケットを一時的に機能停止に追い込んだり、という事例が、過去にはあります。
更に怖いのは、経済規模の大きな国ではなく、小国がデフォルトに陥った時、思わぬ連鎖反応が生じる恐れがあるということです。特にEUなどのように、経済圏を組んでいるところほど、こういった恐怖の連鎖が加速する恐れがあります。経済圏という構想自体、これまでの経済史には無かったものですから、そのなかでソブリン問題が浮上した場合、どのような影響が生じるのかということについては、まだ未曾有の部分もあります。したがって、今の金融マーケットは、一見安定はしているけれども、一方で不確実性、不透明性が徐々に高まってきているように思えるのです。
クレジット市場というのは、一旦、ネガティブな見方が浮上して、保有債券を売却しようとする投資家が現れ始めると、その方向に多くの市場参加者が流れる傾向があります。ETFなどを通じて債券市場に投資する場合は、こうした債券が持つリスク特性を理解したうえで、投資するかどうかを判断すると良いでしょう。
掲載日:2011年月03月31日
大槻奈那(おおつき なな)氏プロフィール
大槻奈那(おおつき なな)氏
東京大学文学部卒、ロンドン・ビジネス・スクールにてMBA取得。
三井信託銀行(現中央三井信託)、HSBC証券会社等で銀行の投資銀行業務を担当したのち、2000年1月より格付会社S&Pで金融機関等の格付けに従事、2003年より、同社金融機関格付チームヘッド。2005年12月UBS証券に入社、現在、金融機関の債券、株式分析を担当。
共著で、「リテールファイナンス・ビジネスの研究」(2008年、BKC出版)、「ハイブリッド証券入門」(2008年、金融財政事情)、 「S&P日本の金融業界」シリーズ(2001年~2005年、東洋経済)等を執筆



   
    

特集

「証券アナリストの調査手法とこだわり」(全6回)

「証券アナリストの調査手法とこだわり」

証券アナリストの行動パターンをご紹介!個人投資家のリスク回避術を学ぼう。

特集を読む »

おもしろ企業探検隊

おもしろ企業探検隊

平林亮子&内田まさみの「そうだ!社長に会いに行こう」ナブテスコ株式会社

特集を読む »